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吸血の勇者ユーリル  作者: らんた
第六章 闇に蠢く者
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第四話

 妖精族はサーランブルク城の南に住んでいる。人間界の南は妖精族のものなのだ。


 新緑の樹海の入り口でユーリルは笛を取り出し吹いた。悲しい音色だ。


 するとなんということだろう。森が蠢きユーリルのために道を作ってくれたではないか。


 そう、結界を解かないと森をループしてしまうだけなのである。故に気が付かない。


 「カラ、行くよ」


 「ええ」


 ユーリルが妖精族の村に行くと村人はびっくりする。村長のところに案内されるとラゥーラ村長もびっくりしていた。実は村長と言う名の妖精族の国王なのだが。


 「勇者様、そのお姿は」


 蝙蝠の翼が魔族の証である。


 「はい、私は吸血族に負けました」


 「ほかの三人は? マクドネル、ガレス、モルドレッドはどうした?」


 「申し訳ありません、吸血族との戦いで命を落としました」


 「そうか……」


 「しかし吸血族だけでなくほかの魔族をも救う新しい旅に出ることにしたのです」


 そう、吸血の勇者として。


 「村長、お聞かせください。人間時代には聞けなかったことを。この『妖精の笛』を授かった仲間として」


 (言わねばならない)


 「半吸血族がいるって本当ですか」


 「……まずは部屋では話そう」


 部屋に入りお茶が用意された。


 「さっきの話じゃが本当じゃ」


 カラは顔を伏せた。


 「元人間と人間が愛し合ったのじゃ。父は元人間の吸血族、母は人間じゃ。吸血に失敗したのをきっかけにふっと恋に落ちたようじゃの。彼らは国から、両方の国から迫害された」


 「……」


 「それで森に倒れた。妖精族としては黙っておけなかった。彼らは救ってくれたお礼に妖精族の結界を強化したり吸血族の武器を伝授したりした」


 (!?)


 「そしてこの半吸血族が成長して来た。その子と妖精族が結ばれた。その子は妖魔族として生まれた」


 「そう、ですか……」


 「いくら平和主義とはいえ、他の魔族は脅威。だから妖精族というのは人間を襲い、食べることで妖魔になれる。ならねばならんときは……来ることもある。しかしその手法をとらずとも妖精族というのは魔族と結ばれると妖魔として生まれることもあるんじゃ。その妖魔が前の世界で大魔王になったんじゃ」


 ――!!


 「だから妖精族は他の魔族から畏れられてむやみに攻撃してこない」


 「……」


 「村長、お聞かせください。前の世界とは何ですか?」


 「マーズランドじゃ。人間が火星と言ってる星に住んでた。大魔王の恐怖政治に耐えかねてこの星に空間移動してきた。もっとも人間がよく召喚魔法を唱えてたからまったく違和感なかった」


 (酷使されていた?)


 「それでこの星の人間族の領土を進撃したんじゃよ」


 「え? ちょっとまってください。じゃあ『マーズランド』に人間は居たんですか。吸血族は人間の血を吸わないと……」


 カラは戸惑った。


 「居たんじゃよ。人間牧場という形でな」


 (人間牧場!?)


 「勇者よ、同じ過ちをこの世界でするのか? 人間界の王国すべてを『人間牧場』にはせぬよな?」


 「しません! わが命にかけて」


 「それを聞いて安心したわい。話を続けようとするかの?」


 そう言って村長はカップにあるお茶を飲んだ。


 「そしてこの星を拠点に大魔王を倒したんじゃ」


 「なんでこの歴史を伝えてくれないんですか?」


 「今からもう七二年前になるが、大魔王の力が暴走して壊滅したからじゃ」


 (なぜこんな重要なことを知らないんだ?)


 「かつて魔族は召喚魔法で人間に酷使される存在だった。マーズランドから強制的に魔法陣で呼ばれて……そしてマーズランドの中でも魔族は争ってた。吸血族は隙を見て人間をさらってマーズランドに連れて帰り人間牧場を作った。理想的な環境にして、表向きは孤児院と言う事にして。もちろん、健康診断と称して幼少期から血を抜き取っていた」


 (そのころからの伝統芸か)


 「そんなマーズランドでもう人間にこき使われるのはもうたくさんというものが出た。それが我々妖精族から進化した妖魔族じゃ」


 村長は紅茶を飲みカップを置いた。


 「名前はザルボス。召喚された人間に凌辱・虐待されてやむなく人間を殺し、そして人間を喰ってしまったエルフ族じゃ。妖魔族によるマーズランド統一後は……逆らったものは容赦なく処刑とした。貧富の平等を絶対とし、貴族制度も廃止となった。混乱に陥ったマーズランドは国民が一丸となって転移魔法を唱えた」


 じっと二人を見る。


 「それが『突然それを切り裂き、魔族が侵攻して来た』とされる事件じゃ。そしてこの星の大部分を侵略した。ただし人間の絶滅は吸血族の絶滅になるのでそれだけは吸血族が防いだ。そして転移魔法を用いて討伐隊を結成し、大魔王ザルボスを討伐することにした」


 (魔王討伐は、魔族がやった事?)


 「妖魔族なんてたったの八人しかいなかった。それでも我々は苦戦した。その時大魔王ザルボスは究極魔法を使い、自爆した。マーズランドは死の星と化した。今でも魔族ですらマーズランドには長居は出来ぬ。急性魔素中毒になって死んでしまう。以来、この星マザーランドが魔族の新たな故郷じゃ」


 ――まあ……。


 「そして妖精族は妖魔族を出した種族として監視されてしまった。そして案の定、妖魔族が出たんじゃよ」


 「村長、妖魔族と半吸血族は今どこに住んでるのですか?」


 「このサーランブルク山脈の頂上付近の洞窟に居るとされる」


 「カラ、行くしかねえな」


 「ええ」


 村長とのお茶会は重い沈黙が流れた。雨が降って来た。悲しい歴史を聞いた後だけに雨の音も悲しく聞こえた。


 「負けるぞ、勇者。彼らは一人で一国の軍隊並みの力を持つ」


 「争うのではありません、村長。説得しに行くのです。共生の選択をお願いしたいと」

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