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吸血の勇者ユーリル  作者: らんた
第六章 闇に蠢く者
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第一話

 闇に蠢く者が居た。冬から春になろうとしていた。草木が芽生え樹には花が咲く。


 闇に蠢く者のまなざしはキマイラに向けられている。


 まだ成獣になっていない。牛と蛇と羊のキマイラであった。尾の部分が蛇となっており背には羊の頭が出ている。明らかに魔獣に変異した生物だ。羊が新緑の草をむ。


 ――無防備の今がチャンス!


 闇に蠢く者は樹木の上から闇夜に急降下してキマイラの首に牙を突き立てる。


 そして悲鳴が草原に響く。獲物がどうと倒れる。


 そして闇に蠢く者は勝ち誇ったかのように草原で雄叫びをあげた。すると軋むような音を立てて翼がより強固なものに変貌する。


 そんな姿を見た者が居た。視線に気づいた闇に蠢く者はゆっくりとうれしそうに首をめぐらせた。


 「くっ……くっ……くっ……」


 顔を伏せながら肩を揺らす。


「み……た……な?」


 次の獲物を見つけたとばかりに闇に蠢く者は牙を剥きながらうれしそうに言った。


 「ええ、私も時々そうなることがあるわ」


 カラであった。


 そして闇から出て来たのはユーリルであった。さすがに今度は血を拭った。


 「あなた、相手が人間だったらどうするの?」


 「敵じゃない限り吸血は出来ねえな。もっとも自分の正体を言いふらす奴はこの限りじゃないけどな。というか今日は俺が吸血鬼になってちょうど一年だ。自分へのお祝いにと思ってな。だから獲物を狩った」


 「そう……」


 カラは複雑な顔をした。


 「ところで討伐の命令が来たわ。海魔族の討伐命令よ」


 「そうか。それでこの冒険も終わるのか」


 「まあほとんど終わるわね」


 カラの目つきが敵意に満ちていた。カラの父の仇が目の前に居るからだ。そしてカラの父の命日めいにちは今日であった。


 「妖精族は人間やほかの魔族とは敵対してないし」


 「そうか、終わるのか……俺、人間界に戻れるのかな?」


 「自分が今してた行動をよく考えて。出来ると思う?」


 「そうだよな……俺はもう魔族なんだよな。親にもう会えないんだよな」


 「たぶん、君は死んだことにされてると思うよ。実は君の墓が故郷にあるって営業マンから聞いた」


 「そうか……俺はある意味死んだんだな」


 吸血鬼として一人前に成長した己の翼を見る。


 「故郷に戻ったら君は迫害されるよ。というか共に生きていけない。このままだと」


 「そうか……」


 思わずユーリルは空を見上げた。


 闇に蠢く者は赤き瞳から思わず雫を落とした。


 「会えないわけじゃないよ。闇からそっと両親を見守ることはできるよ。それが闇に蠢く魔族の宿命」


 「そうだよな」


 ユーリルは吸血鬼になってから一年。二年目の吸血の勇者の生活が始まった。

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