第二話
援軍が来たときは一目散に逃げた。氷の乗り物に乗って空を飛び逃げていく。
竜族と獣人族の軍隊が吸血族の王城に入っていく。
「こりゃ、浄水場から除染しないと駄目だね」
リー・ファンが言う。
「水魔族ってこんなに強かったかな?」
獣族の将軍が首を傾げた。
「いや、侮ってはいかん。人間風の鎧を着て中身はスライムと言う奴がざらにいたぞ」
どこからそんなもんを仕入れたんだ?
「スライム同士がくっついて巨大化します」
(聴いてないよ!? 合体できるんかい?)
ユーリルはスライムを舐めていた。危うく人間時代に「スライムごときに倒される雑魚勇者」という称号をもらうところであった。
「普通に高度魔法を唱える奴が居ます」
「そうか」
(我々はスライムに負けたのだ)
ゼーマ王はうなだれた。負けたというショックだけでなく「スライムに負けた」事の方が衝撃であった。あの、弱小魔族に……。相手にもしなかった部族に、だ。
しかも水質検査に時間がかかった。
この教訓を生かし、獣族の領土にも工場を作る必要性が出た。
復旧までは竜族が運んでくる水でどうにか凌いだ。約一週間ほど吸血族は蛇口をひねり定期的に水を流し中和剤が流れていく様子をじっと見ているしかない。水道水があるのは「当たり前」じゃないのだ。水道水を直で飲めるということは吸血族にとって当たり前らしく井戸から水を汲んでさらに煮沸して飲むという行為が屈辱的に思えたらしい。人間にとってはそれが普通の行為であり貴族以上は煮沸した水を冷ましてさらにウォーターサーバーを通してろ過して飲むのだが。そういえばこの国はウォーターサーバーがない。よく考えたら吸血族が作った上下水道というものは驚異的な社会インフラだ。同じことを思った吸血族がやっぱり居たらしくウォーターサーバーをわざわざ人間界から持ち込んだ奴がいた。
(水魔族・氷魔族……両国の根本を叩き潰さないと駄目だな)
◆◆◆◆
一方、水魔族・氷魔族連合軍はお祭り騒ぎとなった。
特に水魔族は氷魔族のふもとの山が居城である。水妖もここを拠点にする。これまで両者はいがみ合ってきた。それが間違いだったのだ。お互いが協力し合えば強固な魔族にも勝てる。人間に狩られずに済む。
水魔族の王、ヴァダラムはこう叫んだ。鋼の鎧を着ている。面頬も被っている。まるで人間だ。が、中身は水色のスライムだ。
「我らはこれより勝利の道を歩む!!」
歓声が広がった。