第九話
二人は面頬を外した。もうここは吸血族の領土、顔バレを心配する必要はなかった。二人は面頬を懐にしまった。
「ねえ、これで脅威は無くなったんだよね」
そう。もう敵対部族はいないはず。
「そうね、もうほかの魔族の脅威を受けなくていいわ。海を支配する海魔族はともかく」
「ほかには魔族ってどんなのが居るの?」
「まずは妖精族ね。これは勇者も知ってると思うけど人間にも割と好意的だし他の魔族ともあまり交渉を持たないわ」
「知ってる。妖精族の村に招いてもらったこともある」
(半吸血族と妖精族の間に生まれた妖魔族が居るなんてユーリルにはまだ言えないわ。とはいえ五名ほどしか居ないみたいだけど)
「次は水魔族。これも勇者なら知ってると思うけど俗にいうスライムよ」
「スライムか。楽勝だな。序盤戦でよく戦ったぞ。へえ、水魔族って王国持ってるのか」
「ダメよ、侮っちゃ。人間を酸で殺せるのよ。もちろん吸血族や獣族も」
「次は氷魔族。極地や高山に居るわ。彼らは手ごわいよ。だって血液まで凍らせて吸血族を殲滅できるんだからね」
「よくそんなのに殲滅させられなかったな」
「だって、ここじゃ氷は溶けるもん。でも逆に彼らの領地に行ったらかなり苦しい戦いになる。あまり関わりたくないわ」
遠すぎてあんまり縁のない魔族だ。
「次に炎魔族。ほぼ活火山にしか生息できないと思ったら大間違い。岩に命を吹き込んで火山帯以外でも生息可能な魔族よ。一見すると炎と関係ない魔族に見える」
「居たなあ、そんなの」
「そもそもカラ、この世界に来る前はどんな世界だったんだい?」
「……まだ話せないわ」
「何で?」
「そのうち分かるから」
吸血族はこうしてこの世界の半分を事実上支配することとなった。
この先、どうもまだ戦いがありそうだなとユーリルは嫌な予感がした。
「平和的に交流したいもんだな」
「ええ」
クローフィー城に戻ると勇者たちは凱旋の祝福を受けた。
<第四章 終>