第八話
「ユーリル!」
王城の廊下で呼びかけたその姿は全身黒装束に闇の面頬を付けていた。もちろん蝙蝠の翼を出していた。手には血魔の杖。まさか……!
「あ、声が変わっていたのね。今外すから」
そう言って面頬を外すとカラだった。
「私も人間の王国に偵察に出てたからね。顔は知られたくないかな」
そういって闇の面頬を付けなおすと暗黒魔導士の姿そのものの姿に戻った。
「いい? 二人しか『死魔消滅』の呪文は使えないの。あとは骸骨兵を壊すことができるけどすぐに復活するわ。壊れた骸骨兵の核を壊すのよ」
二人は王城のベランダから飛ぶ。なんとたった二名での進撃であった。セミの音が響き樹木が生き生きとしていた。吸血族の飛ぶ速度は速い。光景が徐々に変わっていく。樹木が消え……草原が消え……あっという間に北部の砂漠地帯に到着する。ここには「死」しかなかった。灼熱が二人を襲う。なのでなんと微弱の氷魔法をなんと味方であるユーリルにカラが浴びせた。そして水筒も持ってきた。
「熱中症の方が骸骨兵や死霊兵より怖いからね。これは電解質を補給するための水。ただの水じゃないから」
「電解質?」
ユーリルはまたも初めて聞く言葉に戸惑った。
「体液に近い成分の水。これを飲めば熱中症にはなりにくいわ。見て」
カラが持ってきた温度計がなんと「45度」となっていた。人間も吸血族もその他の魔族にとっても生命維持が危険な温度である。だからこの地は誰も攻略出来なかったのだ。
吸血族は次々骸骨兵や死霊兵を撃破する。しかし完全消滅できるのは二名だけだ。
「なんで『死魔消滅』をほかの奴にも覚えさせないんだよ!」
疲れてきた勇者。もはやただの作業だ。
「仕方ないでしょ!! 死霊族なんて敵じゃなかったんだもん。まさか人間族に進撃するなんて思っても居ないわよ!」
吸血族らは人間の王国から、後ろから攻撃されるのではという心配もあった。だがその心配は杞憂だったようだ。
そしてどんどん死霊族を消滅させていく。
死霊族の王城が見えて来た。
王城の敵をあらかた撃破するとなんと地下牢に四肢が繋がれている人間を発見した。
「大丈夫か!?」
ユーリルが駆け寄る。
「貴方は別の魔族なんですね。お願いです。私を安らかに逝かせてください。実は……」
その内容を聴いてユーリルは衝撃を受けた。
「カラ。子供だけ降してこの娘だけ救う事は出来ないか!」
「出来るわ」
しかし、娘はかたくなに拒んだ。
生きて辱めを受けたくないと。
「カラ。後は頼んだ。俺は殺せない」
(これが、人の心を取り戻したが故の心の痛み……)
「分かったわ。ユーリルは王の撃破をお願い」
「楽にしてあげる」
闇の面頬から発せられた声は氷の声であった。
ユーリルが地下牢を後にすると強烈な炎の音がした。そして『死魔消滅』の呪文の声も聞こえた。
死霊族の王であるゾマは謁見室に居た。黄金の鎧を着ていた。死霊の騎士そのもの!
「お前は誰だ!!素顔を見せろ!!」
が、足は震えていた。
「終わりだよ、おまえは」
剣を構える。
「死者が増えたら自軍が増えると思ったのか。甘いね」
闇の面頬から発せられた声は鉛の声であった。
「光爆雷呪!!!」
呪文を唱えると玉座ごとユーリルは消滅させた。
そして『死魔消滅』の呪文を唱える。
「死霊族の生き残りは居ないか?」
「いないわ」
「ここは吸血族の直轄地にするぞ!!」
竜族の隣にあった死霊族の国はこうしてあっけなく滅んだ。
緑の大地に戻ると虫の音がカナカナと鳴っていた。季節は秋になろうとしていた。




