第六話
勇者はこれを機に様々な人と会話した。
勇者に対しまだ恨みを持っていた者。
恨みから憧れに替わった者。
まるで無関心な者。
様々であった。
贈り物も様々であった。
おもちゃ、武具、陶器、花。人によってさまざまである。
会話がぎこちなく終わってしまうものもあれば勇者の話、特に戦術を詳しく聴く者も多い。
勇者は釣りはもちろんのこと。チェスや料理を覚えることとなった。チェスは大幅に上達したが料理はまるでダメだった。
そしてついにユーリルは「死魔消滅」の呪文が使えるようになった。
「やったね!」
歌姫の笑顔は吸血鬼に……やっぱ見えない。
「この魔法は死霊族にしか使えんから覚えるものが少ないんじゃよ。これで講義は終了じゃな」
「ユーリル様大変です!!」
衛兵が走って来た。
「どうした?」
「死霊族が人間の国に進撃しました!!」
ユーリルはその話を聞くとすぐに謁見室に向かった。
するとゼーマ王は勇者に『闇の面頬』を渡した。
「付けてみよ」
ユーリルは跪き言われるがままにうやうやしく両の手を差し出して面頬を受け取った。面頬を付けると己の顔にぴたりと付いた。仮面の貌は強欲とも血液を求める己の心をうまく表現しているとも言える顔となった。吸魔の鎧や吸魔の兜と一体化する仮面だった。信用された証だ。
ユーリルの声が変わった。まさに魔族のそれだ。
「これで勇者の顔も隠せる。勇者よ、絶対に人間には知られるなよ。まだ己の存在は隠せ。隠したうえで人間族も救え。いいな」
「はい」
その声は吹雪のような声であった。
「『死魔消滅』の習得は間に合ったか?」
「はい」
「ではカラと行くのだ。ミラは万が一のために王城に残る。なにせ『死魔消滅』を唱えられるのはもうお前を含めて三人しか居ない。それと面頬を付けてる間は吸血はできん。我慢するのだ」
「承知」
さっそくすくっと立ち王に頭を下げて謁見室を出て自分の部屋に戻った。吸魔の鎧と兜も強化されていた。吸魔の鎧を付けて翼を出し改めて闇の面頬を付けて自分の姿を確かめる。鏡を見ると明らかに勇者は闇の者、暗黒の吸血戦士そのものの姿であった。
この己の姿を見てユーリルは思わず三日月のような笑みを皮肉そうに浮かべる。すると仮面の貌に似た同じ口角となった。そう、仮面の貌は口が裂けている絵なのだ。
(俺は人として死んだはずなのに人としての心を取り戻した。じゃあ「人」って何だ? それにどう見てもこの姿は闇堕ちだしな)
ユーリルは思わず鞘から剣を抜き鏡に向かって剣を振ってしまった。剣を鞘に納める。鏡の向こうの自分が人間族のままだったらきっと今の己を殺しにかかって来るに違いない。《《幸いにも》》鏡の向こうの自分は闇堕ちした暗黒戦士のままの姿だ。
そのまま勇者は出陣した。きっと今度の戦いは本当は己との戦いに違いない。