第五話
「私ね、あなたが怖かったの」
カラはソーラーを持ちながらゆっくりとお茶を飲む。
「だって、吸血鬼になって吸血鬼の王様に、この国を救ってくださいといわれて『はい分かりました』なんていう元人間、そうそう居ないよ?」
「そっか……」
「ちょっと、カラちゃん!」
歌姫はさすがに止めた。
「黙ってなさい。続けて」
教授はむしろ聞くべきと歌姫を制止した。
「普通の元人間は吸血鬼になって苦悩するものよ。しばらくの間は。もちろん吸血しないと気が狂うし、気が狂ったらほかの吸血鬼が始末するという苦しい選択が待ってるのだけど」
重い空気が流れた。勇者がようやく口火を切った。
「『勇者』ってのはな、名前こそかっこいいが実際はただの暗殺者だよ」
暗殺者、という言葉にびくっとするカラ。
「普通、国を攻めこむときは正規軍を使うんだ。内密に潜り込んで王を討つなんて暗殺者だ。だから鉄の心で使命に挑む。だから僕が残酷なのは当たり前だよ。もっともただの暗殺者じゃなくて世を救うという二つの使命を果たすのが『勇者』だ」
――でもな
「勇者の後ろには屍の山だよ」
「……」
「それに吸血鬼になってある意味良かった」
「どういう事?」
「このまま王を討って凱旋しても、魔王級の脅威を人間の王や貴族が放っておくかい?」
「「あ……」」
「だから下手すると『勇者』も凱旋パーティーで暗殺。よくて新天地と称した開拓辺境地の領の諸侯になるのがぜいせいだ。勇者なんてのは生贄なんだ」
それを聞いて全員沈黙した。勇者はそんな痛みを持ちながら戦っていたのか。やがてカラが空気の流れを変えるべくユーリルに贈り物を差し出した。
「これ……」
「これは?」
「ベルガモットティーの茶葉が入ってる缶」
(へえ)
「勇者、もっといろんな人と会話して、話合おうよ」
「ここは大学や王城や寮だけじゃない。釣り堀もあるし盤上遊戯で遊ぶ場所もある。遊びも大事だ。じゃないと潰れるぞ、勇者。そのために茶葉使って話すんだ。贈り物も大事だぞ。何を贈るかだな」
(へえ。教授……茶会ってそんなものだっけ?)
男爵という最下級爵位出身の勇者にはちょっと想像出来なかった。
「人によって贈り物を変えるのよ」
カラ、やっぱそういうもんか。いうのは簡単だけどねえ。
「人の痛みが分かる奴って、本当は強いんだよ」
歌姫……だからそんな表現できるのかな?
「今日は、本当勉強になるな」




