第三話
「そんな……」
聖属性魔法演習室にいるのはユーリルも知っている有名人であった。
「びっくりしたかな? 歌姫のミラさんだ。卒業生だ。君のために私が呼んだ」
「よろしく」
「君は、有名な歌姫」
「そう。歌姫として人間を偵察してたわ。夜はこっそりと血をいただきながら」
教会に居て時々歌ってた人物であった。衝撃だった。
「聖職者の血ってけっこう……うまいのよ」
嗤いながら蝙蝠の翼を出し牙をはやすミラ。
そして聖歌を歌った。それが、本性……。ユーリルにとって何かが崩れる音がした。
「吸血族って元人間が多いのよ。人間が知ってる魔法を知ってて当然でしょ?」
もう人間界は既に吸血鬼に占領されてるのでは?
「その前にお茶会をしない?」
「何で?」
「ハーブティーって聖属性魔法を増幅させる効果があるの」
「へえ」
「じゃあ、さっそく始めようか」
「まさか魔法を鍛える前にお茶会?」
「いけないかね?」
教授が釘を刺す。
「勇者、魔法と言っても聖属性魔法はただ鍛えるだけじゃダメなの」
「魔導書ならここにある。でも鍛えればいいってもんじゃない。呪文を覚えるだけでもだめだ」
(それは俺が一番苦手とするタイプの修練では?)
◆◆◆◆
テーブルにはお菓子がたくさんある。そして高級そうな陶器。空を見るとそして緑色のお茶だ。なんか夕方雨降りそうな雲が沸いてるなあ。テラスでお茶だなんで人間時代以来の行為だ。
「どうぞ」
教授が勧める。
「それじゃ」
「ダメよ、勇者。それでも貴族?」
「え?」
「お茶会ってのはマナーがあって……」
こうして勇者はお茶会のマナーを身に付けることとなった。まあ、貴族出身なのにマナーを身に着けていない俺が恥ずかしいんだけどね。でも男爵の爵位なんて「ほぼ平民」って意味の爵位だしなあ。
「ところで勇者、死霊族の核を壊すのだが……魔力は大した魔力を使わない」
「へ?」
「この世に未練を残した部分を消去するんじゃ。それが『死魔消滅』の呪文。だから魔力じゃないんだよ。『心』なんだ。呪文はこのように簡単じゃ。読むだけなら。発動できるかどうかは別だ。カラにも聞いてみるがよい。なぜ『死魔消滅』を使えるのかと」
「お茶会に必要なのは人の痛みを知る事。そのためには人の話を聞かないとね」
(そんな……歌姫、そりゃないよ)
「それとこの術の習得には死者を弔う気持ちも大切だ。さっそく君の仲間の墓に行こうか」
三人はマクドネル、ガレス、モルドレッドの墓に行き、そして祈りを捧げた。
「死者を救う気持ちが分かったかね?」
「ええ、少しは」
「彼らの死を無駄にしないようにしてほしい」
(分からない……死者を弔う気持ちなんて誰もが持ってるもんでは?)