第二話
セミの音が響く。ユーリルの「学校なんて嫌だ」という声を代弁するかのようにセミは鳴いていた。
(聖属性魔法か……)
(俺、僧侶に任せきりだったなあ)
(というかマンツーマン教育で学校なんて行ったこと無かったし)
(人間界は貴族なんて家庭教師だもんな)
ユーリルは人間時代……小貴族の家の出身だった。男爵という最も低い地位だったが。
学校に着いた。医学部、薬学部、歯学部、医療技術学部の4学部体制だ。
医療技術学部看護学科の棟に行く。やっぱ大学内でも冷房は効いていた。人間の土地に戻ったら冷房なしで生活するのか。ちょっとやだな。聖属性魔法は看護の領域だ。といっても看護学科の全校生徒はたったの二〇名なのだが。
『聖属性魔法担当教授ダーラ』というドア前に貼ってある文字をユーリルは確認する。
「あのー、ダーラ先生初めまして。ユーリルと申します」
教授室をノックして入るユーリル。
「君か! 元人間の吸血族にして勇者は」
「はい」
「吸血鬼が聖属性魔法なんて驚きかね。ああ、私の名前はダーラだ。よろしく」
「はい、十字架におびえるとか聞いてました」
「そりゃない」
即答だ。まあ、ね。
「逆に人間にどうしてそんな伝承が広まったのか知りたいぐらいじゃ。そもそも血というものは神聖なもの。血の研究を極めることで聖なるものに到達できる」
(へえ)
「このクラスは超少数精鋭だ。選ぶ人もほとんどいない。というか今年度は君しかいない」
「へ?」
「だってこんなもん覚えても人命救助にならないじゃろう。だから特別講義枠の単位なんじゃ」
(マンツーマン教育じゃん! やった! 貴族時代の教育と変わらない!)
「近年だと『聖属性魔法特別講義』なんて履修したのはカラちゃんぐらいかのお」
(え?)
(カラは聖属性魔法を知っている!)
「じゃあさっそく教えるか」