~序~
砂漠に広がる死の大地でも闇が蠢いていた。昼の砂漠……まして夏は人間どころか魔物が生きる気温ではない。しかし夜になると下手するとこの大地は氷点下にまで下がるのだ。ここは文字通り「死」が支配する地であった。西に竜族の国、北には山岳地帯があり氷魔族などがいる。南に吸血族が居る。天然の要塞に守られている。さらにこの地帯だけ雨がめったに降らない。緑地なんて海辺の近くにあるかないかだ。国境線すら確定していない。彼らが攻める時は他の魔族の墓場を拠点に蠢く。時には死体を動かして自族に引き入れてしまうことまで可能だ。だから他の魔族もこの地にはめったに近づけない。この区域に入る事は死霊族になる可能性が高いことを意味する。死霊族は魔族の間ですら特に忌み嫌われる存在だ。ゆえに無人地帯の砂漠で……特に夜に蠢くのだ。王城は洞窟の中にある。王城は見栄えと違って絢爛豪華だ。そんな冷酷な大地を支配する者が冷酷な声を発した。
「なんだ、獣族は倒されてしまったのか」
「はい、そのようで」
骸骨が言った。
「このままでは吸血族がこの世界の覇者に、ゼーマ王が大魔王に君臨することに」
「ならぬ!」
砂漠に広がる大地にそびえる王城で骸骨が吠えた。
「はっ」
「この死霊族の王であるゾマが許さん」
「もちろんです」
「人間や獣族の肉を植えこむことで我らの肉体が復活するのだからな」
自分の体をさするゾマ王。
「戦争で死んだものどもの骨をかき集めたか?」
「いつも通り準備完了です」
「戦争になればなるほど我らの勝利」
ハイエナ呼ばわりはむしろ誉め言葉。
「吸血族とは血肉を奪い合う天敵。まさかこうも早く対決の時が来るとは……東の御方の助力を得れば我らの勢力は最有力候補よ」
そのためには戦力を増強せねば。
「それはそうと人間の血肉を得たと?」
「はい」
腐肉が潰れる音がする。
「これはいい。ただでさえ不死なのにさらに強くなるぞ」
「はい」
「そして人間を死霊族にさせてしまえ」




