第十七話
サーランブルク城手前のサノル村までやってきた。さっそく宿を取る。雨が降って来た。やれやれ。間一髪だ。手続きを済ませ共同浴場に入り綺麗にして夕食も食堂で食べる。一息つくとカラの部屋をノックした。女の宿部屋に入るのはまずいので待合室に出た。
「なあ、ずっと疑問に思っていたんだけど」
雨の音が聞こえる中ユーリルが勇気を小声で出して言う。
「なに? 勇者?」
カラが聞き返す。
「吸血鬼って『製薬会社』従業員にさらに城下町に城内の人口がいるんだろ?」
「そうよ」
「こんなに多数の吸血鬼を養うためにいったい人間の血をどうやって今まで確保してたの?」
カラがじっとみつめた。
「……聞きたい?」
「もう俺吸血鬼だし」
一呼吸置くとカラの声はますます小さくなった。
「この村もそうだけど深夜にまず睡眠魔法をかける。次に睡眠薬を飲ませる。そのあと注射器で人間の血を抜き取る。これは言ったよね?」
「うんうん」
「ローテーションで毎日いろんな村を回る。村以外にも農家などもこっそり血を頂く」
(ローテーション制!?)
「……凄い」
「だから人間は気が付かないうちにとっくに吸血されてたんだよ」
(ということは人間時代の俺も、なのかなあ)
「ただし領土を拡大したかったり、吸血鬼の人口を増やしたいときは……本性を現して村を滅ぼす。特に病魔に侵されて弱っている村を深夜に襲う。貧困で多産多死の村がそうね。どのみち死にゆく命……もらい受けるわ」
(カラ……怖ええよ)
「一人一回吸血する量は百ミリリットル。要はコップ半分ね。一回吸血したら最低でも一か月待機しないと健康を害するから吸血できないんだ」
(へえ!)
「だから養える吸血族の人口はせいぜいMAX二五人。今だと一五〇人くらい」
「そっかー」
「サーランブルク城も当然吸血の対象よ。が、ある日深夜に城外に出ていた町民にばれた。城外まで睡眠魔法は届かないから」
(それまでは見られてなかった?)
「それでサーランブルク王国は存亡の危機を感じて討伐隊を結成した。勇者、君たちの事よ。即日通報となったようね」
(存亡の危機も何ももう城内に吸血鬼が侵入してるやんけ)
「勇者らが倒した吸血鬼は約五十人。吸血族は壊滅寸前。下手な人間の軍隊よりもあなたはある意味強い」
「……」
そう、勇者らはたった四人で実に五〇人以上もの吸血鬼を討伐した。子供も容赦なく……だ。
「もうこんな悲劇は止めないとね?」
(すまねえ)
「勇者、今はここまでよ。言える事は」
「うん」
「明日、ユーリルはここで待機ね。王城に行ったら『お前は負けて帰って来たのか!』って言われるのがオチだから」
(そう……だよね)
雨の音だけが響く中、カラはそっと自分の部屋に戻った。