第十六話
二日も早くサマンサ村に着いたのは正解であった。
なぜなら「治った」と思い込んで安静にしていない村人がいたからだ。
「ダメです。安静にしてないと」
またちゃんと服薬していない人も一定数見られた。カラが注意する。そうやって人間族の病を治療していたのか。そういえば旅の途中でそういう薬師団がいた。その正体は……吸血鬼だったのだ。
「感染しちゃいますからちゃんと飲んでくださいね」
ソータがゆっくりやさしく言う。
一行は仕事を終えると宿屋に戻った。
「おいおい、医者の指示守って無い人多すぎるぞ」
シータが呆れる。
「これじゃ完治はさらに先になる人もいるんだろうな……でも人間なんてそんなもんだと僕は思うよ」
セータが言った。
(そうなのか? 吸血族だって似たようなもんだと思うけど? それとも吸血族の大半は医学に精通してるからやっぱり保健意識が高いんだろうか?)
ユーリルは少し疑問に思った。
◆
「仕事は私たちがやりますから!」
「「ええ~っ!」」
「しょうがないじゃない。だって農地がとか仕事がって言うんだもん。私たちが代行しないと」
(そこまでして血が欲しいのか)
翌日、村人を服薬させてから仕事に入る。
「俺、農作業したのはじめてだ」
吸血鬼になって体力が劇的に向上したとはいえ長時間仕事すれば疲れる。
「明日には医者来るから」
「今日だけの辛抱だから」
みんな愚痴を言いながら今日と言う日が終った。
次の日、医者がやってきた。
「抗体出来てるか血を採りますよ~」
やっとのことで念願の血が手に入る。検査用と飲料用の血をそれぞれ採取する。
本来なら襲えばすぐに済むものを、こんなに苦労してやっと血を手に入れたのである。
「検査の結果は一週間後ね」
「抗体出来てない人はもうちょっと安静にしてね」
ほとんどの村人は治癒していた。
「あ、ありがとう」
「また来てくれよなー!」
「抗体なかったら困るしな~」
こうして勇者一行ははじめて人間の信頼を得て人間の血を得たのである。