僕は死んでない!
全ては終わった。
吸血族に保護された人間二〇名は十九人妖魔族の子供でないことが分かり、無事人間族の国に帰された。一人は残念なことに妖魔族の子であった。降ろすしかなかった。遺体は反魔素物質の箱に入れられた上で墓を作った。
人間族に帰すことを条件に国際会議に人間族の王も加わる事が条件となった。
その時吸魔の鎧を着た暗黒騎士も居た。蝙蝠の翼も出している。
暗黒騎士は人間の王に近寄り面頬を取った。
「王、お久しぶりです」
「そなたがユーリル……」
間違いなくユーリルであった。
「私は一旦負けました。しかし、今は真の勝利を得たのです。もう魔族同士も人間と魔族の争いもやめるべきだと」
「そうか……。同感だ」
国際会議の場にはベルナルド王、としてユーリル王、そしてゼーマ王もカラも居た。議場にもう一人居た暗黒騎士ことカラも翼を出したまま面頬を取った。
ここでかつて吸血鬼討伐命令を下したベルナルド王を不問にすることと、国際協調が幕を開けたのだ。また約五百名戦った連合軍のうちなんと八七名もの死者を出したことについて家族に生命保険とは別に特別慰霊金を給付することが決まった。マーズランドについては炎魔族の探査が決まった。マーズランド全域は誰の物でもないという完全中立地帯条約が結ばれた。「国際牙条約」という献血条約も結ばれた。またクレシェンテ王国の承認決議も全会一致でなされた。カラが全員に頭を下げる。
魔素中毒地域の回復も決まった。クレシェンテ王国の王はカラが女王となることに決まった。妖魔族討伐の褒美としての処遇であった。ユーリル港湾都市はユーリル王国と名称変更になった。
会議が終わった後にベルナルド王に再び会う。
「ユーリル、そなた、故郷に行きたいと」
「はい」
「吸血族の王の討伐は出来ませんでした。しかし妖魔族の王の討伐は成し遂げました。そして私の親に会いたいのです」
たった一年の出来事であった。なんと長い一年であったか。
「良いが、どんな結果でも受け入れる覚悟は出来てるか?」
「出来てます」
(親に会いたいがために嘘を言ってしまった……)
◆◆◆◆
ユーリルの横にはサラが居た。自分が留守だった時も国を管理してくれたのだった。そして大事な事を親に伝えなければならなかった。そして例の墓のことも。季節は冬になっていた。もうぐすユーリルの誕生日が迫っていた。
何もかもが懐かしい。自分はこの山で遊んだんだっけ。
しかし人間の眼は冷たかった。中には扉を閉める人も多かった。吸血鬼である事を隠さずに行った。翼を出している。だからなおの事だろう。
「ごめんよ……」
ユーリルは申し訳なさそうにサラに言った。
「大丈夫。こんな事、予想してた」
もちろんベルナルド王近衛兵の従者も居るので大事には至らない。
「ここです」
従者が連れて行った先にあるのは自分のかつての家だった。そう。ユーリルの家は小貴族とは言え男爵の爵位を持つ。この村を領土とし小さいながらも農家もいくつも持つ貴族である。邸宅とも言ってよい。小貴族だからメイドを雇う余力はないが。
従者が門を叩くと懐かしい顔が。父サーリル、母クーリル、弟スートルの顔が。
「入りなさい」
父サーリルが言った。
重い沈黙が流れる。自分は人間として死んでしまったのだ。しかし同時に国王にもなったのだ。そしてサラと結婚することを伝えた。
「結婚は認める」
「お父さん、ありがとうございます」
「誰がお父さんだ!」
ユーリルはびくっとなった。
「人間としての、ユーリルは……我が子は、死んだ! 結婚式には行かない」
「私も行けないよ。でも幸せにね」
(お母さん……)
「墓石は持っていくがよい。だが、お前はもう親子じゃない!」
その声にユーリルは涙を流した。
「あんまりです!」
サラが怒った。
「お兄ちゃん、さようなら。永久に……」
追い出されるように家を後にした。
ユーリルは慟哭し大地に拳を何度も叩き込んだ。ヒビが入るほど。
――許せ……ユーリル。吸血鬼とは暮らせぬ
――まだ社会はそこまで進んでないんだよ。ごめんね。こんなふがいないお母さんで!!
――何もできない弟でごめんよ、アニキ!
「墓はこちらになります」
従者が紹介した場所……そこは墓地であった。
泣きながらたどり着いた先にあった物。そこには『勇者ユーリル ここに眠る』とある。生没年までしっかり掘ってある。もちろんユーリルの遺骸は墓の下にはない。花が添えられていた。
「吸血族だからな、このくらいの重さ、なんてことはない」
泣きながらユーリルは花を踏みにじり墓石を掘り起こし宙に浮かぶ。サラも墓石を持っている。吸血族なのだ。このくらいの墓石を持って運ぶのは簡単だ。
「これからも、我が国との友好をお願いいたします」
「国王にそう伝えておきます!」
ユーリルの新しい出発は悲しみから始まった。母国に帰った時に墓石を持った国王の異様な姿に国民はびっくりした。事の顛末に国民は泣く者も居れば喜ぶものも居た。
「じゃあよ! 明日結婚式開こうぜ!!」
「国王陛下ばんざ~い!!」
「みんな、ありがとう……」
墓石は王宮の横に置かれ、没年だけ削られた。翌日盛大なロイヤルウエディングが開かれた。
ロイヤルウエディングに駆け付けたものが居た。竜族だ。リー・ファンだった。
「来てくれてありがとう!」
「何、実はさ、俺とうとう即位するんだ」
「そっか! おめでとう!」
「だから俺の稽古相手これからもよろしくな! 俺の即位式来いよ!」
この声に国民はさらに盛り上がった。フールイの臨時竜王の位が外されリー・ファンが正式に竜王になる。くしくもこの日はユーリルの誕生日。このため二次会はユーリル誕生会になった。ここには父のフールイも居た。父のリー・ファンはユーリルは軽く国王になることの難しさを言われてしまったが誕生会ということもあって周りが止めた。
リー・ファンは庵から元の王城生活に戻った。その後半年後に息子の王の姿を見届けるかのように昇天した。竜も吸血鬼も空を友とする。火葬にされ千の風になるのだ。
◆◆◆◆
一方カラはクレシェンテ王国の宣言をする前にすべきことがあった。国際会議が終わるとクローフィー城の教会に行った。約束通りそこにはミラが居た。
「いつもありがとう」
手に持ってるノートがあった。
「交換日記」
「貴方の支えになるのなら」
「貴方が居なかったら……私……ユーリルをこの手で殺してたわ。そしたらこんな結果になって無かった」
「その方が親も喜ぶよ。見て、女王になったんだよ」
「これを……」
カラが置いたのは指輪だった。
「ダメかな……だって心の支えになってくれたの、貴方だし。決して倫理にもとる行為じゃないと思ってるの」
――だから
「法律も変えて見せる」
「貴方、本気なのね!」
ミラはカラの手をぐっと握り締める。
「もちろん」
「いいわ、共に歩んでいきましょう」
(!?)
「本当に……」
「本当よ……」
「意味分かってるんだよね……」
「何言ってるのよ。魔族と人間が共に歩む道を作れたのよ。たかが同性婚制度導入でびくびくしてどうするのよ」
「あ……りが……とう」
言葉になってない。もうカラは泣き崩れている。
「さ、女王様。これから国造りは大変だよ。私を副女王に任命して。私の声であなたの心の傷を癒して見せる」
「もちろんよ!」
二人は抱き合った。
二人は船に乗って母国に到着する。そしてクレシェンテ王国の宣言を行った。同時に同性婚の法を発表する。国民はどよめいた。同時にミラとカラの婚姻が発表された。
国民は二人の決断にエールと拍手を送った。
世界はこうして新しい道を歩み出した。
<終>




