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吸血の勇者ユーリル  作者: らんた
第九章 最後の戦い
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第二話

 「なんだ、こいつは!」


 玉座に座ってるのは妖精族とは程遠い漆黒の皮膚に額から角を抱く妖魔そのものの姿であった。拳をぐっと握るとなんと翼も出たではないか。吸血鬼のようだ。


 「待ってたぞユーリルとカラ。素顔が見れないのが残念だがな」


 「お前は妖精族なんかじゃない。ただの妖魔だ」


 剣を構えるユーリル。


 「ええ、蝙蝠の翼をもつ妖精族なんて聞いたことが無いわ」


 冷笑するカラ。


 「ふふふ。これは妖精族の進化した姿なのよ」


 そういうと爆発魔法を唱える。だが……。


 「効かないんだよな」


 魔壁呪が二人を守っていた。


 「魔力が効かない妖魔もどぎなんて敵じゃないんだよ」


 なんと拳を食らわせ気絶させる。そして首をへし折った。クゥーラは動かぬものとなった。


 「楽勝だぜ」


 「ねえ、なんか聞こえてこない?」


 「本当だ。誰かの悲鳴だ!」


 なんと近くの階段を降りると反魔素物質に覆われた部屋があった。そこには多数の牢と人間が!!


 「助けて!!」


 「私達、種を仕込まれて辱めを受けて」


 (あの時と同じだ! 死霊族のあの時と!!)


 「これが噂の『人間牧場』なのね」


 キッチン、寝室が完備されている! しかも牢には焼けただれた死体まである!


 「カラ、こいつらを牢から出してくれないか!」


 カラは必死にカギを探した。なんと親子と会話したと思われる部屋にそれはあった。二人は必死に牢のカギを開けた。牢には二十~三十人もの人間がいるではないか! 数えると二五人も居る。


 「私の子供が、養育室に!」


 「養育室!?」


 (なんてことだ……俺はまたしても残虐非道な魔族にならねばならないのか)


 カラは思わず顔を伏せた。妖魔族の親となった者が五人も居た。


 「その五人だけ来てくれないか」


 ユーリルの指示の通り五人だけ連れて養育室を見るとなんと妖魔たちが居た。子供の妖魔――!!


 子供の妖魔達は怯えていた。子供は六人居る!!


 「ごめんよ……」


 (俺達は闇に蠢く者)


 「ユーリル!?」


 「妖魔を殲滅するのが俺たちの責務」


 「そんな!?」


 「カラ、こいつらを部屋から追い出せ!」


 暗黒騎士は部屋を閉め切った。鍵をかける。


 「悪いな。来世はまともな魔族か人間に生まれ変われよ?」


 ユーリルは一人一人命を剣で切り倒した。小さいナイフで向かってきた少年も剣で叩き割った。


 ユーリルは面頬をかぶったまま顔を伏せ肩を震わす。


 「ふっふっふっふっ……くっくっくっくっ……」


 悲鳴と憎悪の声が隣から木霊する。ユーリルはその悲鳴をも糧とした。カラはかわいそうと思い睡眠呪の魔法を浴びせ五人を動けないものとした。


 扉からユーリルが出て来た。


 「カラ、君だけ先にマザーランドに帰ってくれないか」


 「何で!?」


 「こいつらをクローフィー城に連れていかないと。妖魔族の胎児が居たら下ろさないといけないからな。魔法陣に君が居ることを知らせるペンダントは持ってるんだよな」


 「ある……」


 「それでサーミラが連れて行くしかない」


 「一人で大丈夫なの?」


 「大丈夫だ」


 ユーリルは一人で魔王城に乗り込む決断を下した。


 「その前に、この五人は後ろから刺されないようにしないとな」


 面頬めんぽうをはぎ取ったユーリルは己の牙を人間の首に打ち立てた――!


 カラまでもがおびえている。うれしそうに飲むユーリル。五人全員の首に打ち立てた。


 ゆっくりと三日月の笑みを浮かべるユーリル。牙を剥き「してやったり」という表情だ。


 もがき苦しむさまを嬉しそうに見下ろすユーリル。そのまま全員息絶えた。幸いにも全員吸血鬼にならなかった。


 カラも面頬を被っているため表向きは冷酷な暗黒戦士にしか見えない。しかし、カラの内側の顔は恐怖で歪んでいた。血を手で拭ったユーリルは床に落ちた面頬を拾って再び付けた。


 「残り二〇人を連れて帰れ。それが終わったらここに戻ってこいつら五人の血液をここで抜けよ? 血液も肉もこの部屋から出したら汚染されるからな。に……してもなかなかの美味だ」


 カラは怯えてた。肩が震えていたのだ。ユーリルの笑みが消えた。


 「おい! これから魔王戦なんだぞ! 人間の血は飲まないのか!? 死ぬぞ!」


 カラはこの声にはっとした。


 「用事終えたらすぐにここマーズランドに戻ってこい。そのためにもここで吸血するんだ」


 「うん、そうする」


 カラの面頬が乾いた音を立てて床に落ちた。吸血が王宮に響く。


 吸血を終えると緊急用回復のため空の瓶に血液を入れる。次なる戦いに備えるためだ。

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