~序~
勇者の鎧は砕かれて盾は折られていた。
僧侶の体にはいくつも穴が開き倒れ血を流している。
魔法使いも倒れ杖を折られ首は別の場所に転がり首なしの死体となって倒れていた。
「俺はうれしいのさ……勇者!!」
そう言うと魔王は波動を勇者に撃った。陶器のような白い肌。長身。紅い唇。とがった耳。切れ長の目。艶やかな黒髪……一見すると妖精のような魔王だ。牙と漆黒の翼がなければ妖精と見間違えたかもしれぬ。そんな魔王は余裕だった。他の四天王と違い瞬時に傷が塞がる。本当にこいつは生命体なのか!? 死霊として聖属性魔法をかけてもまるで反応しない。精霊でもない。
波動を三回喰らいヒビだらけの勇者の剣が、聖剣がついに折れた。対吸血鬼用の必殺武器が壊れたのだ!
「さぞうまいのだろうな……勇者の血は……」
そう言うと魔王は牙を見せ……笑みを浮かべる。
勇者は恐怖に震え何も言えない。立つのがやっとだ。意識が朦朧とする。
――死ぬんだ
そして魔王は瞬時に勇者の背後に周り勇者の首に己の牙を打ち立てた。
悲鳴を上げる。激痛が走った。謁見室に悲鳴が響き渡る。
喉越しの音が勇者に伝わって行く……。
持っている折れた聖剣が落ちる。乾いた音も謁見室に響き渡った。
勇者の記憶がいったんここで消える。
勇者が見る世界は闇に覆われて行った……。