拡大する戦火
侵略してきた袖軍に対応するために軍を率いてフェロンを発ってから、既に五日が経過していた。通常の行軍より、多少急がせている。それは、フェロンを出てすぐに入った急報によることだった。
鷺の北方に位置する垓が、同盟を一方的に破棄し、同時に攻め込んできたという。国境近くに降って湧いたように二万の軍が現れ、電撃的に街を一つ落とされた。国境に沿っていくつにも分け、密かに兵が集められたのだろうか、と士会は思った。だとしたら、かなり計画的に行われた攻撃になる。
垓に対しては、ウィングロー軍が全軍で当たることが決定され、既に出撃していた。
何にしても、今は与えられた使命を速やかに果たすことだった。それで、南北からの挟撃の態勢はなくなる。そう言い聞かせてみるが、何か嫌な予感が拭えなかった。
情報は後ろからだけでなく、前からも入ってきていた。地方軍が斥候を出し、朱会要の動向を教えてくれているのだ。
「臆病、なのかな」
小休止の時、士会は呟いてみた。
朱会要は、国境を少し侵したところで、何をするでもなく止まっていた。田畑の広がる平地である。野戦がしたいという話は聞いていたが、これほど露骨なものなのだろうか。
「というよりは、何をすべきかよくわかっていないのでしょう。命令が漠然としていたか、本人が愚かなだけか、その両方か」
辛辣な紐燐紗の言い分に、士会は苦笑した。かつて、山上で包囲された時も、紐燐紗は朱会要をこき下ろしていた。よっぽど酷い思い出でもあるのかと聞くと、紐燐紗は憤慨した。
「だってあいつ、ろくに兵を操れもしないのに、紐圏に目をかけられているというだけで軍内で大きな顔をするんですよ。腹立たしいことこの上ない――ですけど、敵にしてみれば気が楽でいいですね」
「そんな奴、どこにだっているだろ。補給のついでに賄賂渡してくるんだからなあ、全くもう……」
少し投げやり気味に、士会は答えた。士会に賄賂が通じないことはフェロンでは知られつつあり、渡そうとする人も減ったが、地方軍には浸透していないようだった。
「そうですね……。嫌になります」
紐燐紗もまた、渡される側の一人だった。フェロンの重要人物が二人来ているということで、好機と受け取られているのだろう。しかしあいにく、士会たちは稼ぎに来たのではない。戦に来たのだ。
「それにしても、何も知らないと、朱会要の動きのなさは不気味に映るな」
「どうせ、適当に勝ってこい程度の命令しか受けてないんでしょうね」
「一番困る命令かもしれんな、それ」
それでいて、地方軍の駐屯地を荒らすくらいでは、おそらく勝ちと認められない。地方軍を相手取るなら、街を落とすくらいしないと、手柄にはならないだろう。しかし、街を攻撃する方法を、朱会要は持ち合わせていない。
向こうでも、こちらの動きくらいはつかんでいるだろう。六千と聞いて、ほっとしているかもしれない。できればその方がありがたい。
「何にせよ、兵数では負けている。あんまり侮って油断するべきじゃないだろうな」
「そうでした。気を、引き締めておきます」
注進が入った。また、後方から伝令が到着したらしい。紐燐紗を同席させたまま、士会は内容を聞いた。
一回聞いた後、士会は思わず聞き直していた。
「いやちょっと待て。多すぎないか」
「いえ、誓って間違いはございません。何が起きているのか、私にはそれ以上は……」
「わかった。ありがとう。確かに、聞き届けた」
困惑させてしまった伝令を下がらせ、士会は深く息を吐いた。
「士会殿。これは……」
「何かヤバいことが起きている。しかも狙ったようなタイミング、偶然とは思えない」
伝令の運んできた情報によると、鷺の西方で反乱軍が蜂起したようだ。それだけなら、西で起きるのは珍しいというくらいで、特筆すべきことではない。
しかし、反乱の発覚とほぼ同時に、アルディアを中心とした八つの街を落とされていた。一つでも、今まではなかったことだ。多分、朝廷はてんやわんやの状態だろう。
嫌な予感が当たった。それも、予想だにしていない規模でだ。
「一つ、言えることがある。俺たちは、極めて迅速に、やるべきことをこなさなければならなくなった」
諸将を集めて今起きている危機的状況を告げると、一同の顔に緊張が走った。いくつか質問が飛ぶが、残念ながら答えられなかった。こちらも、今知ったばかりでわからないことだらけなのだ。
「ピオレスタ。ちょっと待ってくれ」
緊急招集した諸将たちを解散させてから、士会はピオレスタを呼び止めた。
「なんでしょうか、士会殿」
「今回のこと、知っていたな」
大規模な反乱が起きたと告げた時の反応が、ピオレスタだけ微妙に異なっていた。それに、西へ逃げたペリアスは、彼の元部下である。
ピオレスタは、こちらをまっすぐ見て答えた。
「多少は。何年か前、私が指揮していた反乱軍の下に、バングルという人物が訪ねてきたことがあります。彼は西で反乱を起こすため、水面下で行動を起こしていました」
「なるほど、他の地域の反乱と呼応できないか探っていたのか」
「まさしく。以前の私とは、同盟関係にありました。何か聞かれたら、答えるつもりだったのですが」
ピオレスタは、バングルと同盟していたことに対する義理を果たしていたのだろう。だから、西で反乱を企てている者がいることを黙っていた。
「いや、いい。こっちに加わったからといって、約束を破るようなことを強いるつもりはない。ただ、話せる範囲でいいから、そいつのことは聞いておきたいな」
「そうですね。私が話した感触では、傑物といったところですか。計算を積み重ねつつ、行動する時は大胆さを兼ね備える。なかなかいない人物ですな」
山間の村々に兵力や物資を隠し、力をため込んでいたようだ。その力を一気に開放した結果が、複数の街の同時占領ということか。
「ペリアスも、おそらくはこの反乱に加わっているでしょうね。そのために、西へ向かったのでしょうから」
「……もし戦うことになったら、戦列から外そうか?」
「ご冗談を。既に私は、変わりゆくこの国のために剣を振るうと覚悟を決めております。たとえかつての同志であっても、戦う準備はできています」
強い意志を持つ目は、ピオレスタの端正な顔立ちをさらに凛々しくさせていた。
「わかった。余計なことを聞いて、悪かったな」
「いえ。お心遣いに感謝いたします」
礼を言って、ピオレスタは自身の隊に戻っていった。
士会は、行軍をさらに速めさせた。ほとんど昼夜兼行で進んだ結果、国境近くの街、コクリアには二日で着いていた。昼をいくらか過ぎており、このまま進めば、朱会要と対峙する頃にはとっぷり日が暮れているだろう。ここまで駆け通した兵たちに、戦の前の休息も取らせたい。
明朝、出発することを全軍に告げ、士会は兵に束の間の自由時間を与えた。疲れを癒す者が多いだろうが、中には街に出て酒を飲んだり、女を抱いたりする者もいるだろう。それはそれで必要なことだと、士会も理解していた。
補給を受け、現状を聞いてから、士会は主立った者を集めて軍議を開いた。
「場所はコクリア近郊の農地だ。樹明郷、というらしい。住んでいる農民は戦の空気を感じ、既に避難している。朱会要が何日も前から布陣してるから、当たり前ではあるが」
「近くに川や沼地などはあるのでしょうか」
ピオレスタが声を上げた。
「川はないが、代わりに他から水を引いてきた水路がある。縦横に走っているとのことだが、いずれも跳び越えられる程度の幅だそうだ。兵を隠すのに使えるので、要注意とのこと。あと、出来ればあまり壊さないでほしいとも言っていた。足場の悪い沼地などは、特にないようだ」
「戦鴕の足を下から払われることもあり得る。騎鴕隊は水路を横切る時、注意がいるな」
バリアレスの言葉は、ほとんど妹に向けてのものだった。
「そうですね、兄上。何か、水路の地図のようなものはないのでしょうか」
「ある。今から見せるつもりだった」
士会が合図をすると、兵が数人で地図を運んできた。紙という媒体も、地図という情報も、この世界では貴重なものなので、兵たちもかなり慎重になっている。
卓の上に広げられた地図の一点を指差し、士会は続けた。
「朱会要は、ここに陣地を構えている。前後に水路があるが、前方は軍と水路の間にかなり距離がある」
「罠が仕掛けにくいってことですね。なら正直に攻めると、騎鴕隊で側面を取りつつ歩兵は正面から押す感じですかね」
白約の言葉を、士会は肯定した。
「そうなるな。もっとも、向こうがどう出るかにもよるが」
「どう来ようと変わりませんよ! これはまたとない好機! 崩して払って叩き潰します!」
鼻息を荒くする紐燐紗をなだめながら、士会はまとめた。
「兵たちには負担をかけるが、今は時間が惜しい。出来れば速攻で終わらせたいので、攻めかける形となる。とはいえ、相手はしばらくこの場所に留まっている。罠を仕掛けていても不思議はないので、重々注意すること。以上、解散」
将校も兵と同じように疲れている。今日はじっくりと英気を養ってもらわねばならない。自分自身、眠気が波のように押し寄せている。軍議の間は緊張感があったためかマシだったが、終わった瞬間によろめくような眠気が襲ってきた。
だから、こんな時に話しかけてきた奴に、素っ気ない返事しかしなくても仕方ない。
「おう、兄弟。久々に飲みに行こうぜ」
「一人でどうぞ。俺は寝る」
「連れないこと言うなよ。ちょっと酔ってた方が良く眠れるぜ」
バリアレスは士会の肩を取り、ぐいぐいと迫ってくる。
「過度の疲労感の方が、よっぽど深く眠れるだろ」
「まだ昼だぜ、寝てられるか」
「昼間っから酒飲みも酷いだろうが」
言い返しつつも、これは逃げられないな、と士会は諦めていた。多分、父親の監視から久々に逃れられて、思い切り羽を伸ばしたいのだろう。気持ちはわかる気がするので、強く拒めなかった。
ため息を一つついてから、バリアレスに具足を置いてくるように言って、士会も一度自分の部屋に戻った。整えられた寝床が魅力的に感じるが、今は着替えて出るしかない。
「バリアレス、まず水浴びだ。でないと店にも入れない」
「どうせなら風呂屋に行こうぜ」
「酒飲む前に風呂はまずかった気がする」
学校の授業でそんなことを習った気がしなくもない。こちらの世界で覚えたことが濃すぎて、授業内容など何もかも薄れてきているが。今センター試験を受けろと言われたら、回れ右して全速力で逃げるしかない。
「回りがちょっと早くなるだけだろ。問題ない」
「俺はある。水浴びにしとくぞ」
「へいへい」
コクリアの街に注ぎ込む川のほとりで、二人は軽く水浴びをした。周囲には同じように体を洗いに来た兵が多くいた。
少しすっきりして、まとわりついていた眠気も遠ざかった。そのまま士会は、バリアレスと連れ立って街へと向かう。
コクリアの街からは、どことなく活気を感じた。
「良い街だな」
バリアレスも、同じように感じたようだ。
「なんというか、人の表情が明るいな」
「国境付近だからな。辺境なのと、気が抜けないのとで、有能な人が飛ばされて来やすいんだ」
「あー、そういう事情もあるのか」
中央では優秀であるがゆえに疎まれ、いつ敵が押し寄せてくるともしれない国境沿いの街に送られる人が多いのだろう。そして辺境では、中央の目が届かないおかげで、善政を敷いたり強力な軍を育てたり、能力を発揮することができる。ハクロが典型的なので、士会にも理解しやすかった。
街の人が皆豊かに見えるのも、ここの街宰がしっかりした政を行っている証だろう。時間があれば、ゆっくり見て回りたかったところだ。
「おかげで中央がスカスカだけどな」
困ったもんだぜ、とバリアレスは言う。
それでも、探せば人はいるのだ。それだけでも、士会にとっては嬉しい発見だった。
街中の居酒屋に、士会とバリアレスは入った。士会も既に酒に対する抵抗はない。郷に入っては郷に従え、と割り切ってしまった。とはいえ、程度は気を付けている。
麦酒で乾杯し、二人は話し出した。酒の場とはいえ、どうしても最初の話題は深刻な鷺の現状になる。
「しかし参ったなあ。二方から外敵が攻めてきて、内もガタガタかあ」
「西は、蓄えてきた力を一気につぎ込んできた感じがするな。それも、他と呼応して」
「そこだけど、どうも袖は別枠な気がする。単独で先走り過ぎてるし、垓に比べて投入している兵力も少ないし」
「垓は大国だから、一度に動かせる兵力も多いが……確かに、言われてみればそうだな。迅速に攻めてきた他二つと比べ、動きが違い過ぎる。指揮官の違いと言われれば、そうとしか言えないが」
一見すると三方同時攻撃を受けたようだが、袖の朱会要は特に他と連携しているというわけではなさそうだった。当初の見立て通り、太子圏が手柄欲しさに送り込んできたというだけのことだろう。
「袖が出てきたから、他も一応呼応する形で出てきたのかな」
「そんなとこだろうな。おかげで朱会要を倒すのに、時間制限が付いちまった」
「あんまり急くのは危ういが、その通りだなあ。一刻も早く中央に戻らないといけない。居残りの軍で反乱に対処するらしいけど、あのエルヴィスとかいう将軍って……」
「お察しの通り、腐ってる。あいつが兵を指揮してるところを見たことがない。配下の兵も弱兵揃いなのは見ての通り」
「だよなあ……」
反乱軍は複数の街を占領できるくらい規模が大きい。そのため、地方軍だけでは対処が難しいと判断され、中央から軍を派遣し、周囲の地方軍と連携して討伐することが決定されていた。地方軍だけで抗することが難しいというのは同意だが、フェロンに常駐している軍だから強いと考えるのは大きな誤りでもある。
つまみの枝豆を間に挟みつつ、士会はちびちびと麦酒を飲んでいた。バリアレスは最初の一杯を一気飲みし、既に二杯目もなくなりかけている。
「まあ、とはいえ現状、他に方法があるかって話になるんだがな。中央に残ってる将軍でまともなのは、水軍のベル殿くらいだし」
「反乱としては規模がでかいけど、両面作戦ができるほど大きいわけでもなし。中央から遊軍を出して、街は固く門を閉ざして籠城。街が攻められたら遊軍が背後を攻め、遊軍が攻められたら街の地方軍が後ろを突く、とかどうよ」
「遊軍の手が届かないところを攻められるな」
「そしたら、攻めている間に奪われた街の奪還に動く」
「なるほど。向こうの手も届かないわけか。相手が動かなかったら?」
「俺たちかウィングロー殿の帰還を待てばいい。状況が落ち着けば、投入する兵力も増やせる」
「それはそうだが、俺たちも親父もいつになったら帰れるかわかんねえだろ。それを当てにして待ってると、向こうも足場を固めるだろうし」
「確かにそうか。日に日に反乱に加わる民も増えていると聞くし、時間をかけるのは悪手かな」
「だからこそ、軍の核になれる俺たちがとっとと帰らないとならん」
そう言って、バリアレスは麦酒の入った椀をあおった。
話しているのは結局のところ机上の空論なのだが、士会はバリアレスとこういった話をするのが好きだった。こうすれば良かったのに、いやそれは違う、と戦の想定を言い合うのは、何か愚痴を言い合うのと似たところがある。
「そういやあんまり知らないんだが、垓って強いのか?」
士会の中では、北にあるでかい国、くらいの認識しかなかった。
「すげえ雑な質問だな。まあ、動かせる兵の数は大きい。ただ、長年璧と殴り合いしてるから、そっちの守備に力を割く必要がある」
「実戦も結構やってるわけだな」
「それも五万同士とかのやつをな。有名どころだと、ヴォーゼウム、シュパルツェード、ルクスの三人が名将として知られてるな」
「ヴォーゼウムって、今回襲ってきた奴じゃないか」
「そうだ。だからこそ、こちらに気取られずに国境に兵を集め、奇襲をかけるなんてこともできたんだろう。親父でも、そう簡単に追い払うことはできないはずだ」
うーむ、と士会はうなった。ウィングロー側の戦線がそう容易く動かせないとすると、こちら側の動きがより重要になってくる。
「まあ、向こうもこっちと同じで、国全体としては腐りつつあるって話だけどな。というか、どこもそうか。新興国の白蘭はよくわからんけど」
どうやら天下全体で、汚職問題ははびこっているようだった。どれもそれなりに長く続いた国のようだし、国の老いのようなものなのかもしれない。
自分が戦おうとしているものの根深さを意識し、士会は息を吐いた。
「面倒くさい話はここまでだ。お前最近、殿下とはどうよ?」
バリアレスは、時折この話題を出しては、士会をからかおうとしてくる。まあ、友人の恋愛関係というものは、いつの世も気になるものなのかもしれない。
「まあ、良好だと思う。ビーフックとの仲を疑われた時は困ったけど」
そう言うと、バリアレスは思い切り噴き出して、高らかに笑い声を上げた。
「ちょっ、待っ、お前、それは反則だろ。くっく、あの堅物が? 理想だけやたら高いあいつが? 恋愛? いやいやいやいや、殿下も相手を見て物をおっしゃっていただきたい」
よほどツボにはまったらしく、その後もバリアレスは何かをわめきながら笑い続けた。ちなみにここまで、バリアレスは五つの椀を空にしている。酒に強いとはいえ、酔いが回ってきているのだろう。少なくとも、後ろに立つ人間の気配に気づかないくらいには。
「ひーっ、ひーっ。いやあ、うちの妹が結婚ねえ。いくらファルセリアの家柄っつったって、親父がどうにかして縁組させてくれないと無理じゃねえかな! いや、それでも厳しいか! あっはっはっは」
「兄上」
ぴたり、とバリアレスの動きが止まった。笑い顔だけが張り付いたように固定されているのが、どうにも気持ち悪い。
「……はっは、ビーフック、いつから?」
「兄上が笑い出した辺りから、聞こえておりました。大層愉快なことがあったご様子で、しばし静観しておりましたが」
ビーフックはただひたすらに無表情だった。表情がないのはいつものことだが、今日はいつもに増して感情が消えている気がする。
「士会殿」
「はい」
一瞬にして酔いが醒めるような声。士会は思わず直立していた。
「朝廷から状況を知らせる伝令が来ています。一度、軍営へ向かわれてください」
「わ、わかった」
急ぎ自分の分の支払いを卓に置き、士会は駆け出した。
「あ、おい、ちょっと待て!」
「軍務だ! 急がなければならん!」
「その通りです、兄上。士会殿は早く伝令の下へ行かなければなりません。私が、代わりに、お相手をいたしましょう」
「いや、その必要はないというか、無理しなくてもいいというか……はは……」
店を出る前にちらりと振り返ると、ちょうどビーフックの顔がバリアレスの肩越しに見えた。暗い光をその目に灯し、纏う空気だけで周囲を威圧していた。
おっかない。
見なかったことにして、士会はそのまま店を出た。
後でバリアレスから聞いた話では、どういう意図での発言だったか静かに詰問され、地の底まで凍えるような声で軽蔑されたという。その間、バリアレスは一言も喋らせてもらえなかったらしい。まあ、自業自得だろう。