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異世剣聖  作者: 鷹武手譲介
第三部 鍛錬の日々
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決戦2

 士会の伝令を受けたバリアレスは、笑みを浮かべながら呟いた。


「やっとか。待ちわびたぜ」


 言いながらも、バリアレスは目まぐるしく動くことを止めない。ブラムストリアと二隊に分けて連携しながら、敵を崩しにかかる。


 敵の騎鴕隊は増強され、こちらと同数になっていた。しかし騎鴕の質、それにその騎鴕を操る兵の質で上回っており、騎鴕戦だけなら優勢だ。それを要所で歩兵を使うことで、互角にまで持ち込まれている。ただ、騎鴕戦と白兵戦の両方をあの弱兵で補完するのは、そう長くは持たないはずだ。


 歩兵の戦いは押され気味だった。歩兵同士で介入がなければ、基本的に数が物を言う。劣勢に立たされるのも仕方がないだろう。


 バリアレスはブラムストリアと合流し、騎鴕隊全軍で敵の騎鴕隊に突っ込んだ。さっと敵は二隊に分かれ、バリアレスの突撃をいなしにかかる。分かれた内の片方を包囲する動きを見せると、もう片方が突っ込んできた。さらに歩兵が離脱する方向を制限するように前に出てきている。何度も見た光景だ。バリアレスは外側へ流れるように騎鴕隊全体を逃がした。


 ――ここだ!


 バリアレスは、ブラムストリア隊の半数近く、二十騎を明後日の方向に駆けさせた。


 その様子を見た敵兵に動揺が走っている。それを見逃すバリアレスではないし、士会でもない。士会が押されながらも防御をかなぐり捨て、全力で敵の弱兵に圧力を掛けてきている。


 合わせてバリアレスも、歩兵の揺らぎでできた鴕止めの柵の合間に一直線に突っ込んだ。敵の騎鴕隊は反応が遅れている。二十騎に気を取られ過ぎだ。


 速度勝負ならこちらに分がある。敵の騎鴕隊の介入は間に合っていない。士会の決死の攻撃を受けて意識が前に向いている歩兵の中を、バリアレスは後方から悠々と掻き乱していく。


 前後から急襲を受け、混乱している敵の中を一気に駆け抜け、バリアレスは敵の右翼の指揮官に達した。麾下の兵を瞬く間に蹴散らして、取り巻きも引き剥がす。


「おらああああああああああああ!」


 急激な情勢の変化に目を白黒させている敵の指揮官に向けて、バリアレスはすれ違いざま棒を一閃させた。できれば敵の指揮官は生け捕りにしたいが、そんなことを言っていられる戦況ではない。敵の左翼は既に味方の歩兵の側面に回り込んでおり、こちらの総大将である士会まで達しかねない。頭が砕ける音を置き去りにし、バリアレスは混迷を極める敵の右翼を潰走させにかかった。


 戦闘から離脱させた二十騎は、敵の砦のある方向へと走らせたものだ。砦の中ががら空きと踏んで、一度だけ使える陽動として、士会と打ち合わせていた。大局的には戦況に影響を与える行動ではないが、敵兵たちにしてみれば、自分たちの帰る場所が失われるのは精神的に辛いだろう。上手く動揺を誘うことができた上、指揮官たちは無視するか否かで一瞬の判断に隙ができた。


 潰走する味方が邪魔になり、敵の騎鴕隊の足が止まっている。バリアレスは素早く視線を巡らせた。


 敵兵の残りはまだまとまっており、攻撃の手を緩めてはいない。右翼の潰走に引きずられなかった辺り、やはり見事だ。


 それでも士会はまだ、なんとか持つ。持たせるだろう。弱兵だったとは言え、敵の右翼が崩れた分対峙する敵が減り、多少なりとも余裕ができるはずだ。


 ならばまずは、敵の騎鴕隊を叩く。


 決めた瞬間、バリアレスは自身の戦鴕であるハルパゴルナの手綱を引き、脚を絞めて意思を伝えた。弾かれたようにハルパゴルナが走り出し、指揮下の騎鴕隊がそれに追随する。


 二つの騎鴕隊の内、特に手ごわかった一隊へ向け、潰走の波に乗りながら突っ込んでいく。敵の騎鴕隊は即応したが、足が止まっている以上その力は半減している。


 潰走の混乱に飲まれ、いなすことすらままならず、敵はバリアレスの突撃をまともに受けた。棒で敵兵を戦鴕の上から叩き落としながら突き進む。


 反転してもう一撃。そう思ったところで、横槍が入った。敵のもう一隊の騎鴕隊が味方を押しのけ、しゃにむに突っ込んできた。バリアレスは反転の動きを回転に変え、真正面からぶつかるように動いた。


 敵の指揮官が先頭に出ている。やる気のようだ。


 いい度胸だ。


 獰猛な笑みを浮かべ、バリアレスは棒を振り切った。


 馳せ違う。


 敵将が鴕上から落ちるのを尻目に、バリアレスは敵の騎鴕隊を削りにかかった。


 戦鴕から落ちた敵の指揮官は、周囲の兵が抱え上げて駆け去った。骨を砕いたような感触も手に残っている。これで、騎鴕隊の半分は機能不全に陥っただろう。


「ブラムストリア!」


 そろそろ士会の援軍にいかないとまずい。残敵掃討にかまけていて、総大将を討たれたなど、笑い話にもならない。


 バリアレスは隊の半分で敵の残りの騎鴕隊へ備えさせ、自身は歩兵の戦闘への介入に向かった。


                    ※


 突き出した槍が剣に弾かれ、空を切った。そのまま敵将の士会は回るように反転し、敵軍の中に戻っていく。追いたいが、それをやると敵全体への圧力は減る。それに気づくまでに少し時間がかかってしまった。彼は時間稼ぎのために、警戒されているとわかっていても突撃を繰り返してきていたのだ。しかも的確に、こちらの兵の薄い弱所を突き、かき乱してきた。


 敵将を討てば一気にけりをつけられるが、そう容易くはやらせてくれない。それどころか、鬼神のような働きに味方の兵は竦み、敵は勢いを増している。今は囮に惑わされず、一刻も早く敵の歩兵を崩し切らなければ。


 ピオレスタは側面に回り込んだ左翼へと移動し、積極的に自身も前に出ながら指揮していた。


 既に味方の右翼は壊滅している。その動揺はこちらにも伝わってきているが、潰走するほどのものではない。


 敵は勝負に出たようで、押されながらも歩兵で右翼に対し強い圧力をかけていた。当然こちらが押している逆側が手薄になり、下手をすればこちらが一気に押し切ることになる。


 しかし、それでもなんとか崩壊をまぬがれていた。敵の大将や指揮官が盛んに前に出て時に介入し、時に鼓舞し、紙一重のところで耐えている。その間にこちらの右翼は崩壊したのだ。


 もうひと押し。それ以上は時が許さない。リロウが討たれた上、ペリアスも生死不明の今、ベルゼルの騎鴕隊だけで敵の騎鴕隊を止めるのは難しい。あっという間にこちらに突っ込んでくるだろう。


 最後の一撃。これに全てを賭ける。


「全開の一打を叩き込みます。全身全霊をこの一撃に!」


 前に出て味方を鼓舞してから、戦鴕を駆り、麾下の二十騎を引き連れ、ピオレスタは士会めがけて突っ込んだ。同時に、怒涛のように歩兵たちが攻め込んでいく。


 士会も負けじと斬り込んできていた。突き刺すような視線がこちらを射抜いてくる。ここが勝負の分かれ目だと、本能で理解しているのだろう。


 敵の武器は双剣だ。こちらの方が先に相手に届く。


 細かく穂先を動かして狙いを外しつつ、ピオレスタは槍を突き出した。すんでのところで流されるように剣に弾かれる。僅かに肩の肉を削ったが、致命打には到底至っていない。


 すれ違いざま、もう片方の剣で脇を斬りつけられた。危険を感じ、わずかに身をそらす。具足の上だったが、鈍い感触。触ると具足が上からえぐれ、斬られかけていた。血と死の臭いをまとう風が、後ろへと吹き抜けていった。


 このまま突っ込み、押し崩す。士会は後ろにいる味方に任せる。そう思った瞬間、背中に衝撃が走った。戦鴕から転げ落ちる。


 敵の騎鴕隊。既にここまで到達していたのか。そう思ったのも束の間、ピオレスタは地面でしたたかに頭を打ち、意識を失った。


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