立ち合い
薄々士会は感じていたが、バリアレスとは根底の部分の出来が同じらしい。
端的に言えば、気が合う。亮に対する気の置けなさとは、また別種の同調を感じる。
また、その型破りな性格も、士会たちにとってはありがたかった。周囲に聞いている人がいないなら、敬語を止めてほしいと頼んだところ、割にあっさり承諾が得られたのだ。
「ああ、忘れてた。こんな喋り方してるのバレたら父上に殺されるから、絶対に言わないでくれよ」
「あのお堅そうな人か。ウィングローさん、だったっけ」
「威厳に満ちてたよな」
二人とも、旅の後半の最高司令官であった、ウィングローの姿を思い起こしていた。特に士会にとっては、今腰に佩いている剣を手渡された時の印象が強い。
「まあ、どっちも正解ではあるな……。長きに渡りこの国を守り抜いてきた武人として、名前は各国に轟いてる。父上がいる限り鷺は安泰、と言われているくらいだ。俺の、それに家族の誇りでもあるんだが……」
歴戦の名将、ということらしい。バリアレスの言からも、畏敬の念が感じ取れた。
「父上、堅いっつうか……古臭いんだよな、考え方が」
「ああ……」
士会にもなんとなく想像は出来た。
「国は頂点に皇がいて、武官が戦を、文官が政を司る。だから俺達は、戦だけに目を向けるべきなんだ――とかなんとか。正直俺にはよくわからん」
士会と亮は顔を見合わせた。皇の存在など異なる箇所もあるが、聞き覚えのある話だ。
「それって、戦の相手とか目的とかも、文官が決めるってことでいいんだよね?」
「あー……多分。そんなこと言ってた気もするな。まあ要するに、俺等軍人は戦場で戦うことだけ考えてろってことだろ」
聞き流していたからあまり覚えていない、とバリアレスは締めくくった。突っ込まれるとは予想していなかったのか、怪訝な顔をしている。その目の前で、士会と亮は驚きを分かち合っていた。
「文民統制、だよな」
「お、よく覚えてたね。習ったの三年前なのに……っと、それはいいか。軍の頂点が文官寄りの思想を持ってるのか。古臭いなんてとんでもない」
うなずく二人。しかしバリアレスが割って入った。
「ええい、難しい話は無しだ! それよりこれから街を歩くんだろ? それなら軍営の方にも来ないか?」
こいつシュシュとも馬が合いそうだなと、士会は思いながら頷いた。
※
バリアレスとしばらく話し込み、待たせてしまったため、二人は従者たちに謝った。当然恐縮されてしまった。バリアレスも、不思議そうな顔をしていた。
一人増えた一行は、小舟で街を移動していた。
フェロンの外層では、フィナを伴った移動では見えてこなかったものが見えてきた。山と積み荷を積んだ舟。活気のある市場。行き交う街の住人に商人、旅人たち。
しばらく行くと、広場に人が集まっているのが見えた。目立つ台の上に、人が座っている。
「なんだろ、あれ」
「あー……。ありゃ、公開処刑だな」
「処刑ねえ。何の罪なんだろ」
「さあな。そこまではここからじゃわからねえ。割とささいな罪でも処刑されたりするからなあ。お前らも気を付けた方が……って、さすがに神の使者にそんな心配は無用か」
フェロンに常駐する正規軍の陣営は、街から少し丘の方に離れたところにある。城壁に空いた水路をくぐり抜けた士会たちは、さらにしばらく舟で進んだ。
「ここは……」
「スラム街かな」
人がやっと一人入れるか、というくらいの、狭く歪んだ家が立ち並ぶ区域を舟は通っていく。人々の顔にもどこか生気がないか、ぎらついた目をしている者が多い。
「軍営への近道なんだ。俺が乗ってる舟を襲う奴はいないから、心配するな」
お前もいれば百人力だしな、とバリアレスは士会を見て笑った。
「画面の向こうでしか、見たことない景色だな……」
バリアレスにとっては日常の風景の一部なのだろうが、日本で生まれ育った士会と亮にとっては違う。そのざらついた空気は、どうにも落ち着かない気分になった。
「崑霊郷だと、やっぱり貧しい奴なんていないのか?」
「そんなことはない。ただ、僕らの育った国では、極端に貧しい人は少なかった」
「へえ……。さすが神様の住む世界。こっちよりも暮らしやすいのな」
「それは……人それぞれだな」
おそらくバリアレスは、日本では生きづらい人種だろう。その荒々しい性格を持て余しかねない。
「ただ……そうだな。貧民街も、ここに都を築いた律皇様の頃は、もっと小さかったと聞くな。それが、何十年かくらいで、段々と広がったって話だ」
「何十年か……。今も広がり続けてるのかな」
「多分。あまり庶民向けの政治が続いてねえのは、確かだしな」
舟は貧民街を通り過ぎ、進んでいく。しばらく行ったところで、家々の間に船溜まりが見えた。
「軍営まで続いてりゃ、便利なんだがな」
言いながら、バリアレスは舟を降りた。士会、亮、シュシュ、ミルメルと後に続く。どうやらここからは徒歩らしい。
しばらく行くと、物々しい集団が見えてきた。同時に騒がしい声も聞こえ出す。
「着いたぜ。――さて」
士会たちが案内されたところでは、ちょうど武術の調練をしていた。二人一組になり、棒を武器に打ち合いをしている。その中を何人か、師範と思わしき人間が回っていた。
「集合!」
バリアレスが号令とともに合図をかけると、間隔を開けて並んでいた兵が駆け寄ってきて、バリアレスの前でびっしりと整列し直した。
「集まってもらったのは他でもない――今日は賓客を連れてきた。今回のフィリムレーナ殿下救出作戦の功労者にして、崑霊郷からの使者、武宮士会殿と十文字亮殿だ!」
よく通る声を張り上げ、バリアレスは二人を紹介した。士会は照れて頬を掻き、亮は「僕は何もしてないけどね」と呟いたが、全て割れんばかりの歓声が覆い隠した。
士会は驚いて一歩後ずさる。その肩をバリアレスが軽く叩き、人気者は辛いねえと冷やかした。再び照れが来た士会は、うるせえとだけ言い返した。
バリアレスが一言、休憩を命じると、二人はバリアレスとともに兵達に囲まれた。
十重二十重の人の壁。二人は入れ替わり立ち替わり質問攻めにされた。まるで芸能人にでもなったみたいだ。
答えられるものには返し、わからない、もしくははぐらかすべきものにもできる限り真摯に答えていると、次第にある要求が高まってきた。
すなわち、バリアレスとの立ち合いだった。一騎打ちを望まれているのだ。
周囲から囃し立てられる中、士会は焦りながらバリアレスに囁いた。
「おい、どうすんだこれ。収拾つかねえぞ」
「収拾? そんなもん一発でつくだろ」
そう言って、バリアレスは剣を抜き、眼光も鋭く、士会に突きつける。
「面白えじゃねえか。一丁やろうぜ、士会!」
「……一応言っとくが、俺はズブの素人だぞ」
言いつつ士会も腰に佩いた嵐天剣を抜き、バリアレスの剣に軽く触れさせた。澄んだ金属音が小さく響いたが、興奮して沸き立つ観衆の声にまたもかき消される。
「謙遜はよせよ。さて、ここじゃなんだし、場所を変えるか。得物もいるしな。――おいてめえら、道開けろ!」
バリアレスが声を掛けた先の人垣が、一気に割れる。意気揚々と花道を進むバリアレスの後ろに、士会も続いた。
その耳に、亮の呟きがちらっと聞こえたが、急な戦闘に気を取られていた士会は気にしなかった。
「バリアレス、敬語……まあ、本人がいいならいいか」
※
バリアレスの先導で連れて来られたのは、石造りの建物の前だった。中に入ると、無骨な木製の棒や古びた鞍、塗料などが置かれている。どうやら倉庫か何かのようだ。
「適当な長さのやつを選んでくれ」
そう言いながら、バリアレスはその身長ほどもある棒を手に取っていた。なるほど、さすがに遊びに真剣は使わないらしい。
先程バリアレスは剣を出していたが、戦の中では金属の棒を使っていた。そちらが彼の本来の武器なのだろう。
とすると自分は――剣か。
士会は相当する長さの棒をつかみ、片手で軽く振ってみた。まあ、こんなところだろう。亮とよく木刀でちゃんばらしたのを思い出す。それにしても驚くべきは、腰に佩いた剣とこの棒の重さが大して変わらないことだ。この剣、一体何で出来ているんだろう。ただの鉄ではこうはいくまい。
ふと、何の前触れもなしに、亡きイアルの背中が浮かんできた。何気なく、空いたもう片方の手が、置いてある棒に伸びる。
しかし、はやるバリアレスが声をかけてきたため、士会は我に返り、その手を止めた。
「決まったな? 行こうぜ」
「おう」
そのまま士会は、倉庫を後にした。
立ち合いの場は、倉庫付近の空き地となった。丈の短い草原に、見物の人垣がずらりと並ぶ。
その中央で、士会はバリアレスと対峙していた。彼我の距離は十歩、といったところか。緊張で、棒を握る手に汗がにじむ。
今回は得物が棒なので、互いに具足もつけていない。装備をつけて動いた経験はまだまだ浅いので、軽装なのは士会としてもありがたかった。
「それじゃ、行くよー」
開戦の合図は亮に任せられていた。のんきな声と共に、彼の手が空に上がる。
群衆は固唾を飲み、二人は棒を握る手に力を込めた。
「三、二、一――――スタート!」
同時に地面を蹴った。互いに接近。
しかし長柄の分、先に相手を射程に収めるのはバリアレスの側だ。士会より一歩早く踏ん張り、大きく棒を一振りする。
「っ!」
とっさに士会は棒を縦に構え、打撃を受けた。小気味良い、乾いた音が鳴り響く。
衝撃に足を持って行かれそうになるが、なんとか踏ん張り耐えた。周囲からどよめきが上がる。こんなもの、直撃したらただでは済まなさそうだ。早くも汗がにじみ出す。
「はっ、俺の渾身の一撃、耐えきるとはやるじゃねえか」
前に戦闘を経験したのはもう十日以上前のことだが、今の一撃はその時のいずれのものより強かったように思う。自分たちに比べ、力において劣るこちらの世界では、バリアレスの一撃は相当な脅威だろう。ほとんどの人は、為すすべなく吹き飛ばされるのではなかろうか。
余裕のあるバリアレスの声に士会は返事をせず、背をかがめて突進した。
「うおっ」
バリアレスは素早く棒を引き戻し、棒の先の方で、斬り上げてきた士会の攻撃を受けた。衝撃で、バリアレスの体が少し後退する。
「ちっ、防いだか」
「ふい、危ねえ危ねえ」
短い会話で一瞬互いの動きが消えたが、すぐに士会は動いた。こちらの方が間合いが短い以上、距離を取られると確実に不利になる。絶えず動き続け、接近戦に持ち込まなければならない。
上段から斬りつけたが、やはり防がれた。さらに棒先で下から突き上げられる。とっさに右にかわしたが、少しかすった。ひやりと背筋に粟が立つ。
今のやり取りで、さらに一歩半ほど距離が開いた。あまり、いい気分のしない距離だ。
反射的に士会は突っ込んだ。しかしバリアレスが棒を横に薙いでくる。重い一撃はかわせないなら、踏ん張って耐えるしかない。足が止まる。最初の攻防の焼き直しになった。
そしてその間にまた距離を取られる。もう一度詰めるが、やはり自分の防御のために停滞を余儀なくされてしまう。間合いの都合上、距離があると常時先手を取られてしまうのだ。
まるで将棋の千日手だった。打開には別の攻め手が必要だ。
まあ、このままこちらが動かなければ、バリアレスはその性格上、痺れを切らしてすぐに動くだろうから、それで局面は変わるといえば変わる。しかしそれでは、少々面白みに欠けるのだ。バリアレスは少し不満かもしれないが、やはりこちらから攻め崩してみたい。
再度、士会は突撃を敢行した。対するバリアレスは、頭に向かって正確に棒を振り下ろしてくる。
今までとは違う。これなら。
瞬時にそう思った士会は、頭蓋を断ち割らんとする棒から身をそらし、さらに右手で持った自分の棒を打ち付けて軌道をずらす。
そして同時並行で前進、がら空きの懐に入り――。
はたと気付いて、自ら側方に跳び退った。
直後、士会のいた場所を、バリアレスの長棒が薙ぎ払っていく。
転がりながら立ち上がり、士会は息を吐いた。
一手、足りなかった。攻撃を上手く流し、懐に飛び込んだところまでは良かったが、反撃に転じる前にバリアレスの棒が戻ってきたのだ。
特に、武器を持った右手が合わせて後ろに流されており、攻撃に回すのが遅れたのが痛い。しかしバリアレスの棒を弾かなければおそらく腕に当たったため、仕方のないことではあった。
いっそ、空いた左手でぶん殴りにでも行けば良かったか。
どうだろう。微妙なところだ。しかし攻撃する素振りがあれば、バリアレスの方が避けていたかもしれない。
考えている間に、バリアレスが突っ込んできていた。思った通り、気が短い。
一転、防御に徹することになる。
初めは反撃の機を虎視眈々と狙っていたのだが、バリアレスの攻撃の苛烈さは、士会の予想を遥かに上回っていた。
受ける、いなす、かわす。防いだと思った次の瞬間には、次の攻撃へと繋がれている。一つの流れのような連撃の中に、士会はどうしても隙を見出せない。
不味い。甘かった。このままでは泥沼から上がれない。おそらくこれがバリアレスの真骨頂。性格から見ても、本来の彼は攻め一辺倒の戦い方なのだろう。
「どうしたどうした! もう終わりか!」
士会には返事をする余裕もない。凌ぐので精一杯なのだ。
一本の剣で一度に出来ることは一つしかない。先程もそれで攻め損じた。補うにはどうすればいいか。
その瞬間、士会は目を見開いた。頭によぎったのは、命を燃やして戦う背中だ。
これだ。これしかない。
バリアレスの渾身の一撃。今までとは違い、士会は全力で棒を打ち合わせた。
激しい音に、衝撃。
互いに武器が後ろに弾かれ、大きな隙になっている。しかし同時に、攻撃にも転じられない。
だが、士会の狙いは隙を作ることだった。そこに攻撃を加えることではない。
衝突の衝撃を利用し、士会は脱兎の如く後退していた。思い切り、相手に背中を向けている。敵前逃亡もいいところの情けない姿だが、頓着している暇はない。
ちょうど目に付いたところに亮がいた。その隣に向かって手を伸ばし、士会はあらん限りに叫んだ。
「それ寄越せぇぇぇえええええええええ!」
士会の声が天高く響いた。
※
周囲の雰囲気は、既に決着は付いたとでも言いたげだった。最初こそどちらが勝つかと緊迫した空気が漂っていたものの、次第に試合はバリアレスの側に傾き、今や士会は防戦一方だ。よく粘るといった感想はあっても、逆転劇を予想する声はない。亮から見ても、勝ちの目が薄いのは良く分かる。
とはいえ、このまま終わるとも思えないのが、士会のいいところだ。現に今も、士会の目から諦めの色は見受けられない。勝ちを目指して足掻いている。
従者二人は心配そうな目で士会を見つめていた。特にシュシュは、主人に何かあったらと、気が気でないようだ。そもそも立ち合い自体従者たちは反対していたのだが、場の空気にかき消されてしまった。
不意に大きく局面が変わる。
士会が背を向けて逃げ出したのだ。周囲から戸惑い、失笑が漏れる。バリアレスは信じられないと言いたげに呆然としていた。
しかし士会はそんな周囲の様子に構うことなく、こちらに手を伸ばし、叫ぶ。
「それ寄越せぇぇぇえええええええええ!」
急に叫ばれて驚いた亮だったが、それでも十年来の付き合いだ。正確には自分を見ているわけではないことにも気づき、真っ先にその意図を汲んだ。
「これ、借りてもいい?」
亮は、隣で困惑していた兵に声をかけた。唐突な頼みだったが、彼はすぐ従ってくれた。
「ほい!」
兵から受け取り、亮は士会に向かって思い切り投げた。
ほとんど攻撃に近い勢いの投擲だが、まあ大丈夫だろう。士会だし。
ぎょっとした士会は反射的にかわしかけ、体勢を崩しながらもなんとかつかみ取った。
それは、士会が持っているものと同じ、調練用の棒だった。
「亮てめえ! もっと優しく投げろ! これ一応刃物って設定だろうが!」
「いいだろ別に! 上手くいったんだし!」
「まあな! ありがと!」
押しつけ合うように言い合ってから、士会はバリアレスに向き直った。その両手には、一本ずつ棒が握られている。
「なるほどな。急に逃げ出すから驚いたぜ」
「中断して悪かったな。さあ、仕切り直し、第二ラウンドだ――行くぜ!」
士会が意気揚々と突貫していく。そのまま打ち合いが始まったが、先程とは異なる様相を呈していた。
ほぼ攻守がはっきりしていた前半戦に対し、今は互いに相手を脅かす中で隙を伺い合っている。
片手でバリアレスの攻撃を受けきることは士会にも出来ないようで、まともに止める時には両方の棒を用いている。しかしいなす分には一本で事足りることもあり、場合によっては士会の棒もバリアレスに届きかけていた。バリアレスの顔からも、余裕が消えている。
打ち合いは長く続き、次第に激しさを増してきていた。見物客も再び緊張感を取り戻し、固唾を飲んで見守っている。水を打ったような静寂の中、木と木のぶつかる音が響く。
やがて、三十合を超えたか、といったところで、唐突に立ち合いは終わった。
バリアレスの大振りの攻撃を士会が防いだところで、士会の棒の片方が折れたのだ。少し軌道は変わったものの、バリアレスの棒はそのまま突き進み、士会の頭をかすめる。
同時に折れた士会の棒が飛んで行き、バリアレスの額を打ち付けた。
そのまま両者、地面に倒れ伏す。
動かない。さすがに心配になり、亮は二人に駆け寄った。
「士会!」
呼びかけながら覗き込む。そこには、荒い息を吐く士会の顔があった。
どうやら疲れて動けないだけのようだ。心配して損をした。
しばらくして、まずバリアレスが身を起こした。ゆっくりと立ち上がり、彼も士会の顔をのぞき込む。
負けていられないとでも思ったのか、士会も起き上がり始めた。多分、意地でもって体を動かしている。
なんとか、士会も立ち上がった。
亮の目の前で、二人はしばし見つめ合っていたが――。
同時に動き、拳を付き合わせ、笑い合った。
静まっていた周囲からも、歓声が湧き上がる。
「バリアレス、調練中になんの騒ぎだ?」
そんな中、長柄の棒を拾うバリアレスの背後から、声をかける者があった。
「ちょっと立ち合いをしていました。こいつら、なかなか話のわかる奴等で――……」
意気揚々と話すバリアレスの口がぴたりと止まる。
「こいつら? 奴等? バリアレス、少々話がある」
「ち、父上……」
反射的に全体的な口調は敬語になっていたものの、肝心の士会たちへの呼び方が修正されていなかった。
至極冷静なバリアレスの父親、ウィングローの登場で、沸き立っていた群衆もあっさりと静まりかえっている。なんという早技か、亮の気づかない内に、後退して距離をとっていた。そしてバリアレス本人の顔は、激しい立ち合いの後にもかかわらず真っ青だった。
「さあお前達も調練に戻れ! ……申し訳ございません、愚息がまたご無礼を働きました。教育的指導を行っておきますので、それでは」
蜂の子を散らすように兵達が調練に戻っていく中を、ウィングローがバリアレスを引っ張っていく。
やっぱりこうなったかと思いながら、亮は物陰へ向かう二人を士会とともに追いかけた。