袖壁突破
この場にいる袖兵は、既に敵とすら言えないくらい乱れていた。完全に統制を失い、方々に散っている。指揮官も討っているし、そうそう容易くはまとまれないだろう。おかげで、苦もなく街道に戻って来ることができた。
バリアレスは、途中で林天詞の数千ほどと春楼の一万近くの軍を突破してきているが、騎鴕隊に追われることなくこちらに来ている。林天詞軍の騎鴕隊は、規模が小さく、まともにこちらを追えるようなものではなかった。春楼のところでは騎鴕を見ていない。おそらく、将周りを固める麾下の騎鴕以外は、全てこちらに来ているのだろう。つまり、春楼軍の騎鴕隊は、今ここで壊滅させたのだ。
勢いさえつけば、騎鴕隊は歩兵に対して圧倒的な力を出す。春楼の軍を突っ切るのは、こちらの存在を知られた今でも、そう難しくないかもしれない。
騒動の中で、袖兵が元々乗っていた戦鴕も、まとまりを失って散り始めていた。ある程度群れる性質はあるので、完全にばらけはしないだろう。ただ、敵の戦鴕を鹵獲して、二人乗りの騎鴕を減らすつもりだったバリアレスにとって、それだけは向かい風だった。さすがに、全員分確保してから移動するような悠長なことはしていられない。
進路上にいた戦鴕だけ、拿捕してこちらの兵を乗せ、即席の騎鴕に仕立て上げた。二人乗りがまだ残っている以上、騎鴕隊全体の速度を落とさざるを得ないが、仕方ないだろう。
それでも、走り続けられる限界の速度を維持しつつ、街道を駆け抜ける。本気を出せばまだ速度は上げられるが、それは一時的なものだ。しばらくすると鴕鳥は力尽き、走れなくなってしまう。それは親から受け継いだ歴戦の名鴕、ハルパゴルナにしても同じだ。だから、敵陣の突破にだけそれを使い、後は並足で進む。ここから軍を突破しつつ進まなければならない以上、温存は必須だった。
後ろの士会は、結局バリアレスの後ろに乗せたままだ。降りるか、と聞いたが、何も答えなかった。それで、バリアレス自身の興味もあり、直々に連れて行くことにした。
それにしても、とんでもない気迫だった。ただ同乗しているだけなのに、急かすような圧力をひしひしと感じる。少しでも気を抜けば、叩き落とされそうだ。ちらと後ろを見れば、士会の瞳は煌々と輝いていた。味方ながら、ある種の恐怖すらバリアレスは抱いた。
というか、味方でいいんだよな……?
背後から来る殺気が、まだ見えない敵だけに向いているとは、どうにも思えない。
前に出していた、斥候が戻ってきた。こちらも走ってはいるが、遅い騎鴕に合わせているし、短い距離なら疾駆させても問題はない。だから、時々斥候を出して、前方の状況を確かめていた。
実のところ、こういうやり方はあまり慣れていない。逐一確認など、自分の性にあっていないように思っていたのだ。しかし、今回はフィリムレーナの護送が任務である。決して間違いがあってはいけない。
林天詞と交戦した時の己の失態が、バリアレスを慎重にさせていた。大任を果たすためには、ただただ舞い上がって突き進むだけでは失敗する。
「前方、二里ほどに袖軍四千、指揮は歴燈!」
斥候を下がらせた後、バリアレスは少し考えた。
四千というのはいかにも少ない。行きでは歴燈は春楼と一緒にいた。おそらく、自分を追うように命じられて、ここまで出てきたのだろう。
湾曲した道を走り抜け、張り出した尾根を避けると、袖軍が姿を現した。
翻る歴の旗――斥候の報告通り、歴燈の軍だ。思ったとおり、見たところ全て歩兵で、騎鴕隊はいない。
「……ありがたいな。そう思わないか? 士会」
やはり、返事がなかった。しかしバリアレスは、気にせず笑みを浮かべていた。
小さな軍二つより、大きな軍一つの方が突っ切りにくい。わざわざ小分けしてくれるとは、向こうの総指揮の春楼とやらに感謝したいくらいだ。
ただ、歩兵なりに騎鴕への対策は立ててきているようだ。戦鴕を止めるため柵が準備されている。
「先行して、柵に縄をかけろ! 引き倒せ!」
鴕止めの柵は騎鴕隊に対する常套手段なので、こちらも準備はしてあった。先端にかぎのついた縄を用意しており、それを引っ掛けて騎鴕で引っ張る。それで、容易く倒せるのだ。
一隊が前に出て、縄の準備を始めた。そこに矢が射かけられてくる。いくつかの騎鴕が当たり、倒れたが、無事に縄はかけられた。
それでも、思ったより犠牲は少なかった。二人乗りをしている騎鴕は、バリアレスの部下が縄をかけ、同乗の近衛兵が矢を叩き落とす、といった戦い方をしている。さすがに、稀代の豪傑、イアルが育てた近衛隊なだけあって、一人一人が相当な精兵だった。
左右の柵が倒れていく。バリアレス自身も、矢の届く距離に入った。当たりそうなものは、全て棒を振り回して防ぐ。
「自分の身は自分で守れよ!」
後ろの士会に向かって叫んだが、士会は言わずとも剣で矢を弾いていた。
鴕止めの柵が引き倒されていく。バリアレスは速度を上げた。柵を排除した味方を追い越し、先陣を駆け、歴燈の軍に真中から突っ込んだ。
棒を回して敵兵を弾き飛ばしていく。
「おらあ! 死にたい奴は前に出ろ! 頭かち割ってやる!」
バリアレスの叫びに、敵兵は後ずさりかけた。しかし、それでもなんとか踏みとどまり、こちらを止めようとしてくる。
バリアレスは、舌打ちしたい気分だった。別に突き崩すことが目的ではないのだ。騎鴕隊の圧力を逃がすため、向こうから道を開けてくれれば、一番楽だった。敵中に入ってしまえば、同士討ちのおそれで矢は使えないだろうが、ここは戦場だ。何があるか、わからない。
「……右だ!」
「何?」
沈黙を保っていた士会が、何か言い出した。敵を棒で殴り飛ばしながら、バリアレスは聞き返す。
「向かって右側が脆い。そんな気がする」
「なんで分かる」
「なんとなくだ」
「はあ?」
わけがわからないと思いつつも、バリアレスはその言に従うことにした。どの道、このまままっすぐ突き進めば、歴燈の旗目掛けて進むことになる。将の周りは精強な兵が固めているので、それは避けたい。だから元々、左右どちらかへと進路を変える必要があるのだ。どちらでも変わらないと考えていたが、どうせなら言うようにしてみるのも悪くない。バリアレスは無意識に、士会の中に何か自分にないものを感じていた。
バリアレスはハルパゴルナの手綱を使い、方向を変えるように命じた。それに続き騎鴕隊全体が右へ向かう。歴燈も、それに合わせて陣形を変えつつあったが、追いついていない。
驚いたことに、少し進んだところで抵抗が急に小さくなった。敵が向かってこようとせず、道を開けてくれている。背を向けて逃げる兵すらいた。時折踏みとどまる兵も、組織的な動きになっていない。明らかに、ここだけ弱兵だった。
士会は、これを見ただけで感じ取ったのか。
「俺は……フィナを……」
当の本人は、ぶつぶつと何かつぶやいていた。それでも、左右から突き出された槍や戟は、自分で払いのけている。前に意識を専念できるため、バリアレスとしてもありがたい。
抜けた。歴燈の軍を後ろに置き去り、依然、街道をひた駆ける。ただ、少し戦鴕の足を落とす。全力は、林天詞軍の突破まで取っておきたい。歴燈、春楼よりも率いている兵の数は少ないが、多分一番の難敵だろう。
幸運だったのは、近衛兵たちと自分の兵との間に、練度の差がそうなかったことだ。というか、こちらの兵の方が負けているくらいだろう。おかげで、呼吸も混ぜ物にしてはかなり合っている。ひたすら摩耗する戦いを続けた近衛の疲労は濃いだろうが、もうしばらく頑張ってもらわねばならない。
「おい、士会。さっき、なぜ脆いところがわかった」
「わからん。だけど、動きが悪いような、そんな気がしたんだ」
気がしたと士会は言うが、実際にその通りだったのだ。馬鹿にはできない。何か、自分には見えていなかったものが、士会には見えていた。
緩やかな峠を一つ、越えた。ここから先は、緩い下りが続き、最終的にウィングローと歴燈がぶつかった原野に出る。原野の先は、既に鷺の中だ。そこまで姫の安全を保証するのが、バリアレスの役目だった。
新たな袖軍の報告が入った。春楼の本隊だ。五千ほど。
すぐに、直接見える距離に達した。街道を含め、尾根と尾根の間の平地を、遮るように布陣している。
「今度はどうだ?」
士会に聞いた。返事が来ず、また無視されたか、と思ったところで、士会は口を開いた。
「なんだか、散漫に見える。さっきよりも」
「ほう」
多分、当たっている。往路での突破で、春楼とも手合わせしているが、歴燈と比べて明らかに下手くそな指揮だった。歴燈は平原で、ウィングローには及ばないものの、堅実な指揮をしていたのだ。さっき容易く突破できたのは、向こうが歩兵だけだったのが大きい。それも、ただ駆け抜けただけで敵への打撃は全くと言っていいほど与えていない。
実力と身分が一致していないように思えるが、まあ、よくあることだろう。正直人の国のことは言えない。
さておき、先の歴燈もそう手こずらなかったし、どうやら士会の指示は信用できそうだ。
「気に入った! おいお前、今から俺の目になれ」
「目?」
「ああ! 今だけでも構わん」
「何をすればいい」
「敵の弱所を指示してくれ。多分、俺より見えている」
士会は何も言わなかったが、うなずいたことはわかった。
バリアレスは、何か燃えるようなものを感じていた。姫を守っているということ以上に、この若武者と肩を並べて戦っているのが嬉しいのだ。多分、近衛の一人なのだろうが、不思議とそんな気持ちを抱かされている。相棒というのは、こういう存在を指すのだろうか。
「初めは、まっすぐ春楼へ。途中で向きを変える」
「いいだろう。信じてるぜ」
バリアレスは、ハルパゴルナの腹を蹴った。加速する。一騎分、先行した。
「さあ――行くぜぇっ!」
清々しさと荒々しさが同居したような笑顔を浮かべ、バリアレスは士会とともに春楼の軍に突っ込んだ。
一直線、「春」の旗目掛けてひた駆ける。遮る敵もものともせず、春楼の軍を断ち割るようにして、バリアレスは突き進んだ。本陣がぐんぐん迫ってくる。動揺を示すかのように、旗が揺れた。
脇にいた兵たちが、春楼の近くに集中し始めた。春楼は陣形も気にせず、とにかく自分の周りを固めようとしている。自分が先ほど突破した時と、何一つ変わらない動きだ。しかし、ただ数だけ集めても、脆いものは脆い。
一瞬、ついでに春楼を討っておくかと思った。多分、この突破力なら行ける。先程のような無謀な突撃にはならない。
だが、今は姫の護送中だ。余計なことをしている場合ではないと首を振る。春楼は、明らかに戦慣れしていない。そんなのが総指揮を任されている辺り、国の歪みが見える。ああいう手合いは保身には全力を尽くすだろうし、阿呆のお偉方は、自国には害悪だが敵国にとってすれば益虫だ。放置でいいだろう。
「バリアレス!」
「ああ! わかってる!」
そろそろだろう、と思ったところで、士会が声を上げた。それに従うように、左へと進路を取る。手薄になった端の方は、ほとんど抵抗らしい抵抗もなく、駆けることができた。
突き抜ける。通ってきた部分は、ほとんど潰走しかけていた。本当に、脆いものだ。
大した犠牲もなく、歴燈と春楼を突破できた。最後に残る関門は、林天詞軍だ。行きの自らの失態を思うと、まだ口の中が苦い。おそらく、今までの連中とは格が違うだろう。
とはいえ、林天詞が率いていたのは、せいぜい四千ほど。そこに一万を越えるウィングロー軍がぶつかっていたのだから、既に離脱している可能性も大いにある。そのことに気づいて、バリアレスは少しだけ力が抜けた。なんだか、肩透かしを食らった気分だ。
既に敵中からフィリムレーナを救出してから、一時間近くが経過していた。その間、士会は絶えず、近づくもの全てを斬り裂くような圧力を放ち続けている。どの程度この状態で戦っていたのか定かではないが、こいつのことを考えると、あまり時間はかけたくない。
バリアレスは、少し速度を上げた。気休めかもしれないが、早く休ませてやりたいのだ。
「――何?」
「間違いありません。旗を、確認しました」
斥候が疾駆して報告してきた。
四百騎。掲げているのは、「林」の旗。こちらに向かって、悠々と駆けているという。
楽には帰してもらえないようだ。
間もなく、前方の尾根の陰から、林天詞の騎鴕隊が姿を現した。見たところ、歩兵はいない。それに、ぶつかるにしては、妙に位置がずれている。初めに手玉に取られた時は、平原から山間に入ってすぐだった。ここは、それよりもいくらか袖側に入り込んだところだ。
「やる気だな」
そのことは、林天詞を見てすぐにわかった。闘気といえばいいのだろうか、並々ならぬ気配を感じる。これまでと同じように、突っ切って終わり、というわけにはいかない。騎鴕隊同士なら追われるし、二人乗りもいる以上、おそらくあっさり追いつかれる。鷺の本隊がいるところまで逃げ切れるというのは、甘い考えだろう。
ぶつかるしかない。数ではこちらに分があるが、姫の護衛にある程度割かれてしまう。
急に、林天詞の騎鴕隊が二つに分かれた。ちょうど半分、二百騎ずつが左右から向かってくる。
「ブラムストリア、向かって左へ。俺は林天詞に当たる」
指揮下の隊長の一人に三百を預け、バリアレスは隊の中央に立つ「林」の旗目掛けて速度を上げた。
林天詞は、外側に回り込むような軌道で向かってきた。騎鴕隊の先が目まぐるしく動き、行く先を読ませようとしない。
上手く、かわされた。林天詞はそのまま、戦場の真中の方へ駆けていく。
――狙いはそっちか!
その行く先には、ブラムストリアに任せた三百がいた。敵の二百騎が、からみつくようにぶつかってきている。今、林天詞に行かせるのはまずい。
バリアレスは、騎鴕隊を疾駆させた。林天詞を追う形になる。
間に合わない。こちらが介入するより先に、林天詞にブラムストリアの隊は突き崩される。二人乗りが混じっているので、どうしてもこちらは遅いのだ。ならば、こちらも敵のもう一隊を潰させてもらう。
そう判断したバリアレスは、わずかに進路を変えた。
「バリアレス! 違う!」
「何!?」
士会の叫び。
その瞬間、林天詞が急に反転してきた。もう、十数秒でブラムストリアに当たる、というようなところだ。肌に粟が立つ。
ブラムストリアの方に向かったのは誘いで、最初から狙いはこちらだったのか。
林天詞の騎鴕隊は、まっすぐこちらに向かってきていた。細い、錐のような隊形だ。横からぶつかられる形になった。バリアレスの少し後ろの辺りを、突き刺すように駆け抜けていく。
フィリムレーナは。そう思って振り返ったが、無事なようだ。しかし、今のは危なかった。
急いで兵をまとめた。林天詞はまた反転している。正対するように、バリアレスは駆けた。兵は、あくまでこちらが多いのだ。正面からぶつかれば、負けはしない。
「後ろだ!」
また、士会が叫んだ。敵のもう一隊が、バリアレスに向かって駆けてきている。ブラムストリアが懸命に追っているが、やはり追いつけない。挟み撃ちを受けることになる。
やっと、わかった。向こうの狙いは、初めから自分の首だ。
判断は、速かった。それなら、林天詞とまともにぶつかろう。
「バリアレス! 隊を分けろ!」
「もう遅い!」
言い返しながら、林天詞の隊へと速度を上げた。左後方から、敵が追いすがってくる。先頭の若い銀髪の指揮官は、小気味いいくらい自分しか見ていない。
追いつかれた。敵の指揮官が剣を振るい、バリアレスを狙ってくる。
一瞬、応戦しようとした。しかし次の瞬間、後ろに乗った士会が、上体だけ振り返った。
「俺がやる! 前だけ見てろ!」
「――おう!」
胸の底から、熱く震える、不思議な物がこみ上がってきた。
澄んだ、金属音。戦鴕の立てる足音が戦場に立ち込める中、すぐ後ろから響いてきた。二度、三度。そこで、敵は離れていった。ブラムストリアに追われているのだ、執拗に絡むことが出来なかったのだろう。それでも、背後の何騎かは討たれた。
林天詞は、直前で方向を変えた。機敏な騎鴕隊だ。割り込もうとしたが、上手くそらされた。そのまますれ違うようにして、こちらのもう一隊の方へ向かう。円を描くようにして動き、ブラムストリアを弾いていた。
ならばこちらはと、指揮官のわからない敵の隊に、矛先を向ける。こちらの介入を察して、敵の隊は即座にまとまり、離脱しようとした。
――ここだ!
「バリアレス!」
「わかってらあっ!」
後ろの士会と、響き合うように、同調する。そんな感覚が、はっきりと教えていた。
戦機は今、ここにある。
バリアレスは、素早く後ろに指示を出した。
隊が三つに分かれる。最後尾の百騎は、追ってくる林天詞に対応。二百騎は、姫の護衛。そちらにバリアレス自身以外の二人乗りの騎鴕を任せた。
残った自分の下にいる、一鴕一人の百人百騎。それを、全力で走らせる。まさに枷を外したかのように、バリアレスの騎鴕隊は一瞬にして加速した。
ハルパゴルナは、二人乗りでもものともしない。今までは、後ろに合わせていたのだ。
格段に速度を上げたバリアレスの騎鴕隊を見て、敵の指揮官が目をむいたように見えた。離脱が間に合わない、相手は分離して百騎のみ、ということを瞬時に理解したのだろう。すぐに矛先をこちらに向けてくる。
やはりこちらは、林天詞と違い、指揮官が先頭で突っ込んできていた。
剣。燐鉄棒を合わせた。弾き飛ばす。二打目を入れる余裕はない――そう思った瞬間、士会が剣を振るっていた。
敵の指揮官が、戦鴕から落ちた。バリアレスが見たのは、そこまでだった。敵の騎鴕隊を突き崩していく。しかし、姫のところに戻らなければならない。姫を襲っている林天詞を、止める必要がある。
反転した。林天詞。近い。置いてきた百騎は突き崩され、姫を守る二百騎には半分の百騎が当てられていた。隊を分け、残った百騎で脇目も振らず突っ込んできたのだ。
俺の首。どこまでも、それを狙っていたのか。
百騎同士。正面から、ぶつかる。こちらは、反転の直後で、速度が落ちていた。
やられる。
そう思った瞬間、林天詞は反転していた。一瞬、隊の中の林天詞と目が合う。
にやりと笑った気がした。それで、もう退く、というのがわかった。
負けずに笑い返す。
後ろから、鴕群の立てる大きな音が近づいていた。