表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世剣聖  作者: 鷹武手譲介
第一部 異国からの脱出
15/113

合流

 捉えた。敵の騎鴕隊。音で気づいた者がこちらに向かってくるが、ほとんどの注意は山の方に向いている。戦鴕がまとめられているところを見ると、敵の多くは下鴕しているようだ。


 接敵した。馳せ違いざま肩を砕く。続いて二人目、三人目。

 やはり、弱い。一段目の林天詞軍とは比にならない。先程の袖本隊といい、この騎鴕隊といい、練度において大きく劣っている。数だけは御立派だが、烏合の衆と言っていい。


 躊躇うことなく、バリアレスは敵中へ(おど)り込んだ。ほぼ無抵抗で突破できるが、今回は罠ではないだろう。まさか背後から敵襲があるとは思わず、浮き足立っているのだ。そもそも敵かどうかすら判断がついていない者もいるようで、軍全体にまとまりが感じられない。万超えの本隊が後ろに控えていたのだから、当然ではある。


 袖兵の塊は、街道から脇に入った間道へと続いていた。荷車一台が通れるほどの道だ。迷わず、バリアレスはそちらに進路を取った。


 敵は皆戦鴕から降りている上、完全に不意を打っている。しかも、陣を組んでいるわけでもなく、山道に細長く軍が伸びていた。その上こんな弱兵で、騎鴕隊の圧力にこらえられるはずがなかった。湧いて現れたような騎鴕隊を前に、敵は算を乱して逃げ惑っている。こうなれば、無人と大差ない。


 ――見つけた!


 心臓が高鳴った。つづら折りの山道をいくらか登った先。鷺の近衛兵と思わしき一団が、上から下りてきている。林内が明るいおかげで、見通しが効いていた。


 ここは山道で、しかも曲がりくねっている。騎鴕隊も全開の速度を出すわけにはいかない。それが、酷くもどかしかった。二つ、三つと、道の曲がりを越える。


 見ている間にも、一人、また一人と、近衛兵は討たれていた。それでも、構わず前へ進んでくる。


 最後の曲がり。焦りを覚えながらも、バリアレスは切り返した。その視界に、残りわずかとなった袖兵と、もういくらも残っていない鷺の一団が映る。護衛三百と聞いていたが、侍従を含めても五十を下回っているのではないか。


 その先頭に立った若武者は、不思議な服装をしていた。具足を着てはいるが、その下は上下ともに丈が短い。服だけ見ればおよそ戦場に立つ者とは思えないが、鬼気迫る様相で敵を突き破っている。返り血で、全身が真紅に染まっていた。


「なぜだ! なぜ……」


 彼我の間の敵は一人。この軍の指揮官だろう。前後に敵を抱え、完全に錯乱しているようだった。

 さすがに、指揮官の周囲を固めている、麾下の兵は立ち向かってきた。それを棒で叩き伏せる。瞬時に四人が、道脇に吹き飛んでいった。それを見て、他の兵も怯えを見せた。


 蹴散らす。


 言葉そのままに、あっけなく袖兵は散っていった。指揮官も逃げようとしたが、背後から若武者に貫かれた。

 バリアレスは、そこに走り込む。若武者に貫かれた袖の指揮官を、棒で突き上げた。


「ウィングロー軍上級将校、バリアレス・ファルセリア、参上! 殿下をお迎えに上がりました!」


 歓声が上がった。バリアレスの背後では、鷺の一字を書いた国旗と、ファルセリア家の紋章旗がはためいている。


 バリアレスは隊を二つに割り、半分を残してフィリムレーナの一行の奥へと向かった。まだ、山の上から交戦の気配を感じる。


「全員を騎鴕に乗せろ! 百騎は俺について来い!」


 その時、血衣の若武者とも交錯した。

 その瞬間、バリアレスは凄まじい圧力を感じた。思わず振り返る。


 これは。

 父から聞いたことがあった。稀なことではあるが、戦の中で限界を突破し、凄まじい力を発揮する者がいると。そしてそういった者は、止まらない限り――遠からぬ先に、死ぬ。


 まずい。だが、同時に敬意の念も湧いていた。若武者の覚悟が、直に伝わってきたのだ。


 残った者たちは、幼い侍従や学者も含め、皆武器を手にしていた。例外はフィリムレーナくらいだろう。本当に、総力戦になっていたようだ。


 一団の裏に出た。そのまま坂を駆け上がる。


 すぐに、眼前に敵兵の群れが現れた。それを、近衛兵の一団が止めようとしている。一団と言っても、既に十人ほどだ。崩れ落ちるように後退しながら、それでも敵を遮り続けていた。


 バリアレスは、手綱でハルパゴルナに命じた。疾駆する。


 今ここに限って言えば、直線だ。全力を出せる。


 山を下り、残敵を殲滅しようと走り込む袖軍に、バリアレスは突っ込んだ。間合いに入った瞬間棒を振るい、敵兵を弾き飛ばしていく。敵も勢いはあったが、騎鴕隊には遠く及ばない。すぐに散り始めた。


 頃合を見て反転し、残った者たちを後ろに乗せるよう、何人かに命じる。


 その間に、二人倒れた。彼らも、全力を越えた力を発揮していたのだろう。


 それにしても、イアルの姿が見当たらない。はぐれたか。それとも、もしくは。

 しかし今は戦中だ。感傷に浸るのは早い。最優先事項は姫の護送だ。

 手早くフィリムレーナの一団まで戻った。既に、一人を除いて、生存者の収容は終えていた。


 最前列にいた、ここまで道を斬り開いてきた若武者は、今にも倒れそうだった。役目を果たした、という達成感に満ち溢れていた。それでも、目に入る者全てを斬り伏せる、とでも言いたげな威圧感も放っている。不思議な状態だった。それに圧され、後ろに乗せるどころか、誰も近づけなかったのだろう。


「おい、まだ寝るには早いぞ!」


 バリアレスは迷わず若武者に駆け寄り、鴕上から手を伸ばした。


「まだここからいくつもの軍を突破して、国に帰らねばならん。さっさと乗れ!」


 彼の目に光が灯った。まだ、終わってはいないと呟く。剣を持っていない左手が、バリアレスの手へと伸ばされた。


 間近で見ると分かった。彼の持つ、鈍色の剣。見覚えがある。


「………………。お前、名前は?」


 鴕上へと引き上げ、後ろに座らせた。見渡すと、他の面々の用意は整っている。


「……士会」

「よし、士会! 行くぜ、しっかり捕まってろよ!」


 バリアレスは、再び駆け出した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ