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「さて、と……」
まだ竜田揚げが口の中に入っているのでもぐもぐしている私を気にせず、ルーク君はお弁当箱を素早く保冷リュックに片付ける。しかもそのままリュックを背負いなぜか私を抱き上げた。
突然お姫様抱っこされて目を白黒させている私を抱え、軽々と1つ下のバルコニーに飛び降りる。それを数回繰り返し、一番下の観覧席までおりてきた。人混みをすいすいと避けて移動した先の目的地はルーク君の友人がいるところだったらしい。
「グリム、ロアーノ。ちょっとゆいさん守ってて。絶対に怪我をさせるなよ」
びっくりし過ぎて声を出せずに固まっていた私は、壁際に立っていた二人の間におろされた。
以前会ったルーク君のお友達だ。
「すみません、驚きましたよね? 舌を噛みませんでしたか? 本当に申し訳ないのですがちょっとだけ我慢していてください」
「俺たちに説明は無しかよ」と文句を言っているロアーノを無視し、ルーク君は背負っていた保冷リュックをグリムに押し付ける。
その瞬間、ギャーッと聞いたことないような大きく野太い鳴き声が聞こえた。それと同時に破壊音が響く。音がした方を見上げると、さっきまで私とルーク君がお弁当を食べていたバルコニーに大きな鳥が突っ込み、長椅子や日除けのサンシェードがバルコニーから落ちてきていた。
ルーク君が私をここに運んでくれていなければ大怪我、下手すれば死んでいたかもしれない。
「……え?」
胴体が大型トラックぐらいの大きさをした鳥が威嚇するように翼を広げ、辺り一帯に響く鳴き声に観覧席はパニック状態になっていた。突然現れた大きな鳥から逃げようとする人々とは逆方向に歩き出すルーク君の腕を慌てて掴む。
「ルーク君、どこにいくの? 危ないよっ」
逃げようと引っ張る私の手にルーク君の手が重なる。
「大丈夫ですよ。前に倒したことあるので」
「あんな大きな鳥を?」
「ほら、ゆいさんも前に食べたじゃないですか。あの巨鳥」
あの巨鳥という言葉でぴんときた。
いつかの晩ごはんに食べた美味しい魔獣のお肉。ルーク君が実技試験の時に撃退したと言っていた巨鳥ってこんなに大きかったのかと今更ながらに衝撃を受ける。私、あの魔獣のお肉を食べたのか……
禍々しい見た目をした巨鳥は飛び出た目をギョロギョロと左右に動かしてなにかを探している。
「……もしかして、あいつってこの間ルークが倒した巨鳥のつがいなんじゃね? 前に授業で受けたよな。巨鳥は魔獣では珍しくつがうって。まだ若い個体で一羽で行動していたからつがいはいないみたいだって先生は言ってたけど」
ロアーノがもしかしてとルーク君の方を見た。
魔獣は通常群れないが、巨鳥はつがいの相手を見つけると二羽で行動するらしい。巨鳥を討ち取ったらその場に留まりつがいが現れないか確認が必要となるそうだ。つがいを失うと日毎に凶暴性が増し、討ち取った者を執拗に狙い襲ってくる。そのためすぐに残ったつがいも処分する必要がある。
それではあの巨鳥が探しているのはルーク君?
「本当に大丈夫なの?」
「はい。叩き落とすので、びっくりさせてしまうかもしれませんが、グリムとロアーノの二人が命をかけてゆいさんを守ります。もちろん俺もゆいさんに被害が及ばないように気をつけますので安心して下さい」
そう言ってルーク君はさらに下へと飛び降りてしまった。
「ルークに任せておけば大丈夫だ」
心配そうな顔をしてルーク君の後ろ姿を見ていたせいかグリムが声をかけてくれた。
「うわっ! おねーさん顔色悪っ。グリムの言う通りルークに任せておけば大丈夫だから安心してください。騎士たちがさっさと片付けてくれればいいんですけど、今日は王族も来てるからまずは避難優先になっちゃいますからね。なぁ、グリムもう少し離れた方がいいんじゃね? 俺ら命をかけておねーさんのこと守らなきゃならんらしいからさ」
「あの! 私のことよりルーク君が……一人で行かせて大丈夫なの?」
「いいのいいの。俺やグリムが行ったら逆にルークの邪魔になっちゃうからさ」
ここじゃ危ないかもしれないのでもう少し離れていましょうと背中を押されている時に再びドンッと大きな音が鳴る。ルーク君が向かった方から聞こえたため、まさかルーク君の身に何かあったのではと不安になって振り返ると、金色の光が閃光のようにバチバチと空に打ち上がるのが見えた。光はあっという間に巨鳥よりも高い位置まで移動し、次の瞬間には地面が割れるような地響きと共に巨鳥が石畳の上にめり込むように沈んでいた。
本当に一瞬のことだった。瞬きする間もなくあの巨体が地面に叩き落されたのだ。地面落ちるよりも先にグリムとロアーノが壁になってくれたおかげで巨鳥が叩きつけられた時に巻き上がった砂埃やら衝撃のようなものが和らいだ気がする。
何が起きたのか分からずに悲鳴をあげていた観客達も、地面に叩き落とされた巨鳥の姿とその横に剣を持ち佇むルーク君の姿に、波が広がるように会場全体から大歓声があがる。
どこか神々しい雰囲気を纏った美しい少年が脅威を排除した。
会場全体に広がった熱気はとどまることはない。
「……すごい、ルーク君。かっこいい!」
動きが早過ぎて正直何が起きたのか全部目で追えていなかったが、私もパチパチと拍手を送る。
ルーク君は居心地悪そうな表情をしながら私たちのところに戻ってきた。
「大丈夫でしたか?」
「うん。二人が守ってくれたからね。それにしてもルーク君本当にすごかったよ! びゅんって空に飛んだと思ったら、あっという間に巨鳥が叩き落されてるんだもん」
私も目の前で起きた出来事に興奮していたのだと思う。ルークの手を両手で掴み、すごいすごいと連呼してしまった。
褒められなれていないのか、ルーク君は「ありがとうございます」とくすぐったそうに微笑む。
「おい、ルーク。いい加減歓声に応えろよ」
「……応える?」
「そうそう。こんな時にやることは決まっているだろうが。ほら、右手を上げろ」
ロアーノに言われた通りルーク君が右手をあげると更に割れんばかりの大歓声となる。
歓声に応えるどころか、収拾がつかない事態に困っているとジェイクが現れた。
「お前たち黙ってまとめてついてこい。国王陛下がお呼びだ」
どうやらこの国の偉い方にお呼ばれしたらしい。ルーク君だけではなく、なぜか私とグリムとロアーノまで一緒について行くことになった。
「ね、ねぇ。私たちまで一緒について行ってしまって大丈夫なのかな?」
「ですよね。俺たち場違いというか……」
ジェイク、ルーク君、そしてその後ろを私とグリムとロアーノがついて行く。
横を歩くグリムとロアーノに声をかけると二人とも同じ気持ちだったらしい。巨鳥を倒して大活躍したルーク君が呼ばれるのは分かるけれど、何で私たちも? という気持ちだった。
しかし連れて行かれた先で、王族が集まっている部屋の中に案内されたのは当たり前だがルーク君だけ。
私たち三人は連れてこられたものの、部屋の外で待機していろと言われ、中で何が起きているのか分からないまま、そわそわとルーク君が出てくるのを大人しく待つしかなかったのだった。




