なんでもない話
ちょっとした折に書いたやつ。至らぬ点が多い。
栗林は袋から酒瓶を何本か取り出した。どれも洋酒だった。机の上に並べる。清水は冷凍庫から陶製のコップを二つ出し、業務用の氷をカチ割って入れた。冷蔵庫を開け、まだ開けていない炭酸水を二本、両手の薬指と小指に挟んで持った。机には煎餅、ナッツ、チョコレートなどがあった。窓の外はシャッターが下ろされている。時おり何かが叩くような音がした。台風はまだ真上にあるらしい。
「明日目覚める頃には熱低だ」栗林はいった。早速ウイスキーを開け、凍ったコップに注いでいる。
「そりゃ昼か、夕方か」清水はいった。ウイスキーを受け取り、注ぐ。氷に亀裂が走った。
「どのみち日付が変わる頃には過ぎてるよ」
「じゃあ明日は晴れか」清水はいった。ナッツを三つ口に放り込む。「野球はやるかな」
栗林は一口含むと、喉の奥を鳴らした。「やると思うよ。やってライオンズが勝つ。今年のホークスは勢いがない」
「ホークスは勝てるよ。何てったって柳田がいるんだ。ありゃひょっとしたら松中よりすごい」
「それはないだろう。松中は最高のバッターだ」栗林は煎餅をかじった。追って酒を含む。「あの松坂からあんなすごいホームランをかっ飛ばしたのは日本人じゃ松中ぐらいだ」
「たしかに、あれはすごかった」
シャッターが鳴った。唸るような、低い風音が響いた。清水は半分まで呑んだところで炭酸水を混ぜた。ひと口含む。舌がかすかに痺れ、燻したような匂いが鼻の奥に広がった。
「良いピート香だ」
「ティーチャーズさ。安いくせに良いスコッチだ」
「普段はやらないからな」
「日本酒より安い」栗林はいった。「まあいい、どんどん呑もう。台風はまだ過ぎない」
「台風様様だ」清水はいった。コップを持つ。「しこたま呑んでやろう」
栗林はウイスキーを注ぎ足すと、コップを掴んだ。胸のあたりまで上げて、「台風に乾杯ってのは何だかな」
「野球に乾杯するよりはましだろう」
「それもそうか」栗林はつぶやいた。「よし、じゃあ台風に乾杯だ」
「ようし」清水は唇をめくって歯を見せた。「昼間っから酒を呑ませてくれる、偉大な台風様に」
栗林は笑った。コップを掲げる。
二人はコップのウイスキーを残らず干した。次はブランデーに手を伸ばした。
話題はふたたび野球に戻っていた。タイガースが優勝するより、チンパンジーがシェイクスピアをタイピングするほうが先だ、と栗林は言った。清水は笑い、違いない、と頷いた。
台風はまだ真上にあった。
以上。これだけ。