98話 翌朝
「おはよ!」
薄着のナディアが顔を覗き込んでいる。シャーディアに頭を撫でられている。猫見たいな扱いを受けているな…
「ああ?…」
「もうお昼になってるけどね」
「昨日からずっとか?」
ルルに怒られて、レイレイに無理矢理薬を飲まされて、ライラーに腕を引かれて寝かしつけられた。そこから記憶がない。
「そうそう。帰ってきてすぐに寝ちゃったの」
「私たちが癒してあげたんですよ?覚えてないですか?」
「全く覚えてない」
「もう!」
ナディアが不機嫌そうに枕を叩く。伸びをして、肩を回すと、とても軽い。本当に疲れが抜けてるみたいだ。
「アルヴィさん?覚えてなくても約束は守ってもらいますからね」
「どんな約束を?」
「今日は一緒に学園についてきてくれるって」
「ああ、行こうか」
マルシアの件も気になるしな。奴が使徒だとすれば、もう一度戦う必要が出てくる。それには情報も必要だ。
「良かったぁ!」
「私たちはまだこの街のこと全然知らないんですから。一緒にいろんな所に連れて行ってくださいね?」
「ああ。そんな約束だったのか」
「そうです。本当は浴場にもついてきて欲しかったのに」
「ねー。あかすりのお姉さんとっても可愛かったのに」
「何なら私たちがやってあげたのにね?」
二人は顔を見合わせて、悪戯に笑う。首に手を当てると、ベタベタしたものがついていることに気がつく。
「寝る時何してたんだ?…」
「抱きしめてただけですよ?ただ抱きついて、癒しの魔力を全身に送ってあげてたんです」
「本当に?」
「お母さんは、首を舐めたりしてたけど」
「なるほどな…」
ライラーまで一緒に寝てたのか…そういえばベッドがまだないんだったか…
「ねぇ?何で頭の後ろに切れ込みが入ってるの?」
「基幹ポートだよ。この世界では無用のものだが、中には便利なチップが突き刺さってる」
ジャミング兵器対策、アンチ電磁パルスとか、対人追跡弾の阻害、カメラ端末に顔を映らなくする、脳を焼く兵器類の対策とか色々。
軍用チップは民間のデータチップよりも秘匿性が高い作りだ。死亡時の個人情報の処理だとか、その他もろもろも含まれている。でもこの世界では全く何の役にも立ってないが。
基幹ポートだけじゃなく、身体状況を端末に送信する生体モニターの改造を受けている。神経系、脊椎の改造は当時最新の技術だったが、失敗すれば感覚がなくなるとかで、兵士の間では禁止されていた。
「手術したんですか?」
「怖いか?」
「うん。だって切れ込みが入ってるんだもん。レームおじいちゃんが、衛兵が操られてたって聞いて、もしかしたらって思って…」
ナディアが抱きつく。なぜか半泣きだ。
「大丈夫だ」
頭を撫でてやると、落ち着いたようだ。
「何か悪い虫が体に入ったんじゃないかって心配してたんですよ」
「割と頑丈なんでね。さて、そろそろ起きるか」
ベッドから体を起こす。窓の外に目を向けると、人の往来がいつもより少ないように見える。
「昨日の夜から街は静かになっちゃった見たい」
「だろうな」
「アルヴィ、気にしてる?」
「まあ、気にしてないとは言えないな」
「だよね。今日も、やっぱりやることがあるの?」
「いや。衛兵の仕事を手伝っただけだからな。頼まれてない以上勝手なことをするわけにもいかない」
「じゃあ、今日は空いてるってことでいいよね!?」
「ああ。付き合うぞ」
「よかった」
「じゃあ、もう行こうよ!」
ナディアが寝転がっていたのに、急に起き上がって手を引く。
「分かったから」
「よく寝てたようだな」
ルルは弓の弦を変えている。だがそこはかとなく不機嫌そうに見えてしまう。双子も、機嫌が良さそうだったが、ルルを見て手を離した。
「おはよう、ルル」
「何でそんな遠慮がちなんだ?」
ルルを避けて前を通ったのがよくなかったか?…
「いや、機嫌悪いかなと」
「そんなことないぞ?集中している時はこんな顔してる」
「なんかこわーい」
空気の読めない発言で空気が凍った。
「こらっ…」
シャーディアがナディアの頭を小突く。
「ふふ。ナディア、私はいつも通りだぞ?」
「ご、ごめんなさい…」
「だから怒ってないって。今日は出かけるんだろ?」
「そう。ルルさんも来る?」
「私も付いていっていいのか?」
「うん!」
声に気づいたのかレイレイとライラーが裏庭から戻ってくる。
「あら?おはようアルヴィちゃん」
「おはよう。何してたんだ?」
「鳥小屋をどう置くか話しててね。昨晩ちょうどリックバークさんに会ってね、鳥小屋を作ってくれないって話したら、すぐに作ってくれるって。あなたのおかげでね」
「卵を食えるのかな?」
「鶏も育てる予定だから…でもアルヴィちゃん、兎と鹿はこれからも獲ってきてね?あれを持ってきてくれる人なんて、あなた意外いないんだもの」
「ああ、精力剤だったか」
「そういう悩みの人は案外多いの。そうだ、みんなご飯は?」
「外で食ってくるよ。これから学園にいくしな」
「やったぁ!アルヴィも乗り気だねぇ」
「あそこのは美味いからな」
「じゃあ、行こうよ!」
双子とルルを連れて、学園に向かう。マルシアが倒れてなきゃいいが。




