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91話 悩みの種

 レナルドは話す声に詰まる。

「私との思い出をこの家から消そうとしているアーサは見て、自分がもっと許せなくなった」

 アーサは大きな足音を響かせ、てレナルドに掴みかかる。

「今更後悔して何になるの!?私を助けに来てくれる人なんていなかったじゃない!役に立たないギルド、唯一来てくれたのはアルヴィ様達だけ。そのせいでずっとあの最低な男に好き放題されたの。見て!この首についた傷を!あんたは何もしてない。ギルドに助けを呼んだ気になって、自分で傭兵を雇って助けにだしたりもしなかった。ただ家で泣いてただけでしょ」

「気が動転していて何もできなかったんだ…」

「アルヴィ様だけ。アルヴィ様だけが私を救うために来てくれた。神が与えてくださった救いなの」

「俺は仕事として助けただけだ。なんでもないただの偶然だ」

「毎日首を絞められて、犯されて。その日々に絶望していた時に助けてくれた人を救世主だって思っちゃいけないんですか?」

「救世主は報酬を貰った時に、救世主じゃなくなる」

「いいですよ?私がそう思ってるだけですから。あなたは私の救世主です」

「でもお前の夫はレナルドだ。神の前で誓ったんだろ?」

「私は、別に不義理の罪で処刑されても構いません」

「俺は夫のいる女と、関係は持たない」

「分かってます。でも一度だけでいいんです。その後に私を罪人として裁く様に言ってください」

「重罪になるぞ」

「ええ。構いません」

「死にたいのか?」

「はい。生きたくありません」

 アーサが、果物のそばに置かれていた刃物に手に伸ばす。

 レナルドが、アーサの手を握る。

「アーサ。そんなこと言わないでくれ。頼むよ。一緒に神父様のところに行こう」

「あの人に話して何になるの?はいはいって聞くだけじゃない」

「それでも、あの人は神様に声を届けてくれる。君に救いがあったのは、あの人が神に声を届けたからだ」

 こればかりは仕方ない。時代の違いだ。信仰は人々に救いを与えてる。起こる奇跡は全て神のおかげという考え方が根付いてる。

「アルヴィ様、ごめんなさい。取り乱して。落ち着くためにも少し時間をください」

「ああ。気をつけてな」

 アーサはレナルドに連れられて、教会に向かっていった。

「はぁ…」

 ずぶ濡れのズボンと外套を着て、帰るとしよう。


 アーサは、俺のことを救世主として見ていた。これはただの憧れの感情が様々な要因で歪んだだけの様に見える。結局は、身近なレナルドの助けがないとアーサは良くなっていかないと思うし、レナルドの心の問題も解決しないと思う。

 俺にできることはなんだ?

 正直、見捨ててしまってもいい。ただの客と店の主人という関係だ。あの女も、いろいろ言ってくるかもしれないが、無視すればいい。

 だが、どうしても思い出す。一線を退いた兵士たちの末路を。怪我してようが、無理矢理直して兵士に戻ろうとしていた。それは居場所を戦場に求めていたからだと思っていたが、誰もそれを言わなかった。多分あの女も俺に居場所を求めてる。でもそれは正しいとは思えない。

「はぁ…」

 濡れてるせいか寒い…春の風はまだ冷たいな。


「ただいま。レイ」

 レイレイは変わらず、怪しげな薬を混ぜている。

「あら?…やっと帰ってきたわ。どうしたの?怪物に下半身を舐められたの?」

「まあそんなところだ。あいつらは?」

「今はルルちゃんと一緒にお買い物。また可愛い子達を誑かしたのね」

「行き先がないらしいからな。それにあの二人は魔術学園に入れてやろうと思って。才能がありそうだ」

「お父さんみたいね。でもあの子達もここの方が暮らしやすいんじゃないかしら」

「ルル曰く、ここは割と亜人も生きやすいらしいからな」

「ええ。私みたいな魔女にも触れずにいてくれるんだもの。まあ着替えてきたら?それと、レームとマルシアが今夜来るみたいよ」

「色々と話すこともあるしな」


 久しぶりの自室。ここも居心地がいいと思えるくらいには馴染んでるみたいだ。

「さて。世話になったな」

 しっかり銃の整備をしないと。整備道具は持って行っていたが、こうしてしっかりできる道具はここにしかない。それとカルカノライフル。これは鍛冶屋に相談してみるか。弾丸はカタログに載ってるのをなんとか再現してもらうしかないかな…まあ、最悪コレクションにしてもいい。

 動きを止める指輪。そして今も微かに振動を続ける水晶。

「これは何に使えるんだろうか」

 蠍の使徒はタールを弾き返すために衝撃波を使っていたというが。この水晶も衝撃を起こすための道具な気がするな。

 それに色々と悩み事も増えた。体が龍になってたとか、あのラタトスクとかいう悪魔なのか、天使なのか、良くわからない奴の事も。レームの知識に頼れるのは幸いだな。


 整備に集中していたら、部屋の扉が開く。結構時間が立ってたみたいだ。

「アルヴィ?帰ってたんだ」

「お帰り」

 ナディアが部屋に入ってくる。

「お家だと、だらしない格好なんだね」

「ずぶ濡れになったんでな」

「この街はどうだ?」

「うーん。わかんない。でもいい感じかな?私のことを見て嫌な顔する人はいなかったからね」

「シャーディアは?」

「うん。お母さんとご飯を作ってるよ!アルヴィもおいでよ。レームっていうおじいちゃんと、マルシアっていうちっちゃいおじいちゃんも来てるよ」

「ああ。これが終わったら行く」

「早くしないと無くなっちゃうよ!」

「つまみ食いで無くす気か?」

「早く、早く!」

 仕方ない…行くか。


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