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89話 注視

「あの場所で倒れているところが見つかりました」

 ドーム状の建造物に煙突がバースデーケーキの様に並んでいる。その中で見つかったとのこと。扉は常に開放されていて、誰でも入れる。

 南区は北の王都に向かうための馬車が多く泊まるから、宿も多い。その分ゴミも多く出る。この辺りには農地も無いから、食い物のゴミや、糞尿は桶に入れて、ゴーレムに処理してるらしい。多分死体を紛れ込ませて捨てようとしたんだろうな。

「この街一番の大きいゴミ箱か。捨てられた時間は夜で間違い無いな?」

「ええ。間違いありません。ここは酒場を出て喧嘩をする為の場所としても使われている様で、そこで寝たまま朝を迎える人もいて、人通りは常にあるはず」

「建物の中は?」

「哀れな豚ゴーレムがいるだけです。今もせっせとゴミを体の釜に入れているでしょう」

 豚ゴーレムにゴミを食わせて、その身ごと焼かせることで、ゴミを処理した上に魔力入りの灰に変える。 豚ゴーレムは豚の頭を使っているからそう呼ばれている。全く術師というのは趣味が悪い。

「建物の周りを見てみるか」

 外周を歩いて回る。一周回っても違和感がわからなかった。もう一度回る。地面だけではなく、上や壁も隈なく見ていく。すると建物の入り口のちょうど真裏に位置する場所に違和感を感じた。

「何かありますか?」

「ん?いや…よくみたら建物の壁全体にあるぞ」

 壁に四つの腕と足で、壁面を歩いた様な痕跡が残っている。ここは城壁の下にあるから、風が当たらずに後が残っていたんだな。

「どういうことです?」

「壁に跡があるんだよ。何かを引っ掛けながら上に向けて歩いてる。鉤爪か?」

「本当だ。壁が崩れている」

 ボルドが撫でると、壁がパラパラと崩れる。かなり風化していて壁に穴が空いている様にも見えるが、その周りに人の足と同じくらいの大きさの跡が残っているから、登ったのに間違いはない。

「屋上に登ってみるか」

「ええ。行きましょう」

 梯子を登る。

 ドーム状に並べられた赤い瓦の屋根。ここに歩いた跡が微かにある。足の大きさはよくわからない。でも並の人間と変わらないと思う。

「ここで一度立ち止まった?」

 痕跡が薄れているからわかりにくいが、体重の踏み込みで少し崩れた瓦が見て取れる。

「何が見えますか?」

「わからない。何もない様に思えるが」

 一歩踏み出すと、その床が崩れる。

「な!!!」

 足からゴミの山に落ちる。


「痛い…」

 最悪だ…尻の下に鋸で切られた様な跡が残る野地板がある。ここから投げ捨てたんだな…

「アルヴィ殿!!無事ですか!?」

「クソ!最悪だ」

 ゴミをどけて出口を出る。

「怪我は?」

「大丈夫。これを見ろ」

 切り落とされた板を見せる。

「なるほど。屋根から捨てたわけですか」

「しかも、中途半端に直してる。臆病な奴の仕業だな」

 頭のおかしい奴は、こういうのはわざと見つかる場所に置きたがりそうなものだ。わざわざ人目につかない様に、屋根をこじ開けて捨てるなんてかなり臆病な奴だ。

「どうやら噂の真偽も怪しくなりましたな。余程の恨みで、あそこまで残酷な真似をしたのかも知れない」

「とりあえず俺が見えるのはこんなもんだ。よく調べるのはあんたらの仕事だ」

「少し光明が差しました。助かりましたぞ」

「ああ。もう俺は帰るぞ…」

「ええ、災難でしたな。お疲れ様です」

 

 ボルドと別れ、路地を歩く。さっさと帰って水を浴びよう。後のことは衛兵たちがどうにかするだろう。

「あ!アルヴィ様!!」

 見覚えのある様な女に話しかけられる。

「お前は…」

 なるほどな。後ろからついてきていた男を見てわかった。アーサとレナルド。あの店に買い物に行くときはこの女がいないときを狙っていたが、迂闊にもまたも会ってしまった…この近くに店があるからか…

「なんでそんな嫌そうな顔をなさるんです?私はただ、この身を救ってもらったお礼に、この身ごと貴方様にあげたいって思ってるだけなのに。でも汚れた女はお嫌いですよね…」

「夫を大事にしろ。レナルドはお前のことをいつも気にかけているじゃないか」

「そんな!私を置いて逃げた奴ですよ。そのせいで…。というよりアルヴィ様、服が汚れていますわ!私が綺麗にしてあげますから!お家にいらしてください」

 目が怖い…

「遠慮しとく」

「そんなにキッパリ言わなくたって。洗濯をして差し上げるだけですよ?そのあとはあなた様にお任せしますけど?」

 本当に目が怖い…

「遠慮しとく。人妻は趣味じゃ無い」

「人妻?違いますわ!あの男とはもはや関係などありませんから」

 夫は奥で目を伏せている。こいつ見るたびに元気がなくなってる気がするぞ…

「おい」

「は、はい…」

「レナルド。黙ってないお前もなんとかいってやってくれないか」

「その…」

「黙ってて」

 怖っ…

「ねぇアルヴィ様。肩が落ちていますね。きっと疲れてるのよ。私、閨を新しくしたの。一緒に寝ましょ?あなたの匂いを染みつかせて欲しいな」

「嫌だ…」

「あなたが知りたいことも教えてあげられるかもね。あそこを調べていたということは、きっとあの事件のことでしょ?そのついででいいから」

「何か知ってるのか?」

「ええ。殺された男のことを教えてあげられるのよ?知りたいでしょ?」

「ここで話すというのは?…」

「いいえ。あなたの腕の中でならお話しします」

「ならいい…」

「なんでそんなにあいつのことを気にかけるの!?まさか、何か言われたんですか?」

「俺は人妻と寝ない」

「じゃあ。私と一緒にいてくれるだけでいいですから。いまだに怖いんです。あなたがこの街にいなかった間、私は…」

「夫に当たり散らしてたのか?」

「夫じゃありません。もう赤の他人です!」

「でもレナルドはあんたを見捨ててない。これは愛されてる証拠じゃないか?」

 レナルドに視線を向けるも、ただ目を伏せるだけだ。

「知りません!!私はアルヴィ様の物なの!」

 アーサが大声を出したせいで衆目が集まり始めてる。

「落ち着いて。場所を変えよう」

「ええ!アルヴィ様!」

 はぁ…さっさと帰りたかったのに…


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