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85話 別の使命を持っていた者

 街の人に話を聞けばすぐに、木の下で子供たちに授業をやっている、と言われた。その通りに向かうと、大きな木の下で子供たちが輪になって、一人の話を熱心に聞いている。

「あの人かな?」

 見たところ、結構歳がいってるように見える。

「多分そうじゃないか?まだ授業をやってるみたいだし、終わるまで待つか」


 小一時間の授業を終えたようだ。内容は植物の育て方の話だった。そして、それを家でも試してみてくれという話。

「しっかり宿題をやってくるのよ。気をつけて帰りなさいね。あら?…」

 すぐにこちらに気がついたようで、駆け寄ってくる。

「あなたもしかして!まさか兵士さん?」

「分かるのか?」

「本当に!?こんなところで会えるなんて!あなた、お名前は?」

「アルヴィだ」

「私はテレーゼ。あなたは何年生まれ?きっと近い時代よね!」

「俺は2060年生まれだ」

「じゃあ私より五十歳も年上なの?。私は2114年生まれ。うふふ。でも見ての通り、私の方が年上見たいね。いやー驚いた。こんなことがあるなんて!」

「まさか。俺よりも後の時代がまだあるとは…」

 てっきり終わってしまったと思っていた。

「うん。あなたみたいな格好した人はよく知ってるわ。そのマークは…NATOの治安維持部隊にいたのかしら?」

「一時期はな。でも前線に送られた」

「どこの戦線?」

「北東、共産圏との境目付近。カムチャツキーあたりの戦線だ」

「ああ、太平洋ラインね…船で入ったの?」

 みんな太平洋ラインの話をするとみんな苦い顔をする。それも仕方ない。一番被害者が多かったのは太平洋に面していた地域。あそこだけで何十億という人間が死んだ。

「ダッチハーバーから潜水艦で入った」

「出身は?」

「生まれはデヴォンポート。イギリスの海辺だ。でも爺さんが住んでるマサチューセッツまで逃げた」

「アメリカまで?ということはアメリカで兵士になったのね。ああ、私はドイッチュランド…ドイツのバイエルンの田舎出身なの」

 ドイツ語が出た途中でいつもの言葉にもどったな。この感覚はおかしな感じだ。言語野がこっちの言葉に無理矢理入れ替えられてる。そのせいで今まで話していた言語が口から出る時にとてつもない違和感に襲われる。

「ジャーマンか」

「そうそう。ジャーマンね。なんだか喋りにくいな」

「同じなのか?」

「ガブリエル様は転生する者にこれを与えなければ、すぐに死んでしまうと言っていて」

「こういうのは共通しているんだな」

「こんなところで立ち話もなんだから。私のお庭まで行きましょう。さあ!」

 手を引かれる。その腕には俺のよりも新型に見える端末が装備されていた。


 花園、色とりどりの花に囲まれた場所。天国の風景といえばこれというような景色が広がっている。

「楽園みたいだな。こんな綺麗な場所写真以外で初めてみた」

「でしょう?かなり苦労したのよ。さ!そこに座って!ほらあなたも。怖い顔して突っ立ってないで」

 ルルが俺の後ろに立っていたようで、それを諫めるように、肩を押して隣に座らせる。

「好みの茶葉は?」

「グリーンティーが好みかな。でも嫌いなのは無い」

「さすが英国人ね、生活に紅茶は欠かせないわけね。ちょうどグリーンがあるから、それを持ってくるわ!」

 こういう冗談は、異世界の住民では無いということを実感する。

「グリーンってなんだ?」

「苦めのお茶だよ。東から来る茶葉でな。なかなか飲めない貴重品だ」

「そうなのか」

「はーい、持ってきましたよ。今日は暑いから冷たい方がいいわよね」

「ありがたい」

「牛乳は入れる?」

「そうしよう」

 一口飲み、一息をつく。


「2100年代はどんな時代だったんだ?」

「うん。共産圏の残存国家との講和条約が結ばれて大国同士の戦争は終わったけど、テロ国家はまだまだ現役で、治安維持部隊という名目の討伐部隊が送り込まれてた。難民の虐殺とか、都市へのテロ行為とかで色々と嫌なニュースばっかりだったね」

「ニュースが遅れず届くだけマシだな」

「確かに」

「汚染地域はそのままか?」

「全部そのまま。デボンポートもだよね」

「ああ。命からがら逃げ延びたもんだ。でも両親は死んだ」

 ノルウェー海にある海底石油を取りに行くには。邪魔な軍港だった。もちろん、ソビエトの連中にとっては面倒な存在だから潰された。

 そのおかげで大勢死んだ。俺は学校に行くために地下鉄に乗っていたから助かった。でも両親は死んだ。

「ご家族は見つかったの?」

「父親の亡骸は帰ってきたが、母親はどこで死んだかもわからない」

 父親はカメラ屋だったのでそこにいることが分かっていたが、母親は記者で、どこにいたのかわからないままで、わざわざ汚染地域を探してくれる人も見つからず、行方不明者という扱いになってしまった。

「そう…ご冥福を祈るわ。残酷な時代だったわね。私も父が兵士だった。帰ってきたんだけど、後遺症で苦しんでた」

「俺の時代と変わらず、勲章を貰えるだけか?」

 補償なんて何もなかった。生き残れば家族に迷惑をかけるから、致命傷を受けた奴は殺してくれって頼んでた。本当に嫌な時代だ。

「そうね。お父さんも死んで帰ってきた方がよかったって言ってて」

「俺も介錯を頼まれたこともある」

 もう助かる余地はなかった。でも仲間の兵士を殺すなんてできなかった。俺は正しいことしたかどうか分からない。


「うふふっ。初めて会ったのに暗い話ばかりね。そうだ、あなたも転生をしたの?」

「ええ。怖い顔した悪魔に頼まれて」

「あれ?私の時はびっくりするぐらい美形の天使の人だったのに。その人が私に転生をして、地上に楽園を作れって。断る理由もなくって、はいって言ってら、気がついたらここにいてね」

 やはり転生者は天使に選ばれるのが普通のようだ。

「それでこの街を作ることに?」

「そうなの。でも大変だったのよ。ここには山みたいな大きさのカバみたいな怪物がいて、あの手この手でなんとか海に返してね」

「あれ?俺の聞いた話ではその怪物は倒されたって聞いたけどな」

「いいえ。あんなの倒せないわよ。だから海に帰ってもらったの、そしたら雨が降るようになってね。泥の巨獣とかいう名前で、本当は海の中にいる怪物らしくて」

「じゃあ、この土地を発展させたのは自分で?」

「そうなの。私は、いろんな植物の種子を作りだすっていう能力に、植物を成長させる水を作り出せるっていう能力に、太陽光を放つ光球を作り出すっていう能力をもらったの」

「そんなに能力を持っているのか?」

「あなたは?」

「俺は向こうから持ってきた銃弾とか部品とかを作るって能力だけだ」

「いいじゃない!私なんて、あっちから持ってきた物なんて『hello』以外、どれもこれも使い道がなくなっちゃったんだもの。それに最初の試練は、あの怪物を追いやることで。戦えなかった私は、とっても苦労したわ」

「そいつはどうやって倒したんだ?」

「街の中央に大きな木が生えてるでしょ?あれを鼻の下に生やして、くしゃみさせたの。そしたら寝返りをうって、そのまま海まで体が転がっていっちゃって。目が覚めたのか海の奥まで帰っていったの」

「いや…どんな大きさだ?…」

 ここから海が見えてはいるが、かなり離れているぞ…

「もうびっくりするぐらいよ。背中の頂上が、雲の上に行くぐらい。身長はここから海に浸かるくらいの大きさだったの。沖に出たら姿が見えるよ。今は魚も取れるいい漁場になってるの」

「その後は?」

「地道にね。人を雇って、土を運び込んで、雨乞いができるとかいう怪しい魔女に頼ったり、結局うまくいかなくて、私が水を呼ぶ魔術を学んだり。右往左往してる内に、気がついたらおばあちゃんになってたのよ」

「でもこれほどまで発展した街になっている。素晴らしい手腕だ。見事ですね」

「やだわ。私一人では植木を作って育てるしかできなかったわ。多くの人が協力してくれて、この土地は作り上げられていったの」

 人格も優れている。民に慕われているのも納得できる人物だ。

「今は、私が学んできたことを教えているの」

 素晴らしい。後の時代のことも考えている。こういう人が世界を発展させていくんだろう。そしてこれから後も、この地は発展していくんだろう。尊敬する。

 

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