84話 花の都へ
「あなた!私の公務を手伝いなさい!!」
王女殿下が家を出たら目の前で待っていた。
「いや…」
「拒否は許されないわ!だって私は殿下なのよ」
地面を足で踏みつける。でも、今日は自由に行動したい…
「仕事の内容は?」
「私と街を回って、民の慰安をしてあげるの。私は人気者だから、みんなの注目の的になるに違いないわ!」
「俺に何ができるんだ?…」
「あなたは私の世話をしなさい。不敬にも私に触れようとする人を遠ざけたり、私への貢物を受け取ったり…」
「別の人に頼んでくれないか?」
「な、なんでよ!」
「俺は用事がある」
「その用事は、この私の手伝いをできることよりも大事だって言うの!?どんな用事か言ってみなさい?くだらない理由だったら、罰を与えるから」
「花の都ミラナに行きたいと思っている」
「何しにいくの?」
「花咲か先生という人物に会ってみたい」
「そうなの。正直に言ったことは褒めてあげる。そうね…」
王女は腕を組みながら、うんうん唸っている。だがこちらに向き直す、表情は不満そうだ。
「わかった。急な願いだったから、今回は見逃してあげる。ほら、分かったのなら行きなさい。それと花咲か先生にまた会いにいくからって伝えておいて」
そう言い残して、引いてきていた派手な馬車に、とぼとぼ歩いて行ってしまった。
「残念そうだったな」
「アルヴィ殿を気に入っている。配下に加えたいって言っていたのを忘れたか?しかし、小間使いがわりに使うためにあなたを選ぶのは、よくわからないな。てっきり行進でもするのかと思ったよ」
「そういうのは王様から直接頼まれるだろう」
「ならば、あなたを使いたいだけか」
「命令をする才能はあるな。あんな強気に言われたら断りにくい」
「いつか損するぞ」
「その時は一緒だ」
「全く…ミラナ行きの足を探さないとな。歩いて行くのは絶対嫌だからな」
その後、旅客ギルドに行くと、ミラナまで行く、油売りの業者に護衛をしてもらいたいと頼まれる。報酬が出て、足も用意してもらえる、と言うのでその契約を受けて、ミラナまで旅立つ。
ミラナまでの道は最低限の舗装があるだけの荒れ道だったが、道があるだけまだマシだ。でも荷物を乗せたラクダの足が遅いので二日はかかると言われた。
道すがら、このミラナの面白い話を聞かせてもらった。
昔、砂漠には荒ぶる魔物がいて、その巨体は山のような大きさで、鼻息だけで砂嵐を起こし、寝返りをうつだけで、大地が揺れて、建物もすぐに壊されてしまって、まともに暮らせる場所ではなかった。でもその魔物はジブリエラという天使に倒され、その亡骸の上に花の都ができたという話だ。
俺がいた世界ならただの神話としか思えないこの話だが、油売りが言うにこれは吟遊詩人が脚色はしたものの、全てが事実だと、そう疑いもせず言っていた。実際あり得てしまうのがこの世界なのだろう。
巨大な死体を処理するために動物が集まったことで、新しい生活環境ができて、長い時間をかけて土地が完成したということも考えられる。
さて、時間としては日が出て頂点に登り始めた頃か。やっと花の都ミラナに到着した。時間は二日と半日ほど、距離としては三百キロほど離れていただろうか。代わり映えのしない、荒地の風景が続いていた。途中で泊まった街も、代わり映えにない風景だった。しかしここは違う。正門をくぐると、その正面の大きな道には街路樹や植え込みには花が咲いている。緑の多いことが見てわかる。井戸ではなく池がありそこで子供たちが遊んでいる。でも建物はかなり特徴的だ。円筒状の建物が立ち並んでいて、特徴的なのは白い壁だ。多分日差しを反射する役目を担っているのだろう。そして一際目立つのは街の中央に柱のようにそそり立つ大木だろう。
「助かりました。受け取ってください。それとこれをあのお嬢さんに。綺麗な髪を持っておられる、それを贈られれば、喜ばれること間違いなしですよ。そしてお気に入りになられたら、どうぞよしなに」
髪油の瓶と、銀貨を渡される。
「ありがとう」
そのままルルに渡すと、少々呆れたような表情をされる。
「少しぐらい情緒を考えてくれてもいいじゃないか」
「すまん。確かに無粋すぎた」
「まあ貰えるのは嬉しいんだが。しかし、ずいぶん綺麗な街並みだな。ここまで発展しているとは思ってもいなかった。ブレードックよりも断然住みやすそうだ」
「ああ。俺がいた世界の街並みに近い」
「さて、花咲か先生を探してみよう」
油売りの話では、街の中央に行けば、すぐに会えると言われたが。この辺りではかなりの有名人らしい。簡単に会えるんだろうか。




