81話 救出
「グラント。無事か?」
伏せっていたグラントは目を覚まし、ゆっくりとあたりを見回し、何が起きていたかを思い出したようだ。
「また助けられました。まんまと術中にはまってしまった」
「この部屋に入った瞬間にはもう敵の術中だった。でも対策があってよかった」
今回は完璧な対策の装備が揃っていた。でもなければ手も足も出せず、鏡に囚われて精神がすり減るまで捕らえられ、最後は鏡に入れられて、金持ちの飾り物になるところだった。
「知見の勝利でしたな。他の皆は?」
グラントの心配は、配下の兵士たちだった。何より一緒に部屋に入ったから、余計に心配だったんだろう。そして、周りに倒れていた兵士に気がつき駆け寄る。
「無事だ。あとは、部屋中にあった鏡から解放されてるはずだ」
固く閉ざされていた、鏡の部屋の扉が勢い良く開く。
「開いた!大丈夫!?」
双子とルルが部屋に入る。鏡に覆われた部屋に、一瞬驚きを見せた。
「ああ、こっちは無事だ」
「よかった。お母さんも帰って来たよ!」
双子は手を合わせて喜んでいる。よし。目的は達成されたんだな。
「ふぅ…」
「何がいたんだ?」
ルルが膝をついていた体に、肩を貸してくれる。
「鏡面の魔女だ。レームが話してくれた鏡から出てくる怪物のな」
「私も聞いた。鏡を買うのに、欲しがり過ぎて、足元見られて財布が空になった話だな。余裕を見せた方が安く買えるって話の。まさか、その話に出て来た魔女が?」
そう、レームと一緒に買い物に行った時に聞いた交渉の話だ。でもそれは、思わぬ形で活躍することになった。この出来事は土産話にできそうだ。
「ああ。そんな笑い話が、役に立つとは思ってなかった。でもおかげで楽勝だった」
「捕らえられた者らも戻って来た。今回は完勝だな」
「この眼で確かたい」
無事を確認しなければ。
屋敷の居間には、鏡から出て来たであろう、亜人が大勢うなだれていた。数はかなりのものだ。だが、確かに異常なまでに飾られていた鏡のことを考えれば、妥当と思える。中には怯えている者もいる。でも安堵している者もいるようだ。
「こっち!」
二人が駆けていった先に、双子の母親がみえた。疲労が見える以外は特に変わりもないようだ。
こっちに気がついたようで、二人に支えられながら歩いてくる。
近くに来ると、ライラーは早足で歩いてくるが、支えをなくして、姿勢を崩しそうになったところをとっさに手を差し出す。
「大丈夫か?」
掴んだ手を支えにして、立ち上がる。差し出した手を引こうとすると、掴まれる。
「あなた、わざわざ私を助けてくれるなんて…もしものことは考えなかったの?」
「でもそうはならなかった」
「そうね。本当にありがとう」
力強く抱きしめられて。頭を両手で掴まれるが、ため息をつかれる。
「はぁ…邪魔な仮面ね。感謝を表せないじゃないの」
「言葉で十分理解した」
「そう?」
「アルヴィさん。私たちからもお礼を言わせてください」
「うんうん!」
「ああ。構わない」
二人の頭を撫でてやる。すると、頭をグリグリと手に押し付けて来る。
「へへっ。アルヴィぃ…」
「もう…でも…」
「あら。私もお願いできる?」
「はぁ…」
ルルの大きなため息が聞こえて、双子の頭から手を離す。
「母親を胸に抱きながら、その娘の頭を撫でるのは気分がいいか?」
後ろから、尻をつままれる。
「言葉にしないでくれ…」
「ふふっ。さぞいいだろうなぁ」
「ならルルさんも混ぜてあげたら?」
ナディアが指を掴みながら呟く。
「なっ!私は別に羨ましくて邪魔したわけじゃない。存分に続けててくれ」
「えー?本当は羨ましいんだよね?」
「違う!」
ルルはいつも出さないほどの大声で否定する。
「強情だね…ねぇ、アルヴィ。ここも撫でて…」
ナディアに手をお腹に持っていかれる。素肌の手触りがいい…
「いや、ダメだ」
危ない。衆目がある前で何をやっているんだ…
「なら一度お家に戻りましょう。そこで存分に愛でてあげて。私に肩を貸してもらえるかしら?」
「仕方ない」
ゆっくりと肩に手を回す。薄い布からは、信じられないほど冷たい体温を感じた。内にある魔力の枯渇を示している。純血のサキュバスは、魔力がなければ死ぬと言うのを触れることで理解した。
「ありがとう。愛してるわ」
潤んだ瞳で見つめられる。その姿は恋する乙女のようだ。
「全く…」
しんどくても演技がかった態度を崩さない。この女は女優でも目指した方がいい。
「お母さんばっかり」
双子に腕を掴まれる。そしてルルのため息がまた聞こえた。聞かなかったことにしよう…
頭が全く回らないぐらい疲れ果てている。三人をさっさと家に帰して、俺も休みたい。
「母親に魔力を分けてやれよ」
「うん。わかってるよ」
「アルヴィにも元気をあげるね」
「バレてるな」
「そりゃね。馬に乗ってる時からずっと元気ないのはわかってたよ」
「全く…あなたは何か事件に引き寄せられる呪いにかかってるんじゃないか?」
ルルはここのところ数日、ずっと心配ばかりさせてしまっている。
「レイレイに診てもらおう…ふぅ…」
太陽が当たる道に出ると、頭がクラクラしてきた。ブレードックは冬だって言うのに、ここは暑すぎる。
「暑いのか?スイッチ?どこを押せばいい」
「腕のこれだ」
背中のファンが回転を始める。涼しい。これがないとやってられない。それの光学迷彩は起動すると熱がこもるからな。余計に暑くなっていた。
「さあ、馬車に乗れ」
ライラーの足を持ち上げて、座らせる。御者がいないので変わりに俺がやろう。
「どっちか、道を案内してくれないか?」
「じゃあ、私が乗るね!」
さて、帰るとしよう。




