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80話 鏡に潜む魔

「ひんやりしてますね」

「カビ臭い…」

 階段を下ると、広い空間に大きな樽が壁に並べられている。ここでワインを保管しているのか。数はざっと見ても五十はありそうだ。

「百年前のワインもありますな…相当な値が張る逸品ですぞ」

「ふーん。アルヴィさんはどう思う?」

「猫がいるのか?それも一匹二匹じゃない」

「かすかに獣の匂いがするな」

 さすがルルは鼻が利く。狩りに出た時も、匂いで標的を追っていた。

「でも、移動したと思うぞ」

「足跡が出口に向かっている。ということは、逃げ出して来た獣人ってこともあるか」

「皆様方、この樽、ここは扉になっています」

 ヴェルフが樽を叩いていたが、どうやら空の樽に扉を見つけたようだ。

「注意して」

 足音が奥からする。叩いた音に反応したな。


 武器を構える。酒樽に偽装された扉が開くと、中から見覚えのある盗賊が顔を出す。

「お前か…しつこい奴だな」

 呆れた様子で、腕を回しながら扉をくぐって、身を乗り出してくる。

 指輪に魔力を込める。

 扉から出て来た、盗賊達の足元に魔法陣が発生して、魔力の鎖が飛び出し、手足に絡みつく。

「なんだこれは!」

 狭い場所に設置すると、まとめて捕縛できるのか。これはいい物をもらった。

「動きが止まっています。皆!捕らえなさい!」

 地下室に兵士達がなだれ込んでくる。

雷よ(サンダー)

 先頭の男の後ろにいた、背の低い男が呟く。

「やめろ!」

 サブマシンガンの引き金を引く。だが、雷の魔術が発生するまでに間に合わなかった。触れていた兵士に電気が流れて、感電して倒れる。

 銃を撃ったことで、束縛が緩んでしまった。


「フン!」

 風を切る音が聞こえるほどの鋭い拳が、頭部をかすめる。

 ヴェルフの大剣が、拳をかざした大男の脇を通って、横断する。

「抵抗するのなら殺せ!」

 ヴェルフの指示を聞いた兵士達が、立ち上がって攻撃体制をとった盗賊を、槍で突き殺す。

「無血で終わらせたかったが、抗うのなら仕方ない」

 奥から、ぞろぞろと武装した盗賊が現れる。そして、扉をくぐった時、姿が狼に変わる。


 グルグル喉を鳴らして取り囲もうと歩く。引き金を引くと、軽いステップで躱され、腕に噛みつくために飛びかかってくる。

 だが、足元に張っておいた魔法陣の罠にかかり、首に鎖が巻きつく。とどめを刺すとガラスのように砕ける。やはり姿を自在に変えているのでない。変えられている。


「これで全部でしょうか?」

 十人が狼に姿を変えたが、数の前に敵わず、殺されたのだろうか?全てが砕け散るばかりで、血を流さない。

「奥に入りましょう。アルヴィ殿も後ろに続いてください」

 先頭のヴェルフと兵士達が、樽の扉をくぐる。

「何が見える?」

「鏡です。ただそれがあるだけです」

 後続の兵士が、入った時、扉が勝手に閉まる。

「ん?誰か閉めたか?」

 ドアを引く。

「開かない」

 少しの間の後、扉が勝手に開く。まるで誘い込むように。

「嫌な予感しかしないな」

 だが救助するには入る必要がある。仕方ない。

 先頭で入ると、続いたルル達を拒むように扉が閉まる。

「俺一人で来いということか」

 奥の部屋に入った瞬間、何か別の空間に入ったような感覚に襲われる。


「よくここに来てくれたねぇ」

全面が鏡に覆われた空間、正面の鏡にとても美しい女が男の背中に座っている。その周りには色々な動物が眠っている。

そして足元に踏み込んだヴェルフ達が転がっている。なるほど、正体の予想が出来た。

「誰だ?俺はジョン・スミスだ」

「私は、そうさね。鏡面の魔女とでも読んでおくれ」

 鏡に潜む者。過去、レームと勇者一行が戦った魔物の一人だ。レームの話では、確か嘘をつくのが重要だったはずだ。虚偽の名前を教えて、自分と全く同じ姿にすれば、封印できると言っていた。

「鏡面の魔女か」

「ジョン、あなたの要件は?」

 鏡に潜む者。人を鏡に写して、暗示をかける魔物。写した者の姿を、別の姿に変えて、鏡に写った者を中に取り込んで自由に操る。

 でも鏡の魔物は、自分で呪った鏡以外に映ると、反射された呪いを受ける。ということは暗示も受ける。だが、まずは話を合わせよう。

「ここにいた奴らはどうなった?」

「暴れるもんだから、鏡の中に取り込んじまったよ。今頃、もう一人の自分と戦ってる頃かね」

「ライラーという名のサキュバスはここにいるか?」

「ああいるよ。妾を庇っておる、醜い小娘が何度も頼むものだからねぇ。可愛いウサギに変えちまったよ。どうせ今頃、お得意の交尾でもしてる頃だろうね」

「動物に姿を変えてるんだな」

「そうさ。私は動物が好きでねぇ。そなたはどんな動物になりたい?」

「本体はどこに行く?」

「小娘が飾ってる鏡に入ってるよ。あの小娘を美しく写すためだけの奴隷としてね」

「どういう理屈だ?…」

「そりゃ、妾が姿を変えてあげてるのさ。この鏡の中は妾が全てを支配してる。誰であれ妾の思うまま。あの小娘が望む美しい女に変えてあげることだってできる」

 そして、足を組み替えると、顔が引きつるくらいに笑い始める。

「全く滑稽だねぇ。面白くってたまらないよ。好きな男に気に入られたいために、美しくありたいと願ってる。でも、それは鏡の中だけで。しかもその男は、別のしかも下賎なサキュバスがお気に入りと来たもんだ。面白くって、面白くって。たんまり嫌な気を頂いて、お腹いっぱいだよ!」

「それにタチが悪い依存種だな。しかも笑ってる顔の醜さと来たら。まるで水面から口を開けて餌を待つコイみたいだ」

 目的の生存を確認した今。こいつとは対話する必要もない。大方、自己中心的な理由で犯罪を繰り返すだけの醜い魔女だ。


 目を瞑って、光学迷彩を起動する。

「なんだい!?」

 光学迷彩は一種の鏡だ。周りの風景を映し出す。それは、鏡の空間にいれば、鏡を写す。ということは、鏡の魔物はこれに映し出されて姿が映る。ということは呪いが反射される。俺は目をつぶっているから、どんな姿に変えられようと関係ない。奴め、油断しきってる。俺がなんの対策も知らないとタカをくくって、俺をそのままの姿で写していた。だから心が全く乱されなかった。でももし、目を開けていて、別の動物に変えられていたとすれば、俺はどうしようもなかった。


 質問を繰り出す。

「お前は誰だ?」

「私は…」

 それをすぐに答えられない。きっと、俺の全身を覆う光学迷彩には、あの魔女をコイとして写していることだろう。

「そうだった。思い出した、お前はロバだ」

「そうね。私はロバ…」

 目を瞑っているから、わからないが、今頃姿がロバに変わっているだろう。でもそれを認めさせないように、次々と嘘の姿を言っていく。

「いや、お前はニワトリだったな。そういえばサルだった気もする。でももしかしたらシカかもな」

 こうして、色んな姿に変えてやる。そうすると、本体も自分が何なのかわからなくなり、思考が停止を始める。

 嘘を並べ数分。奴は完全に狂い、自らを殺さんと自傷を始めた。もう頃合だろう。

「でも、俺は本当の姿を知ってるぞ」

「教えてくれぇ!」

「でもなぁ…教えるには惜しいなぁ…」

 わざとらしくてもいい。もはや、これが演技なことも理解できないぐらいに狂っている。

「お願いだよ!教えてくれ」

「なら、お前が隠している人を全て解放して、俺の目の前で跪いたら教えてやろう」

「いいよ!分かったとも。これでいいんだろ」

 目の前にガサゴソという音がした。今頃本体が跪いていることだろう。カメラを起動する。

「お前はな。ジョン・スミスだよ」

 シャッターを切る。本体が俺の姿に変わった瞬間を、写真で撮影した。

 鏡の魔物は、鏡に閉じ込めて、鏡面を塞ぎ、長く封印するというが。結局何かしらの要因で、解放されてしまう。

 でも今、本体を映るものに移動させて、写真に閉じ込めた。それを処分すれば本体はその写真ごと消える。

 鏡に潜む者、知らなければ強敵だが、うち負かし方を知っていれば、一気に弱くなる呪霊だな。

だが、殺すことはできず、封印という形で閉じ込められていたが、封印した当人が死んだせいで解放されてしまったようだ。そして、知らずにその鏡を手に入れた女に化けていたんだろう。


 呪いが消えて、鏡の中から、弾き出される。

 写真から声がする。

「やめておくれよ。妾はあんたを主人にすることにする。なんだってしてあげるよ」

 正気に戻ったんだろうが、自分と同じ姿で封印されたということは、もし別の鏡面に写ったとしても、呪いの発動には、元の姿に戻る必要がある。でもこいつは、元の姿に戻れない。なぜなら同じ姿をした、別の名前の男になってしまったからだ。

 写真にライターで火をつける。

「悪いな。俺は性根の腐った女は好みじゃない」

 悲鳴が響く。だが無情にも写真は燃える。


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