79話 突入
エイブラムスの邸宅の門前で、従者に対して何度か審問官が、開門を要求している。だがシラを切るばかりで、開門する気がなさそうだ。審問官は最終確認と宣言したあと、再度問答を始める。これで応じなかった場合は、強行が始まる取り決めになっている。
武器も弾薬も完璧だ、取り回しのいいMP7も装備している。いつでも踏み込む準備は整っている。
「王のご下命です。直ちに門を開け、説明を要求します」
「ですから。何もやましいことはありません。全て言いがかりです」
「ならば門を開けるのです。盗賊団がこの敷地に向かったことは、こちらもわかっています」
「それならば、言いがかりではないという証拠を見せてください」
「そうですか。王の命により強制捜査が許されております。もはや許可はもう入りません、皆!」
破城槌を持った兵士たちが、門を叩き始める。中から従者の悲鳴が響く。
「始まりましたな」
「ここまで大ごとになるとはな」
「父王の代とは違い、現王は強硬策を行えることを示せます」
前王時代の貴族有利の政治のせいで、問題が山のように残っていると言っていたが、今回もその一つでしかない。だがこうして武力を使用することで、行動ができると示すことはできる。露見することを恐れて隠し始める奴らも必ず現れるだろうという見通しだったが。でもこれ以上は、俺の知ったことじゃない。
門が叩き壊され、兵士たちが踏み込む。
中は従者が逃げ惑い。そして、玄関から一番偉いであろう、父と似た容姿の、豚に真っ赤なドレスを着せたような女が、怒り心頭と言った様子で現れる。
「どういうことです!」
「身売りを行う盗賊団を匿っている容疑がかかっています。直ちに捜査させていただきます。さあ、彼女も連れて行きなさい」
「ふざけないで!離しなさい!!」
兵士三人がかりで、連れ出されていく。武器は確認済みだ、よし双子の母親を探しに行くぞ。
今まで入った家の中でも最も豪華で、水晶のように輝く天井はもはや気味が悪い。玄関になぜか鏡が大量に壁にかけられているのも、意図がわからない。何か仕掛けでもあるのか?
女物の靴の上に置いてある手鏡を手に取る。特に変わりはない、ただの鏡か。
「鏡が気になるんですか?」
双子が後ろについてきている。
「いや、手形がたくさんついていたからな」
カメラアイは、手形や足跡などの痕跡がいつ頃に付着したかも見える。この手鏡は、ついさっきまで触っていたであろう跡が残っている。きっと、突入に驚いて靴も履かずに飛び出したんだろう。
「貸して!」
鏡が水面のように波が立つ。すると、シャーディアの顔がシワだらけの老人のように映る。
「なんだこれは?」
「これは、持ち主以外を醜く写す鏡、きっとこれで自分を美しく写していたんでしょ」
「ほう…まさか、ここにあるのは全部同じやつか?」
「うん。多分、壁中の鏡が同じ物よ」
なるほど。自分をよく見せるために、いたるところに置いてあるのか。だが合わせ鏡になっていて、落ち着かないし、気分もあまり良くない。
「ここには何もなさそうだな。大きい足跡はこっちに向かってる。」
居間も異常な数の鏡が飾られている。こんなに置いてあったら住み心地も悪そうだ。
「大きめ、男の足跡が五人分。中庭に続いてる」
その先に、ワインの保管庫だろうか?地下室に続く両開きの扉が見える。
「開けて見ますか?」
ヴェルフが前に立ち、大剣を叩きつける。だがビクともしない。
「閂がかかっていますな。ということは内側に誰かいるのか、それとも逃げ道か。検めまてみましょう。槌を持て!」
付いていた兵士が槌を持ってきて、扉を叩く。何度も代わる代わる扉を叩くが、ビクともしない。
「相当硬い守りだな。離れてくれ」
衝撃波の魔術を使用する。
ミシッという音がなったが、扉は動かない。だが続いて兵士達が扉を叩く。すると、金属で補強された閂が壊されて扉が開く。ただワインを保管しているだけでここまで堅牢に守るものか?…
扉が開くやいなや、ボロ布を身に纏った獣人が数人飛びだしてくる。聞いたことない言語で大声を上げている。だが、言語の適正化のおかげで、言葉が理解できた。
周りの全員が武器を構えている。その姿に飛び出してきた獣人が怯えてしまっている。
「武器を下ろせ。逃げろと言っていた。多分捕まってた奴らだ」
獣人達が兵士に保護される。そして、兵士が布を手渡し、獣人が受け取った瞬間、ガラスが割れるように獣人の体がバラバラに砕ける。
「なに!?何が起きたんだ?」
兵士達がどよめく。そして、その姿を見た獣人が、頭を抱えて、扉の奥に戻ろうとして走り出す。だが、目前でバラバラに砕け散る。
「何これ…」
ナディアが拾おうと屈む。その腕を掴んで止める。
「触るな。何が起こるかわからない」
「ご、ごめん」
「この奥に何が潜んでいるんだ…」
扉の奥には、ただならぬ何かが潜んでいる。
クソ…ただの盗賊だと思っていたが…なにか恐ろしい怪物がいることを体が理解した。




