78話 怪しい噂
「それで?他には?」
「それ以上は何も知りません…」
宮廷魔術師は、人身売買に一枚噛んでいる噂は、真実かどうかわからないそうだ。だがそれが本当だとしてもおかしくはないということだ。
亜人種の立場がよくなり始めたのは、一昔前の転生者の英雄が統治者の座に就いてからだ。だが、その昔からあったエイブラムスの家系は、金儲けに手段を選ばなかったことは、多くの人が知っている事実だと。
今も秘密裏に続けていてもおかしくない。でもその家の娘の結婚相手が、亜人の立場向上を語ってる男というのがよくわからない。
「アルヴィ。もう踏み込んで調べさせよう。こいつらはろくなことを知らないぞ」
「そうだな」
「こいつら。裏で何やってるんだか。父上のしわ寄せが押し寄せてきている気がするぞ。もう連れて行け、この役立たず」
王は跪く宮廷魔術師を連れて行くように命じる。魔術師は必死に減刑を願うが、王はそれを一蹴する。
「王よ、ただいま戻りました」
入れ替わるように、先見に行ったグラントが、戻ってきた。だが一人で帰ってきている。失敗に終わったようだな。
「説明を要求しましたが、シラを切っています。ここは強行するしかありませんぞ」
「よし、兵士を連れて行け。アルヴィも頼む」
「了解」
まだ日が昇りきっていない。素早く動けていると信じたい。無事であることも。
「大丈夫か?」
部屋の外で待っていた双子には疲れが見える。
「うん。アルヴィさんも疲れてるでしょ?」
「まあ。だが、早い事動いたほうがいいだろうからな。終わったら好きなだけ休むことにする」
「そうだ、立て続けに事件に巻き込まれすぎだぞ。ブレードックに戻ったらもう春になる。レイレイ様も帰りを待っているでしょうね」
ルルがからからと笑っている。
ああ…確かに俺がここに来て、四ヶ月ほどが経った、その一月をここで過ごしたことになる。
「さあ行くとしよう。私の準備はいつでもいける。それと、これを忘れているぞ」
銀色の指輪を手渡される。
「ああ、王様に貰った指輪か。ルルに渡していたままだったな」
腕を切られた時に預かって貰ってたんだった。これは確か、呪縛の罠を足元に作り出す指輪だった。今回は使えそうだ。
「その、私たちも行っていいかな?」
シャーディアがか…
「やめておいた方がいいと思うが」
「でも…」
当然心配だろうな。だが、見たくないものを見せてしまうかもしれない。
「母親が無事とは限らないぞ。それでもいいなら」
「もしものことがあっても、私は受け入れるつもりだから。ナディアも、できるよね?」
「うん…」
二人の考えが一致しているのなら、そう思ったが、落ち込んでいるナディアを連れて行くのは、余計な危険に晒してしまいそうだ。ならここで待っていてもらった方がいいんじゃないか?
「気を悪くしないでほしいが、俺はお前らを連れて行きたくない」
「足手まとい?」
「いや、落ち込んでいる状況で二人を連れて行くのは、心配なんだ」
「しっかりするから」
ナディアも目を見て頷く。二人の意思は固い。
「分かった。でも約束してくれ、前に立つなよ」
「うん。約束する」
ここで止めても付いてくるだろう。なら、こうしておいた方がいいか。
「アルヴィ様」
鎧を身にまとったヴェルフが来てくれた。
「ヴェルフ。どうした?」
「別れの挨拶に来たボルドに事件を聞きました、困り事に巻き込まれたようですね。こういったことには慣れています。私にも手伝わせてください」
「ありがたい。ヴェルフがいれば解決したようなものだ」
「私も何かしていないと落ち着かんのです。しかし卿が…不遜な人とは感じていたが、これほど落ちぶれていたとは」
「まだ確証はないがな」
「火のないところに煙は立ちませぬ。まして、その火の粉が降りかかったのです。これを疑わずにはいられません」
兵士の一人が駆け足で伝えてくる。
「アルヴィ様、いえ、伯爵でしたね。皆の準備は済んでます。いつでも出立できます!」
「よし、行こう」
外に出て、馬にまたがる。乗馬はこの世界に来てから、ずっと密かに練習していて、やっと形になって来た。だが駆けだすのは慣れていない。
隣にヴェルフが着く。
「アルヴィ様は伯爵になられたのか?それはめでたいですな」
「ああ、征龍自由伯爵だそうだ。まあ、俺は俺が呼ばれていると分かればなんでもいいがな」
「征龍ですか。龍を討ちに征くということを示す、良い称号ですな」
「それにまだ見合ってるかどうか」
公の場でそう言われると、かなり恥ずかしい。この功績は俺だけのものじゃない、みんなの協力で手に入れたんだ。
「その名は、あなたの勲と誉れを示す名、自信を持たれよ。ですが、同時に安心もいたした。あなたは全てを終えるその時まで、その名に自信を持てないでしょう」
「仰々しいぞ…」
「良い良い。ですが勇とは心にある。それをゆめゆめ忘れては行けない。私もそれを身を以て知りました」
「そうだな。俺も止められない力に飲まれかけた」
「まさか…」
「自分の体に別人がいて、主導権を握られたみたいな感覚だった。二度と使いたくない」
思い出すだけで嫌な感覚だ。体に戻って来た感覚は最悪だった。
「でも正直言って、これから先にこの力に頼らなきゃいけない時が、また来る気がする」
「難儀ですね…」
その通りだ、全く……使い所を考えないと、周りにいるやつ全員に被害を出しかねない。だが、まずは目先のことに集中しよう。
大通りに出る。兵士たちが、大通りを歩く人たちを退けて、先頭の馬が駆け出す。それを追うように、馬が駆ける。




