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71話 吸血鬼

 町中は大騒ぎだ。クドラクが呼んだ、下級吸血鬼や、混血吸血鬼が数百匹集まっていて、空を黒い影が覆い尽くしている。これほどの数がこの付近に潜んでいたことを考えると、この世界を変えるかもしれなかった存在だというのが理解できる。

 しかもこの街は蠍の使徒で疲弊しきっている。まさに前門の虎、後門の狼、こんな事態よほど強い者が数十人いなければ手の打ちようがない。そして強敵となるのはクドラク。あれは対峙してわかった、今生きていることが奇跡なほどの強敵。どんな使徒よりも恐怖を感じた。


 そして今、双子の母親がいるという仕事場に、吸血鬼を退けながら、やっとたどり着いた。もう手持ちの散弾は無くなった。どこか落ち着ける場所がなければ、弾丸を補給できない。そして体力も限界が近い。一日色々と動き回った後でもう疲れてる。出来るのならシャワーを浴びて寝てしまいたい。そんなこと言ってる場合じゃないんだが。本当にこんなタイミングで出くわすのは何か悪いものが憑いてるんじゃないかと思ってしまう。いや、あの魔王のせいってことはないか?そうだ。そういうことにしておこう。


「お母さん!」

 小屋の中に隠れていた、真っ青な顔でまるで死霊のようになって、胸を抑えてうずくまっていた双子の母親を見つける。

 クソ…ここは鳩の変異吸血鬼だらけだ。使い捨ての雑魚吸血鬼だが、数が多すぎる。しかも奴らは吸血衝動に襲われて、必死に襲ってくる。

「頑丈な建物に連れて行け。援護する」

 でも、ここから朝になるまで耐えるしかないのか?

「お母さん?お願い動いて」

「苦しいの…胸が痛い…」

「後少し我慢して。私たちが解いてあげるから」

 双子が倒れる母親に手を貸し、立ち上がらせようとした瞬間。その壁に黒い影が伸びる。


「壁から離れろ!!」

 双子達の間に割り込む。

体に激痛が走る。

目を向けると、腹に太い腕が刺さっている。

「早く逃げろ!」

 双子達は母親を引っ張って逃げ出した。

「君にもう用はない、黙って死んでくれ」

クドラクの太腕が頭を掴む。頭が砕けるぐらいの力で握られている。

「離せ……」

ブーツのナイフを抜いて、腕の筋肉を切る。力が緩み腕を振りほどいて、自由に動かせる左手から、衝撃波の魔術を使う。

クドラクの姿勢は崩れ、片膝を着く。今しかない。

吸血鬼は心臓から再生を行う。だから心臓が損傷すると、上級吸血鬼であろうと再生力が落ちる。


毛で覆われた胸にナイフを突き立てる。

「素晴らしい。勇気がある」

 ナイフが突き刺さったまま、首を捕まれ、はるか彼方に投げ飛ばされて、背中が柱に強くぶつかる。

痛すぎる…こんな痛みは初めてだ。空いた腹からも血が止まらない。でも、殺すために近づいてくる…動け、動かないとまずい。

 残った力で、手榴弾のピンを抜く。レモングレネードは三数えて投げれば、一秒後に爆発する。

「だが君では力不足だ」

「やすやすと死ぬわけにはいかない」

「なに?」

 投げた手榴弾をクドラクが足で抑える。それは爆発して片足を吹き飛ばす。


「フッ…ハハハハッハ!!なんということだ。貴様を犬程度にしか見ていなかったが、私の足を無くさせ、地面に伏せさせるとは。どうやら、獅子程度には戦えるようだな。でも全くの無駄だ。このナイフも心臓には達していない、この爆発する石も無駄。やはり脆弱な人間では時間稼ぎもできない」

 クドラクの体から、赤黒いオーラが溢れ出る。

 それはまるで肉体を溶かして、元に戻るかのように、バラバラになった足の残骸と一緒に体が結合されていく。

 クソっ…数分すら持たないとは…双子達は逃げられただろうか?流れ出る血が多すぎる。頭がぼーっとしてきた…


『アルヴィ(ドラゴン)の力に目覚めたでしょう?今すぐ試して』


「ああ…片足の分を君にも失ってもらおう」

 なくなった足は綺麗に生えている。やはり吸血鬼の再生能力は異常だな…このままではまた死にかねん。

「どうすればいい?」

『私を銃にして、自分に向けて撃つの。安心して、あなたを死なせる真似はしない。ただ乱暴な注射だと思って』

 鱗は大型拳銃に姿を変える。これを自分に向けて撃つのか?

 クドラクはだんだんと近づいてきている。一歩ずつ赤黒いオーラを纏って近づいてきている。


 クソ!何が嬉しくてこんなことしなければいけない?

『失敗しようが、成功しようが、私が蘇らせてあげるから!』

「クソったれ!やってやるよ!」

 自分の心臓に銃口を突きつけて、重たい引き金を引く。

 胸に鈍い痛みに襲われ、意識がなくなるのを理解した。



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