65話 一歩前進
兵舎はけが人が多かったが、みんなが笑顔で、手当に使っていた酒を回し飲みしているようだ。
「おお!!みんな!英雄がわざわざ来てくれたぞ!」
俺たちに気づいた兵士が大声を上げる。
「来てくれたか!」
瞬く間に兵士に取り囲まれる。
「よくやってくれたよ!また生き返ったらどうしようかと思ったが、これで終わりなんだよな。ふぅ。安心した。安心したよ」
「怪我は大丈夫なのか?」
「全然大丈夫じゃない!体全部で喜べない。なあ?」
そうだ、そうだ。と兵士達は声を上げるが、みんな元気そうだ。
「どうやら、大丈夫そうだな…」
「なあ。兵士長も来てるのか?」
ヴェルフは兵舎の門の前で、馬車の番でもしてると言って待っているつもりだ。でも本当はここに入りにくいんだろう。
「ああ。来てはいる」
「頼む。ここに連れて来てくれないか?俺達からも言ってやりたいことがあるんだよ」
「そうだぜ、このザマを見て、叱って欲しいんだよ。あれがねぇとなんか違うんだ」
「わかった。でも約束はできない」
あの件から、兵士達とはまともに話していないと言っていたし、いい機会になるかもしれない。
馬車で待つヴェルフは、どこか落ち着かない様子で、馬にブラシをかけていた。
「ヴェルフ。あいつら治療用の酒を飲んでやがる、厳しく言ってやってくれ」
「全く…いつもああだ」
少し、怒った顔になったが、またいつもの暗い表情に戻る。
「ボルドはいましたか?ならもういいでしょう、あなたも疲れているはずだ」
「正直言おう。あんたに来て欲しいとよ。なんでも、兵士長に叱られたいそうだ」
「もう辞したんです。叱る理由もありません」
そこに、怪我を押して兵士たちが詰め寄る。
「兵士長!いつまで暗い顔してるんですか!あいつらもそんな姿見たいはずないでしょうよ!」
「みんな知ってるんですよ。俺らは馬鹿ばっかりして、いつも兵士長を困らせて来たってのに、俺らのこと気にかけて、頭悩ませてたって!」
「兵士長は悪くないっす。僕はそう思ってます」
「俺らをうまく使えるのはあなただけですよ。絶対そうです」
「尻拭いの間違いじゃないか?」
ヴェルフは、少しだけ嬉しそうな表情になる。
「そうとも言いますね。ハハハ!」
「頼みますよ。あなたがいないと締まらないんですから」
「ああ…考えておく…」
兵士達が、立ち去ろうとしたヴェルフを力ずくで引き止める。
「いいえ。ここで言ってください」
「君たちが許そうと、私は大きな過ちを犯した。それは許されないんだ」
「でもやり直せますよ!!今までのことを考えてください。ここ三十年平和だったのは、あなたがいたからです。これからもそうです、あなたがいないと誰がここを守るんですか!」
「何を情けないことを言っている!お前達は立派に戦える、今日もそうだったじゃないか!」
「俺は兵士長が先陣を切って、前に進む姿があるから、戦えるんです!!」
「みんなも…「もういい!!お前達の心は分かった!だがけじめをつけなくては、それを果たさなければ戻ることはできない!できないんだ!!」
ヴェルフの怒号が響く。兵士たちはその声で背筋が伸びる。
「だが…もう臆病はやめる。もう逃げない。殺めてしまった彼らの家族に償い、許しを得るまで償いを続ける。それが私のやるべきことだ」
言葉が詰まる。
ああ、わかるぞ。俺も死んだ仲間の家族に会う時は恐ろしかった。しかもヴェルフのはもっと重い。どれだけの勇気がいるのか、それは想像もつかない。
「……それは分かっていた。でも私は足がすくんだ、どんな顔で謝るのかと。でもそんな悩みを持つことが間違っているのに…」
「俺らにも手伝えることがあったら言ってください。何ができるのかわからないけど」
「ああ、ありがとう…」
ヴェルフの目からは涙が流れる。その姿で周りの兵士達も同じように涙目になる。そして彼らがヴェルフを取り囲み、担ぎ上げて、勝利を歌う。
歌声は街に響き、そこに見舞いに来た兵士たちも集まり、歌声が大きくなる。
街の人々も喜びの歌を歌う。その声が辺りを包み込む。
とてもいい光景に立ち会えた。
「よかった…うぅ…」
いつの間にか隣にいたボルドも泣いている。
「全て元通りってわけじゃない。でも少しでも前に進めるといいな、ヴェルフもみんなも」
「ええ…アルヴィ殿。あなたは希望を運びました…」
ボルドに力強く抱きしめられる。
「ああ…ならよかった」
隣のルルも笑っている。これで少しでも世界が良くなるなら、やってきた甲斐がある。




