62話 使いの死
「おい!大丈夫か!?」
「心配いらないとも」
体を貫通した棘を引き抜き、それを興味深そうに眺めている。
「ほぉ。これは興味深い!抜けることを拒むように返しがついている。君も見たまえよ」
手渡された棘の銛は、先端が細かい返しがびっしり付いていて、抜けづらいようになっている。
「かなり汚れている。こんなもの刺されば破傷風になるぞ」
「君も矢避けの風を発動させたまえ。私は死んでいるんで病気にはならない。おっと、君も死んでいるんだった」
「全く。俺も幻なんていうんじゃないぞ」
矢避けの風のスキルを使う。
全身を覆うように風が巻き起こる。
「まあ、確かに君は私の思考の中でだけ生きている。その可能性もあるね」
魔王は魔力の防壁を立てる。
「哲学的な話しは後にしてくれ」
ラタトスクが、全身を震わせ背中からミサイルのように撃ち出す。
正面から飛んできた銛は防壁に突き刺さり。砕けた破片は風で弾く。
「この程度の小雨なら、このまま哲学を論じれそうだ」
魔王は壁に持たれながら、陽気に笑っている。
「正気か?」
「それはねぇ。私は、どこであろうと楽しむことを忘れない」
この状況で…全く理解不能だ。
「その狂気で魔王になったんだな」
「そうだとも。そして魔王の誕生から死の瞬間まで、全てを楽しんだ。君も、この状況を楽しむべきだぞ。そうだ、写真でもとったらどうだ。あれはいいものじゃないか」
何を言ってるんだ。そう思った。だが、もしも俺の思考と、この状態への解決を考えてのことだとしたら。たしかに一理ある。この状況で戦闘に意識を飲まれるのは良くないのかもしれない。
「ああ、こっちを向け。一枚ここで撮ろう」
「かっこよく撮ってくれたまえ」
魔王が羽を広げて、後ろで腕を組み胸を張る。
「いいぞ、若い将校みたいだ、3、2、1」
カメラアイがシャッターを切る。
「どうだい。どうなんだい?」
端末で確認すると、ただ魔力の壁の前に、うっすらと黒い影が映った、心霊写真みたいになっている。
「その…霊体はうまく映らないみたいだ」
「なんと!?」
「貴様ら!!」
ラタトスクは、怒りを露わにし、魔力の壁を打ち砕くほどの、体当たりを行う。
「思考を正常に戻すな!余計な真似をするんじゃない!」
「お前のやり方は嫌いでね。やるなら堂々と戦いたまえよ」
「違う、我が主人は正しい行いのために…」
「だろうね、きっとそうだろう。その言い草は、いかがわしい奴の常套手段じゃないか」
「お前とは違う。あのお方は、人類種こそが世界に巣食う悪性種、そう考えられた。だから行動に移したまでだ」
「極論もいいところだ。人間が居なければ、魔界の門が開いた時に、この世界は滅びていただろう」
「お前も魔物だ。わかるだろ」
一歩一歩と近づいてくる。それに応じて身構える。
「世界の真理など、この世の誰も触れたことがない神秘だ。お前の論理も、全て自己満足でしかない」
魔王が近づくラタトスクに向けて、黒い火球を放つ。
「話にならん!」
ラタトスクは、跳躍し空から銛を放つ体制だ。
その姿が見えた瞬間、体はその足を掴むため、跳躍していた。
宙に浮く足を掴んで、空中で一回転して、ラタトスクの背中を地面に叩きつける。
ラタトスクは、背中から叩きつけられ、息を吸うために空けた。その尖った口を掴んで、地面を引き摺り回し、持ち上げて、叩きつける。
「墓穴を掘ったな。間抜け」
さすがに痛かったのか、息も絶え絶えといった様子だ。背中のトゲも地面に刺さって、いくつか抜け落ちている。
「……自らの行いに後悔はないのか?」
「お前はどうなんだ?」
「質問を質問で返すな!」
ボロボロのラタトスクは立ち上がる。だがその後ろには魔王が瞬間移動して、立っていた。
「ラタトスク、さっさと彼を解放したまえ。こんなところで時間を潰したところで無駄だよ。もう彼を使徒に変えることはできない。見たまえ、力を制御してしまっているじゃないか」
「奴は邪魔になる。ここで仕留めなくては」
「ここで死なせたところで、私が、いや始まりの龍が彼を蘇らせる」
「何?」
「当然だろう。彼を祖龍が選んだんだ。何かしらの因果でめぐり合い、繋がっている」
「母なる龍はあの男を選び、父なる龍は我々を選んだ。どちらが優れているかは目に見えている」
「馬鹿者。大馬鹿者だな」
魔王は問答を終えて、その体に闇の魔力を注ぎ込む。
ラタトスクは黒く燃える炎に包まれる。だが苦しむこともなく、ゆっくりと燃える体を引きずりながら近づく。
「君も覚えておくんだな。このまま続けたところで、この悪魔もどきに使い潰されることを」
そう言い残して、体を焼いた魔力に飲まれるように灰となって消えていった。




