60話 鋭い力
「俺の復讐の邪魔をした。貴様も主人と同じ目に合わせてやる」
羽ばたき襲いかかる、その姿はかつてないほどにはっきりと見える。いや、ゆっくり動いてるように見えている。今なら毛の一本ずつを数えられそうだ。
「死ねい!」
薄汚れた五本の指に、鉤爪のような爪。襲われれば、深い傷を負うことになるだろう。だがあの音波攻撃をしてこないとはな。
攻撃を交わし、離れていく尾にしがみつき、それを引いて地面に落とす。
「よくも!許さぬ!!」
「喚くだけしかできないようだな。恨みの相手を恐れ、その故郷を狙ったが、その時もわめき散らすだけだったな?」
「ならば聞かせてやろう!!」
大きく息を吸い込むと、腹が膨らむ。
「させるわけがないだろう」
力を込めて、膨らむ腹を殴る。
拳が腹に突き刺さり、その深い場所まで達する。
声にもならない叫び声を漏らし、ジタバタともがくたび、腕が刺さった部分から血がドロドロと流れる。
その拳を下に下ろせば内臓に達し。上まで上げれば心臓に手が届く。
「どうしてやろうか?」
「咬み殺す、いや殺しても足りぬ屈辱だ」
「処刑台に立っているのはお前だ」
「恥は受けぬぞ、うっ!ぐぅ……」
「はぁ…」
口から血が流れている。舌を噛んで死んだようだ。全く、その巨体の割に臆病な奴だ。
「いいぞ。内なる力が体を巡り、その力に酔っている」
「ああ、もっといないのか?」
「ならば、こいつはどうだ?」
よくわからない、見覚えのあるガキだな。
『やめろ…』
黙っていろ。もはや誰でもいい、殺したい。力を試したい。
『やめろ、取り返しがつかないことになる』
「困ったな。また理性が戻ってきたようだね」
『お前、本当に魔王か?』
「そうだ。君が恐れる悪魔だ」
『恐れる?…』
だまれ。早く戦わせろ。
『お前が黙れ』
知りたいんだろ?でもそれは必要なことか?お前はいつもそうだ。見たもの、聞いたものを上司に伝える。つまらないと思っていた!本当は仲間と同じように戦いたかった。そうだろ!
『でもそれが今は叶っていることも知ってるはずだ』
ふん…確かにな。
『俺は今、一番いい解決法を思いついたんだが。どうだ?乗るか?』
そりゃ確かに、ガキをヤるより、あいつを殴り飛ばす方がやりがいがありそうだな。
『そして、殺す前に知りたいことを聞き出して、あとはどうするかは自由だ』
いいね。乗った。
「どうした?立ちすくして」
魔王は仁王立ちを崩さない。やはり俺を舐め腐った視線を向けている。
「意思統一をしていた。それじゃあ」
『お前を殴って』
「話を聞くとしよう」
「それは私と戦うということか?」
『ああ。蝙蝠野郎は、羽を引きちぎらせてくれなかったからな。お前の羽で我慢してやる』
「恐ろしい目だ。私のことを殺そうとしている」
臨戦態勢に入ったな。
「いいだろう。私を壊すことで、その獣性が戻るというのなら」
『よしやるぞ!』
跳躍は離れていた距離を一瞬で詰める。
余裕綽々で仁王立ちしていた魔王が、守りに入る前に肩に掴みかかる。
もつれ合い、何度も腹に膝蹴りを入れる。
攻撃は確かに体に届いている。だが、冷静に受けとめるばかりで一切反撃してこない。
「理性が戻ったせいで、力が弱くなったな」
余裕な姿勢を崩さないが、それが無理をしているのが丸わかりだ。
守りを固める腕に、力を込めて蹴りを入れる。
守りは崩れる、後方に退く。だが崩れた姿勢から、跳躍をすることで空中に飛び上がり、逃げおおせてしまう。
『クソが!』
見上げた瞬間、顔の前に手の平があった。
放たれた煙を吸い込むと、体が痺れたように動かなくなり、膝が地面に着く。この攻撃はまさか…
「お前…本当に魔王か?……」
「いいや、魔王だとも。君を利用している、最低な悪魔だ!ハッ、ハッハハハハハ!」
恐ろしい顔が崩れるほど笑っている。
内なる自分が、鋭い殺意を抱いているのを、ひしひしと感じる。
「私を憎んでいる。そうだ、その獣性に従え。お前は殺しを楽しむ怪物だ!それを隠す悪辣な魔物となんら変わらない!」
怒りを煽るように、顔を見ながら笑う。その表情に凄まじい憎しみが湧き上がる。
「殺してやる。殺してやる!」




