表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/145

58話 恐れ

 意識が何かに乗っ取られ、俺は何も持たない姿で白黒の世界に来てしまった。

 何故か全身の毛が逆立つ。何か恐ろしいどこかに来てしまった、それだけが分かる。でもこれは夢ではない、確かに足の裏から地に立っていることを感じている。そして何かに監視されているような気がして振り向く。

「お前は…」

 ありえない、俺が過去殺害した敵軍の将軍、だが何故お前が目の前にいる?

 戸惑いをよそに、奴は俺に拳銃を向ける。

 とっさに飛びかかり、右手から拳銃を奪い取る。しかし奪い取った拳銃は掴んだ手から砂のように消え去る。

「はっ…!」

 気が付いた時には遅かった。胸を撃たれた。奴はまだ拳銃を持っていたんだ。

 黒い血が流れる。だがくたばるわけにはいかない。

 銃撃を食らいながら組みつく。後ろに回って、膝を蹴り、かかとを踏み抑え、その首を腕で絞め上げる。

「くたばれ!」

「ぐぅ…」

 もがく力は弱い。

 力を強める。

「死んだか…」

 腕から離れた体は、倒れこみ白い地面に飲まれるように消えていく。

 こいつは畜生だ、捕虜を惨殺し、街に毒を使って民間人を殺した。奴の最後は俺たちの部隊に捕らえられた後、民間の反抗勢力に殺された。そう、殺された。死んだんだ、それがなんで俺の前に現れた?

「何がどうなっているんだ…」

 考える暇もなく、チンピラのような軽装の、様々な人種の若い男達。アサルトライフルや軽機関銃を構えている。

 こいつは、治安維持任務に当たっていた時に戦った、反政府勢力という名の武装ギャング。活動費の為という名目で略奪を働き、違法な人体改造チップを売りさばき、高価な銃器、兵器を多数所持していた集団だ。

 構成員は戦争難民が多かったが、一年足らずで壊滅させられた。しかし奴らの報復の方法が兵士、政治家の家族を狙う陰湿なやり方で、指導者のみならず、構成員の多くが死刑になった。


 その奴らが俺を取り囲んでいる。

「なぜ撃ってこない…」

 俺の記憶の奴らはこの状況で引き金を引かないはずがない。

 取り囲む集団から、顔を目出し帽で覆った小柄な男が進み出て、目前にまで迫る。武器を持っている様子もない。

「お前は?…」

 目の前の男の目出し帽を取る。顔の左側から肩にかけてひどく焼けただれ、白い義眼が入ったその顔。俺が追っていた、犯罪者のボスの一人だ。

「キョウフのきおくはアマイ」

 首を両手で絞められ、体が宙に浮き上がる。

「お前!」

 その顔がドロドロと溶け、別の恐ろしい顔が現れる。そのつらは目も鼻もなく、ただ口があるだけ。そして不気味なまでに舌が長い。

「君がいくら取り繕おうと、強い死の恐怖は身に残っている」

 顔をその長い舌で舐められる。

「ぐっ…何が目的だ?」

「キョウフ、キョウフをよこせ」

「意味がわからん!」

 強い力で地面に押し倒される。取り囲む者たちの顔も同じような顔で、口だけが不気味につり上り笑っている。

なんだ!何がどうなっている?

「クソッ!離れろ!!」

 首を絞める力が強くなっている、周りの奴らが身体中に噛み付いてくる。

 痛い、鮮明に痛覚が刺激されている、これは夢じゃない。

「ウマイ。アマイ」

 足首や肩、至るとこが痛い。そこから血が滲んで、奴らはそれを舐め、美味いと言っている。なんだ?なんなんだ?わからない?ただ全身が恐怖で包まれている。


「あーん」

 首を噛まれている。痛い。

 理由はいい。このままでは、殺される。

 腋を膝で蹴り上げる。姿勢を崩し俺の上に倒れた面の無い男の首を絞める。首の骨が折れる音が響いた。

「どうして?」

 首を枝を折るように…

 今、俺の腕にはありえないほど強い力が宿っている。なぜかは知らない、ただ切り抜ける為には戦わなければ。

 足に噛み付く男の首根っこを掴み、集団に投げつける。

「キョウ…」

「黙ってろ!」

 倒れながら、恐怖と呟くその顔を踏み潰す。トマトを踏み潰すように簡単に潰れる。

「たべさせろ!」

 肩を掴み、押し倒され、首を噛もうと牙を剥く。鋭い獅子のような牙が喉仏に触る。

「くう…!』

 その口の中に手を突っ込んで、顎を引き剥がす。

「ありえない…ありえない力だ…」


「ハッハッ、いいだろう?」


「お前…」

 見覚えのある恐ろしい顔、まさか…


「強い力で敵を引き裂くのは気持ちいいだろう?」


 後ろから、大きな蜘蛛が現れる。

「腹が減っていた」

 幼い子供の声で、喋った、のか?…


 羽を引きずる大きな蝙蝠

「我が主人の無念を晴らすため…」

 呪うような低い声。


 今、さっきまで戦っていた大蠍

「人間は私の住処を当然のように踏み荒す」

 悲しみがこもった甲高い女の声。


「さあ、引き裂きたまえ。今の君にはそれができる。生き残るために力を振るいたまえよ」


 魔王に手を取られる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ