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55話 すれ違い

「ルル!ニオ!」

ルルは地面に伏せて、そのそばにはニオが鱗に姿を変えて転がっていた。

「ルル。聞こえるか?」

寝息を立てている。もしかして眠ってるのか?

「おい」

体を揺らすと、揺らした腕を振り払われる。

これはいい夢を見てて、起こされたくない奴の反応だろう。

施しの天使は手を出さないといっていたが、本当のことを言ってた。

「無事でよかった」

ルルは背負って帰るとしよう。

「よし…」

思ったより重たい。まあ、ルルは張りの強い長弓を引けるぐらい鍛えられているから当然か。


しかし、あいつなんだったんだ?天使ってことが本当だとしても、使徒の力を渡すってのはどうやってやってる?それに、苦しんでるやつに力を渡すと言っていたが、どうやって選んでるかがよく分からないし、苦しんでる生き物だったら、人間に居場所を追われたか弱い動物だって同じじゃないのか?どうにも戦い向きの生き物を選んでる気がしてならない。

それにあの悪魔の話じゃ、ウロボロスとかいう蛇から(ドラゴン)になった大きな怪物が力を与えて、仲間作りをしてるとか言ってたのに、目の前に現れたのは胡散臭い神父服を着た顔も分からない天使とはな。

確かに姿を変えたりしてるのかもと思っていたが…もしかしてあいつがウロボロスだったりもするのか?分からないな。

もう一つ気になることといえば、蠍の使徒は脱皮を続けると進化するという話だ。ただ(ドラゴン)になるってのは実際のところ、どんな風になるのかまだ見たことがなかったが。今回は離れた場所だったことで情報が遅れて伝わったのと、現地での怪しい出来事が二つ起こったことで、時間を稼がれてしまった。

だが、正直言って進化するところを見て見たいという好奇心があるのは確かだ。映像に収めて、学者に見せれば何かわかるかも…

いや、ダメだ。

空を飛ばれてみろ、ルルの村みたいにめちゃくちゃに破壊されてしまう。しかも、あの村以上に住民が住んでいる。しかも、あの怪物がもし別の場所に移動でもしたらシャレにならない。俺の役目は怪物の解明じゃなくて、殺すことだ。


「よし、行くか」

駆け足でルルを運ぶ。揺れているうちに目を覚ましたようで、苦労をかけたくないなんて言っていたが、医者に見せるまでは背負って行くと言ったら、納得してくれた。


「アルヴィ殿!」

門の前にボルドが待ってくれていた。

「どういうことです!?やっぱり何かあったんですね!?貴方はご無事なのか?」

「ああ使徒を作ってるっていう奴が現れたんだ。施しの天使だと自分で言っていた。確かに交戦はしたが、向こうがかなり手加減していたんで俺は怪我もなく助かった」

「すまない。私は気がついたら眠らされていた」

「全く!」

ボルドはご立腹の様子だ。でもこの怒りはきっと心配からくる怒りだろう。

「人智を超えた強さを持ってるのは確かだ。瞬きの間にはるか後方まで吹き飛ばされたんだからな。命拾いした」 

「はあ…言わせてもらいますが。私はアルヴィ殿に目の前で死なれてから、気がついたんです。友人を失うのはとても辛いと。それをあなたは…」

ふつふつと怒りが湧いてきたのか、握った拳を震わせている。俺は余計なことを言ってしまったな…

「それは私も同じだ。ヴェルフ殿がいた手前言い出しにくかったが、あの時私は…あなたを守れなかった」

「いきなりだったんだ」

「いや!異変を感じながら…私は見過ごしてしまった。家族を失った時と同じだ…」

ルルがか細い声で過去の後悔を話す。

「すまん…」

「あなたが謝ることじゃないんだ。私はあなたを助けるために付いていったのに、この体たらくだ。私は本来なら罰を与えられてもおかしくない」

「馬鹿言うな!それだけはあり得ない」

私兵というのは傭兵よりも立場が弱い。だが俺は同等の立場として思っている。なのに…

「相手が悪かった。勝てない相手にはどうしようも無い、それが道理だ」

「龍の娘子に私は庇われたんだぞ。本来なら私が助けるべきだったというのに!」

「ふふっ。ルルったらそんなことを気にしていたのね」

首から下げていた鱗からニオが目の前に現れる。

「私はあなたより強い、それに死なないの、だからあなたを助けた。でも勘違いしないで、私はアルヴィの悲しむ顔が見たくないから助けたの。これで納得?」

「あのな…言い方ってものがあるだろ」

「私が優しい言葉をかけるのはあなただけなの。ごめんなさい」

「ああ、私は感謝する。あなたこそがアル殿の牙だ。わかっている…」

「ルル、気落ちするな。俺はいつも頼りにしてる。でも同時に俺は、ルルに死んでほしくない。それに俺はニオのおかげで死なない、だから…」

「もうわかった」

ルルは俺が死ぬこと、それを心配してくれている。でも俺はもう一度死んでいる。運良く悪魔に命拾いさせられたが、結局は二度目の命、今を生きてる奴らのために使うのはおかしいことなのだろうか…

「さあもう困らせるのはおわりにする。ことを急がなければいけないんだ。私はそこで手柄を立ててやる!」

「ああもう…ルル殿も、お体に何かあるかもしれないのに走って行かれてはいけません」

ルルのあれはきっと空元気だ。死を恐れないことは、彼女の中では納得いかないか…当然、彼女にとって俺は生きた人間だ。でもそうじゃない、俺は死人と変わらない。そのはずだ…

「アルヴィ?」

「俺は間違っている…」

「どうしたの?…」

俺が生きていた時とは違う。仲間は絶対に失わない。間違っていてもいい、もう後悔はしたくない。

「ねぇ!」

あそこまで心配してくれる仲間を失うわけにはいかない。

「行こう。奴を倒さないと」


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