54話 怪しげな聖者
「ふっ。こき使われたな」
「ああ…」
「尻に敷かれちゃったわね」
「相手が相手だからな」
ルルもニオも可哀想な人を見る目で見るんじゃない…
「レイレイとあなたのやりとりも似たようなものじゃないか?」
「それは奉仕の心ってやつだ」
「アルヴィ。あそこ」
ニオが指差す場所は縦に開いた洞穴の入り口。
「もらった地図には書いてないな」
「使徒が自分で掘ったんじゃない?」
「にしては小さくないか?」
確かにあの大きな体で通るにはあまりに小さい、人一人が通れるかといった穴だ。
「入るのは嫌だな」
「ドローンを入れて中を見て見るか」
車輪で駆動するドローンもあるし、中を見て回れるはずだ。信号が途絶えないかは心配だが。
「どうだ?」
縦に開いた穴に送り込んだドローンは、その虚を通って底に降りる。
「別の空洞に通じていたようだ。もしかしたら別の魔物の巣を拡張したのかもしれないな」
「巨大蟻の巣か、サンドワームの通り道かもしれない」
「おっと、これかもな」
目の前に黒い物体が現れる。これが蠍の使徒の体だろう。
「この下にいる。城に近い場所に潜んでいたようだ」
「多分使徒よ。しかも何してるの?」
「体を震わせてる。脱皮かもしれない」
「良くないね。使徒化した動物は龍に進化していく。もしかしたらその過程が始まってるのかも」
「そうとも」
突然背後に牧師の様なローブを着て、その顔を隠すようにフードで覆った誰かが現れる。その顔は黒い渦のような物が渦巻いていて、声も男か女かもわからない声だ。
全くどんな人物かが見えてこない。ただ生理的な恐怖を感じ、鳥肌が立っている。
「どこから現れた?お前は何者だ?」
「嫌…」
ニオが俺の後ろに隠れている。
「やあ、ご機嫌よう。私は…そうだな…天使と言った所だろうか。名前は施しの天使とでも読んでくれればいい」
「天使?」
一対の白い翼がローブから覗く。
「お前が使徒に変えてるのか?」
「そうだ。きっと理由が知りたいだろう?だが人類種である君に言ったところで拒絶されると思うが。それでも聞きたいかな?」
「ああ」
「君が話のできる人でよかった。そうだね、私はただ救いたいのだよ。人ではない生き物を。君が殺した、アラネイトォパ、ヴェスペクピディタス、彼らは強い苦しみを感じ、それを克服する力を渇望していた。だから授けた」
「何?ならなぜヴェルフにも同じことをした?」
「なんのことだ?人間に力を渡した覚えはない」
「胡散臭いなお前。綺麗事を並べてるだけだろう?理由がどうあれ、お前は迷惑な怪物を作ってる、迷惑な奴ってことに変わりわない」
「ああ、君はそのまま戦えばいい。私は決して君個人を恨んだりしない。ただ人々は理解するべきだ、この世界は誰のものでもないことをね」
「俺を殺しに来たんじゃないなら、何故目の前に現れた?」
「彼女の進化を止めて欲しくない。だから君を殺しはしないが時間を稼がせてもらう」
天使が手を前にかざした瞬間、凄まじい突風が吹き、はるか後方に吹き飛ばされる。
「二人は…」
「心配いらない。二人には眠ってもらった」
後ろに立っている!?
腰の拳銃を抜き、発砲する。
「ああ…思った以上に強いな」
足に当たったようだが、体が石でできてるのか、血が一切流れていない。
「この武器は殺すことだけを考えてある。残酷な武器だ。きっと君の世界でも同じ様に生き物が殺されているんだろう」
ゆっくりと近づいてくる。
もう一度引き金を引く。
「ああ…痛い」
口ではそう言いながらも、全く銃弾が効いてるとは思えない。
もう一歩、一歩と近付いて来ている。その威圧感に気圧されて、後ずさりしてしまう。
「恐れているのか?なら武器を捨てて、進化の姿を共に見届けよう。君は部外者であり、この世界を客観視できる存在のはずだ。私の手を取り、共に来ないか?」
「暴れ出したらどうするつもりだ」
あの悪魔が信用できるのかは分からないが、現状を考えれば、こいつの言ってることは信用に足りてない。
「この期に及んでもまだそんな事を。私は君を殺せる、絶対に。だから…」
手を差し伸べて来た施しの天使の腹に、毒蜘蛛の牙を突き刺す。
「体が動かない…」
「捕らえさせてもらう」
天使を押さえつけようとしたその瞬間。
「そうか…残念だ」
と言う言葉を残した後、姿がバッタの大群に変わり、空に逃げ去ってしまった。
「船の上で見たバッタはこいつだったのか」
あいつが何者なのかは分からない。ただ何かの思惑で使徒を作り出していることはわかった。




