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52話 砂漠の農場

「農家の家とは思えないな…」

 砂岩の城壁が豪邸を取り囲み、中には私兵らしき武装した戦士がたむろしている。ざっと数えても30人はいるだろう。そして農地には腕に農具がついた小型のゴーレム達が畑作業を行なっている。

「いや〜。王女殿下自らお出でとは思いもしませんでした。近頃は物騒な怪物が現れるそうで、ご無事にお出で安心しました。ささ、どうぞどうぞ」

 出迎えに現れたのは、でっぷりと腹に脂肪をため込んだ男と少しレイレイに似た雰囲気の妖艶な女性だ。

 そして彼らに案内された部屋は、砂漠の暑さを全く感じないほど涼しく、快適な場所だった。

「道中お疲れでしょう。昼食をご用意させてもらいました。みなさんもどうです?あれ?ヴェルフ将軍ではありませんか」

「ガリーブ殿、リュウリン様、お久しぶりです。」

「魚竜の件は助かりました。さあ、どうぞどうぞ」

 王宮で出された食事よりも豪勢な食事が並べられている。

「ガリーブ様、あなたの持て成しに感謝するわ。でもこの状況でよくぞここまで用意できたわね」

「王室の方を迎えるため、奮発させていただいたんです」

 しかし肉なんてどこで仕入れたんだろうか?それとも備蓄があったのか?

「ここで畜産も営んでいるので。動物の糞は植物を肥やし、血や臓物はゴーレムを生かすことを伝え、夫に育てることを勧めたのです」

 人間に従順な動物の心臓をゴーレムの核に使う事でゴーレムを制御しやすくなるとイザベラも言っていた。たぶん、彼女も同じく錬金術師なんだろう。


 自己紹介や世間話をして、食事を終える。

「それで約束の物は揃っていて?」

「ええ、数は少ないかもしれませんが。お納めください」

「季節は関係ないのか?」

「家内が作る薬のおかげで、育ち実る時さえあればいつでも作れますので」

 一般的な農家が使うのは食料の廃棄物や、生物の排泄物などで作られる有機肥料だ。だから肥料作りを手伝ってほしいなんて依頼がギルドにあったりもする。それなりに報酬がいいんだが、気が進まない依頼だ。

 錬金術師が鉱物から作る化学肥料は高値で取引される品で、金のある農家じゃなきゃ買えない。それを自分の家で作ってるみたいだ。

「海水を水に変える術のおかげで、水にも困らず農業はうまくいっております。どうです、農地を見ていかれますか?」

「ええ!是非見せてちょうだい!」

 王女は農場に好奇心で目を輝かせている。その姿は小さい子供の様だ。

「もちろんです。さあ、ご案内しましょう」

「ほら、あなた達も行くわよ!」

 水で口の中の食べ物を流し込んで、早足の王女について行く。


 目の前は一面黄金色の畑。というわけではなく、ただ平たい草が生えているだけだ。まあ春前の時期だからこんなものだろう。

「あちらに見えるのが小麦畑でございます。いつも納めている物もあそこから」

「あのゴーレムは何をしてるの?」

 王女の指差す先は、畑をゆっくりと踏みつけながら歩くサンドゴーレムの姿がある。

「風が強くなる時期の前に麦を踏んでいるんです。ああする事で麦が強くなるんですよ。」

 ここは雪が降らないから麦踏みの時期が少し遅いようだ。俺も子供の頃に手伝ったことがあったな。

「あのゴーレムはどうやって作ってるんだ?」

「畑の土です。ああやってゴーレムにして動かす事で魔力を循環させて、次の畑の土にできるんです」

 なるほど。同じ土で育てると発育が悪くなるから、農地の土でゴーレムを作り、魔力を循環させることで浄化するってことか。錬金術師ならではの手法だな。

 王都直属の農地では、首長の牛、カトブレパスという名の魔物が飼養されていて、その牛が土を耕す。

 カトブレパスは目を合わせた者を殺す魔眼を持ち、長く大きな角をもつ。その魔眼を塞ぐと、溢れる魔力が角から漏れて、その魔力が地面に触れることで土を消毒する。この牛耕農法は一般でも見られる光景だ。

 あのゴーレムは農業に適していないこの乾燥した土地での試行錯誤から生まれた農法なんだろう。

「あちらに見えるガラスの建物、あそこが西瓜の栽培をしている場所です。近くまで行きましょう」


 ガラスの温室、そこで西瓜を栽培しているようだ。その中も見学してみる。その中はほとんど人の大きさと変わらない大きさのアイアンゴーレムが働いていた。

「どうです。暑いでしょう」

「ええ、とても暑いわ」

 王女が汗を拭っている。

「湿度もあるな」

 中は湿度も高い。環境センサーの湿度計は外にいる間はずっと小さい数字だったが、温室に入ると数字が増した。

「この湿気は海水の変換装置から発生する蒸気を利用しています、そしてあの遮光布で温度の調整を」

 それほど普及していない温室栽培で、しかもかなりハイテク。これを考えて作ったあのリュウリンという人、かなりの知恵者だな。

「それは私に教えを授けた人がいたからですよ。その方はとても聡明な女性でした。多くを知っていて、どんな質問のも答えてくださる人でした。あの方もあなたと同じ、世界を超えてこの地にやってきた人です。緑化活動をしていて、戦いに巻き込まれてしまったと言っていました」

「戦争?もしかして近い時代に生きていたのかもしれないな。名前は?」

「テレーゼさんです。そういえば、あの人もその腕輪を付けていましたね」

『hello』を使ってる?もしかしたら同じ世界から来たのかもしれない。しかもかなり近い時代に生きていたはずだ。

「その人は何処にいるんだ?」

「ここから東に行った花の都ミラナという街で、今も教員をしているはずです。花咲か先生といえばすぐに伝わるはずですよ」

「覚えておくよ。もしかしたら何か情報交換できるかもしれない」

 思わぬ収穫だ、時間を作って行ってみよう。


 農場の見学も進み、歩き回って小腹が空き始めた頃。

「さて、そろそろ間食でもどうです。蜂蜜のクッキーがありますよ」

「あら!いいじゃない!」

「すみません王女殿下、空模様が怪しくなって参りました。もしかしたら砂嵐が来るかもしれません。戻った方がいいかと」

「もう!仕方ないわね」

「それでは、またいらっしゃった時にも用意しておきましょう」

「ええ、素敵な持て成しだったわ。このことはお兄様にも伝えておきます」

「そんな滅相もない。ただ楽しんで頂けたのなら幸いです」

 トントンと少女のか弱い力で背中を叩かれる。

「さあ、アル。背中を貸しなさい」

「荷車を押さなきゃならないんだが…」

「なら同時にやればいいじゃない。このわたくしが応援してあげる!」

「人使いが荒い…」

「素直ね。あなたは決して私の顔色を伺わない。いいわよ!でも、私は偉大な人物になるの。あなたはそれを分かっていない。だからわたくしが話してあげる」

 王女の部下になったら大変だろうな。子供のくせに、値踏みをするように受け答えを強いて来る。つまらない答えを出すと説教が始まるのも面倒だ。ただ身分の高い者に強く言える人はこの場にはいない。

「そうですね…王女、お父様の偉業のお話をよくお話くださりましたよね。それを話されてはいかでしょう。偉大さが大いにに伝わるかと」

「いいわね!そうしましょう」

「…アルヴィ様、このお話ならとても饒舌に語られます。きっと答えを強いることもないでしょう」

「助かる。じゃあ戻ろう」


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