51話 わがまま王女
「遅刻はしなかったみたいね。殊勝な心がけじゃない」
「ええ、出発しましょう」
「待ちなさい。このみすぼらしい車は何?これにわたくしが乗るなんて言わないわよね?」
確かにただの木で出来た荷車だが、車輪は鉄で補強されていたりと頑丈そうな作りだが…
「ダメなのか?」
「もちろんよ。だって可愛くないじゃない。もっと華やかな物はなかったの?」
「可愛い荷車なんて…」
「なら飾り付ける努力をなさい!こんな不恰好な荷車は嫌よ!」
そんなこと言われてもな…
「何かないか?…」
ルルなら何か思いつかないだろうか?
「私はその…可愛い荷車の検討が全くつかない」
「兎や猫ですかね?」
ボルドは何を言ってるんだよ…荷車をどうやって兎や猫にするんだ?
「全く…揃いも揃って文化に疎いのね。ならわたくしが教えてあげる。グラント、私のお気に入りの傘と、そうね…」
「いや…なぜ乗る前提で話が進んでいる?これは西瓜を運ぶための物だぞ」
「なんですって!?まさかこのわたくしに歩かせようと!?嫌よ!」
「でしたらその仕入れ先を私めにお教えくだされ。取りに参ったのち、その後殿下が…」
「嫌よ!!そうしたらあなた達の手柄になっちゃうじゃない!」
ヴェルフの言葉には耳を貸さず、まくしたてるように言い放つ。
「ですから、運んできた物を皇女殿下が直接振舞われては?」
「嫌!最初からやりたいの!!」
「むぅ…」
立場の高い人物の駄々にヴェルフも言い返せないようだ。
「もう一台用意してもらうか…」
「殿下、勲を立てるには何かを耐え忍ばねばなりません。それは誰であれです」
グラントの厳しい言葉にに皇女は不服そうな顔をするが、どうやら納得した様子で、ぶつぶつと仕方ないわねと言いながら腕を組んで俺の目の前に立つ。
「仮面のあなた、あなたが私を運びなさい。龍を倒す英雄を名乗るなら、私を運ぶくらい容易いわよね?」
「どうやって運んだらいいんだ?」
「その小汚い外套と鞄を外しなさい。背中に背負われてあげるから!」
まあ、背丈の小さい少女を背負って歩くくらいは出来そうか…しかし、面倒なことになったな。
「分かった…」
「ふっ、大変なことになったな?」
ルルがニヤニヤしながら、俺のリュックを手に取る。
「全く…」
王女を背負うなんて真似して大丈夫なのか?…後で文句言われたらどうすればいいんだよ。
ただ俺の意思など意にも返さず、背中に嬉々として乗り込み、俺のヘルメットのアンテナをハンドルがわりに掴んで、馬の腹を蹴るように腹部に蹴りをいれられる。
「じゃあ行くわよ!」
そして、王女が行き先とする場所に向かい始める。それほど遠くはないとのことだが…
「あら、何かしら?背中から風が出ているけれど」
「それは空調の排気だ」
「クウチョウ?それは何?」
「暑い時は冷まして、寒い時は温める装置だ」
「まあ!それはどこで買ったの?」
「非売品だ」
「あなた、どこか別の場所から来たのよね?ねぇ、その場所には素敵な可愛い物はあるかしら?」
「確かにあると思うが俺は触れてこなかったかな」
「そんな答えは欲しくないの!いいから言いなさい!」
「好みの物はどんな物だ?」
「そうねぇ。わたくしは綺麗な着物とか、可愛らしい装飾とか。ずっと見て居たくなる調度品とかね」
服装も今の俺を見たらわかる通り戦闘服ばかりだし、俺の身に付けている装飾で可愛い物なんて何一つなければ、調度品なんて軍にいた時間が長すぎて全く触れてこなかったことだ。
「困ったな…」
「じゃあ素敵な景色は?」
「いや…」
「それも知らないの?」
「そういう場所はよほどの田舎じゃなければ破壊されててもう元の風景では無くなってずっと放置されてる」
「とても激しい戦争が起こった場所から来たのね。それじゃあ豊かな生活のことを知らなかったり、景色も知らなくても仕方ないわね。戦争はどのくらい続いたの?」
「戦闘は常に起きていた訳じゃなかったが、だいたい40年は続いていたな」
「なぜそんなに続いたの?対話できなかったのかしら」
「一時的な平和は来ても、武器をお互いに捨てなければ睨み合うだけだ。それに欲しい物が同じだったら嫌でも取り合う」
「分け合えばいいじゃない」
「残り少ない水筒の水を百人では分け合えない」
石油や天然ガスなどの化石燃料から食料に至るまで、全てが枯渇してしまい起こった戦争、その始まりは先進国が資源を確保するために戦った。
結果としては敗北を喫して後進国に落ちてしまった国もあれば、より影響力を手にした国もあった。
その後、欲を出したとある国が付近の小国に宣戦布告したが、小国側の自棄的な核兵器の使用で大国側も大損害を被った。そして隣接した資源の取り合いで敗戦した国が弱った国に向けて戦争を仕掛けた。そこでも核兵器が使用され、それ以降はタガが外れたように核兵器が使用されるようになった。
核を盾に弱小国を無理やり統治しようとし、その弱小国に核兵器を横流しして反撃させ、その国を奪おうとする国も現れてと混乱を極めていった。
弱小国が核兵器を乱発して大国を敗北させたことから、より戦争は激化していき、隣接する国同士がどこでも戦争をしている状況にまで陥ってしまった。
そんな中で生まれたものだから、旅行なんてしたこともなかったし、故郷の景色も綺麗というわけではなかったからな…
「そんなものなの?」
「たぶんな」
きっと、困った隣人の為なら手を差し伸べれても、その相手が集団でその中でも取り合ってしまうようならば、独り占めしてしまいたくなるんだろう。多分俺もそうなってしまう。
「なんだか余裕がないって感じね」
「その通りだろうな」
「ですがあなたは強い。私を許してくださった。そんな余裕が私にあれば誰かに付け入られる事はなかった」
確かにヴェルフは俺から見ても余裕がないように見える、だがそれも責任感からだろう。
「この件が解決した暁にはあんたにも余裕が戻るといいな」
でも彼は兵たちから慕われている。それは一部しか見てない俺でも感じ取れる程だった。先陣を切る彼の勇姿を見てその場に居た皆が奮い立ったのも確かだ。
「それは…」
「うふっ。ヴェルフ、堅物なあなたがそんな顔するの初めて見たわ。いつも険しい顔なんだもの。そうね、お兄様に頼んで休暇でも貰ったら?あなたが休んでいるところをわたくし見た事ないんですもの」
「それもいいかもしれません」
「なんなら国を挙げての休息日を作っちゃおうかしら。きっとみんな疲れているものね。この私ですら目覚めが早くなっちゃったぐらいなんだもの」
「国民思いなんだな」
「当たり前じゃない!お父様はいつも言っていたわ。民がいるから王であれるんだって。だから何よりも民のことを思いなさいってね」
「立派な人物だ。そんな人物が俺の国にもいれば良かったのに」
「うふっ。気にいったならこの国に住んでもいいのよ?」
「いや、遠慮しとく…」
交通に関しては劣悪だからな…
「なんでよ!」
その後、彼女が自分の国の魅力をひたすら語り続ける。西瓜もこの地では旅に出る人に渡されたり、死出の供え物にされるなど、民に愛される名品だそうだ。
こうして、西瓜を育てる大農家の農場にたどり着く。




