50話 小休止
襲撃して来た使徒を倒した翌日の夜明け前。
まだいるかもしれない個体は前のものより強力な可能性が高い。ヴェルフから聞いた話では攻撃を跳ね返してきて、一瞬で地面に潜るということだった。前回の個体は地面に潜ることはあったが、攻撃を跳ね返すことがなかった。それが別の個体がいることを確信させたそうだ。
その為、前回以上の警戒が行われていて、巡回する兵士の数も多くなっていた。
それで今立っている場所は襲撃の可能性が高いという東門の近くで待っていたわけだが、夜明けが過ぎても姿を表すことはなく、骨折り損で終わってしまった。
それから三日経っても襲撃はなく、事は解決したのではという声が上がり始めた頃。
「あら、また居もしない怪物を探しに行くのかしら?」
そう言う身なりのいい少女は、俺らが休んでいる建物に突然訪れて、俺らに接待を望んできた。
「あなたたち二人共わたくしが誰かわかって?田舎者には分からないんじゃない?」
「すまない」
「謝る必要なんてないわ。だって、わたくしはこれから有名になるんだもの。そう、わたくしはハーディ家の皇女。サルワー・ハーディ・スィラージュよ!」
立ち上がり腕を広げてアピールしている。
「ああ…」
「あら。見惚れているの?うふふっ。いいわよ、許してあげるわっ!」
喜んでいるのか、スカートを持ち上げながら一回転している。
「なんだか反応が薄いわね。まあいいわ。それで、首尾はどうなってるのかしら?それとも砂漠で遊んでるだけなの?」
「違うと言いたいが、事実はそうなる」
「そうなの。素敵で変な趣味なのね。ですが今日は違うの。だってあなたは今日わたくしの初めての依頼を受けることになるんですもの!」
「依頼?」
「ええそうよ。これはお使いのお願いじゃなくて依頼。だからもちろんわたくしは報酬を払って依頼するの。報酬は素敵な絨毯をあげる。わたくしお気に入りの職人に作らせた物よ?」
連れていたメイドにその絨毯を運ばせてきて、それを見せてくれる。
素人だからよくわからないが、多分高級品だろうということが伝わってくる美しい模様の絨毯だ。ただな…
「……」
「あら、気に食わないのかしら…」
「いや、俺らにはこういうのは宝の持ち腐れになるんじゃないかと思って」
「いいえ。もちろん渡したら、その後のことはあなたの好きにすればいいわ。資金に変えてもいいし、そのまま持っていてもいいから。ちゃんと報酬はどうすればいいか調べたのよ!」
そう偉ぶる彼女に周りのメイドが拍手で賛美を送っている。
「それで依頼の内容は?」
「私は皇女だから困っている民や兵士たちを慰めてあげたいの。それでいいことを考えたの。なんだと思う?」
「さあ…?」
「やっぱり凡愚そうなあなたにはわからないのね!なら教えてあげる。それはね、西瓜よ。西瓜を集めてきてみんなに振る舞うの!みんなあの甘美で潤って元気を出すはずだわっ!」
あの王様と違って、態度は横柄だが、彼女なりに民衆のことを思っての行動なんだろう。
「それで俺達が集めてこいと?」
「そうよ?でも見当はついてるから、そこまでこの私もついて行ってあげる」
「危険では?」
「だからあなた達を雇ったんじゃない。何かあったら死ぬ気で守りなさい。で、でもこの砂漠は危険になっちゃって野盗はいなくなったし、魔物も蠍の使徒を恐れて隠れてしまったから大丈夫なはずよ」
状況もしっかり理解した上で決行を決意したのか。
「今日決行か?」
「ええそう、今すぐに行くの」
そう言いながらせかせかと立ち上がり部屋から出て行こうとする。
「待って。その格好で行くのか?」
「なにかしら?」
ドレスにヒールで砂漠に出るのは無いだろ…
「適した格好じゃないと思うんだが…」
「でもこれは私のお気に入りの一張羅なの!」
この地の女性の格好とも違うから、自分が気に入って着てるのは分かる。だが馬やラクダはこの地の異変に気付いてるのか砂漠を行きたがらないそうだ、だから歩いて行くしかない…
「皇女殿下、そのお姿で砂漠に出るのはあまりにも環境に適した格好じゃないと考えます。場には場にふさわしい姿で現れる。それこそが良き王族ではありませんか?」
グラントがフォローを入れてくれた。さすがに老練の彼の言葉には耳を傾けざるを得ないだろう。
「むぅ…わかりました。これも家臣の言い分をしっかり聞く練習よね… じゃあ着替えてきますから、南門で待っていなさい」
少し不機嫌そうになりながら、返事も聞かずに部屋を出ていってしまった。
「嵐のような方でしたね」
「王様は喋りの勢いだが、皇女様の方は動きの勢いが激しかった」
「私もご同行させてもらいます。あのお方のことだから護衛はいらないと言い出すでしょうから」
ヴェルフも同行してくれるそうだ。
「もう行こうか。先に着いてないと色々言われそうだ」
「荷車はこちらで用意しておきます。ですが引き手は今日のご機嫌次第。まあ人力が妥当でしょうね」
グラントが準備してくれるそうだが、まあ馬は…用意できなさそうだな。
「俺らで引くってことか…」
「大変そうですね…」
俺とボルドは同時に肩を落とす。砂場で重量のかさんだ荷車を押すのは相当大変そうだ。
「私も手伝わせてもらおう。それに村にいた頃は材木をよく運んだものだ、足腰に自信はあるぞ」
「情けないですよボルド。私は砂場の行軍は慣れっこです」
「なにっ?私だって山岳行軍の訓練を積んできました。できますとも、やってやりましょう」
ヴェルフに発破をかけられてボルドの負けん気に火がつく。
長距離の行軍は俺も訓練でやったことがあるが、牽引の訓練は受けてないから自信はない。だがみんなは慣れてそうだし、今回は仲間の胸をかりるつもりで手伝ってみようか。




