46話 操られた戦士
「うん…」
目が覚めて外を見ると外は夜。ベッドにルルが凭れて眠っていて、ソファーにはボルドが腕を組んで眠っている。間が悪い時に目が覚めたみたいだ。
「目が覚めた?」
どこからともなく現れて自分の上に跨るニオ。
「腹を切られたんだぞ?」
「大丈夫。もうくっ付いてる」
服を捲って撫でられる。
「さあ、水でも飲むかな。喉が渇いた」
どかすと不機嫌そうな顔になり、手に噛み付いてくる。
「何だ?」
「姿が変わったらそばに置いてくれないの?」
「男の上に跨るもんじゃない。間違いが起きても知らないぞ」
「ヒトガタになっただけでしょ?」
変わらず手を食まれる。まるで構って欲しい子犬みたいだ。
「変わりすぎなんだよ。それと何でそんなに俺に甘える?」
「だってあなたの物だからね」
「全く…いつそんなに仲良くなったんだ?」
ルルが目を覚ましいて冷たい目で見てくる。
「ええ。それはもう出会った時から」
「はあ…」
「ん…おお!!アルヴィ殿、ご無事で何よりです!」
ボルドが目を覚まして、俺の手を握って喜んでいる。
「ああ、この子のお陰であの世から戻って来れた」
「彼女から聞きました。死なせぬ為にいると」
「それでヴェルフはどうなった?」
「あれからひと暴れした後、頭を抱えて動きを止めてしまいました。それで今は牢屋に入れられています」
「ひどい暴れようだったぞ。兵士が大勢引き止めてくれないとずっと追いかけられる所だった」
あの後、あった出来事を二人から聞いた。俺を抱えて逃げ回ったことや、止めに入った兵士の中に死人も出てしまった事も。
ヴェルフの状態と、元に戻せるかもしれない事を話した。
「あの状態は使徒のなりかけで、それを解除したいと?」
「出来るんでしょうか?」
二人は信じてない様子だった。でもニオは自信に満ち溢れた表情で笑っている。
「任せて。彼の願いを叶えるのが私の役目だから」
ルルの方を見ながらあなたには出来ないでしょ?と言ってるような顔だ。
「何なんだいったい…」
ルルは不機嫌そうだ。ニオのルルに対する態度が挑発しているようにしか見えない。
「出来ることをやればいい。な?」
「誰にでも優しいのは感心しない」「アル殿なりの気遣いだ」
ボルドの方に助けてくれと目を向けると、ボルドがまあまあと言い出す。それであの後問答は合ったものの、みんなニオのことを受け入れたようだ。そして、問題解決に動き出す。
グラントが牢屋までの道を案内してくれた。
「こちらです」
ヴェルフには拘束具が取り付けられ、椅子に縛りつけられている。ただ目が赤くギラギラと輝いていて今にも暴れだしそうだ。
「やっぱり中に力が宿ってるね。でも今は静かになってる」
ニオは扉を開けて中に入りたい様だ。
「大丈夫なのか?…」
「刺激する事はしないほうがいいかと」
「でも弱ってるうちに力を奪わないと」
「分かりました。今開けます。ですがどうか気をつけて」
衛兵たちが扉を開ける。中に入り近づくとこちらに気がついたようだ。
「さあ、その中にある力を捨てなさい」
ニオが頭に手を置く。ただ彼女の声に反するように、急に体を動かし払いのけようと暴れ出す。
「アルヴィ、ボルド抑えて!」
「了解」
二人掛かりで体を力づくで押さえつける。それでも足りないほどで、衛兵達が加わり、やっとのことで動きを抑えることが叶った。まるで暴れる猪みたいだ。
「凄い力だな…」
「もう少し、はぁあああ…」
息を吐く声と同時に当てられた手のひらが光り出す。この光は鱗を武器に変えて、攻撃した時に発される光だ。その光にヴェルフは苦悶の声を漏らした後、脱力して椅子にもたれ掛かる。
「どうなった?」
「これで…」
力尽きた様に倒れるニオを支える。
「よくやったぞ。体は大丈夫か?」
「見て、力を奪ったよ」
手のひらには赤いエネルギーが渦を巻いて怪しく光っている。
「何だこれは?」
「きっとこれは内なる獣性を引き出す力、今は私の中にしまっておくね。うまく操れるようにしておくから」
そう言い残すと姿を消してしまう。
「うっ…私は…何をしていた?…」
瞳に宿っていた赤い光は抜けていて、自分が拘束されていることを見て困惑している。
「もう気づいたのか」
「貴方達は誰だ?…なぜボルド、君がいる?…」
「気分は如何ですか?」
「なぜ私は牢にいる?」
「ヴェルフ殿、落ち着いて聞いてください。貴方は何者かにより龍の使徒になりかけ、ここに入れられました」
「私が…」
落胆の表情を浮かべる。ただ今は誰がこうしたのかを知りたい。
「最後に誰に会った?それが知りたい」
「何か枕元に現れたのは覚えている。それで…うっ!」
ヴェルフの頭に魔力の楔が形を表す。レームが教えてくれた記憶に穴を開ける魔術だ。しかも思い出した瞬間に穴が開いたのか?
「ヴェルフ殿!」
「記憶阻害か。解除しないと記憶が失われるぞ」
掌の上で踊らされているようだ、ここまで周到とは。魔王は時間稼ぎと言っていたがもしそうなら、彼を助けることよりも夜明けに備えるべきなんじゃないか?…
「この程度の術など…」
血が滲むほど唇を噛み締め、術に自分の力で争っている。
「抵抗したらまずい。失敗したら記憶の全てが無くなるぞ」
「抗魔力の強さはかなり高いお方です。ただ、魔力量が足りないかも」
蝙蝠のペンダントこれなら魔力を受け渡すことができる。
「これを使おう」
ヴェルフの腕から魔力を流し込む。彼は一度力を抜いてから気合を入れ直す。すると楔は魔力を失い、霧散して消える。
「ふぅ…」
凄いな、気合いで魔術を打ち消すなんて。彼の能力の高さが伺える。
その後彼の拘束が外され、一度状況を整理する。
「貴方のことも思い出しました。龍の使徒を殺してみせた何者かがいると。見た目の話も一致している。怪しげな仮面をつけ、小汚い外套を纏っていて、珍しい武器を操り、ダークエルフの女性と一緒に行動しているということでした」
誰が言いふらしてるんだか…
「私は噂話だと思っていましたが、使徒になりかけて真実だと理解しました。あの少女にもお礼が言いたい」
「あの子は疲れてお休み中だ。後で伝えとく」
「そうしてください。あのまま後戻りできなくなる所をあなた方に救われた」
そう言う顔は出会った時違い、落ち着いた表情だ。
「それじゃあ、どういう経緯で使徒になったか聞かせてくれないか?」
「ええもちろんです。最初から話しましょう。あの日私は亡くなった兵士の御家族に報告に行き、その帰りでした。私は何者かに誘われるように建物の影に連れられました。そこで私に」
「どんな姿だった?」
「布に覆われて輪郭の見えない服装でした。確かなのは顔も足も影の様なものに覆われて見えなかったことです」
「幽霊みたいだな」
「ええ、そう言っていいかもしれません。そして男性とも女性とも取れない声で私の胸中を見透かし、無念を晴らす力を授けると」
「使徒を倒すことを望んだのか?」
「そうです。その誘惑に負けて力を望んでしまった。そこからの記憶は…貴方を切り、兵士も死なせて。私はなんてことを…」
彼の姿は自分の行いを強く悔いている。本当は切りかかったりする様な気が荒い人ではないと確信した。
「やってしまった事は取り返せない。でも、あんたは別に悪くないと思う」
「いえ、私は自らの弱さに負けた。そのせいで貴方に狼藉を働き、部下に手を掛けた。こんな事が許さるはずがない。貴方はなぜ私を許してくださるのか?処断して然るべきのはずなのに」
「結果的に俺は死ななかったからな」
ただ納得はいかないだろう。彼は自分の弱さのせいだと考えている。
「自分が許せないかもしれないが、あんたは操られていたし弁明の余地がある」
「でも死んでしまった者は蘇らない」
「そうだ。でも怪物はまた来るし、別の誰かが使徒に変えられるかもしれない」
「戦って示せと?」
下を見ていた彼が俺を見上げる。俺は頷いて答える。
「どうするか考えてといてくれ。でももし闘志が消えなかったら一緒に戦ってくれないか?」
「ええ…もう少し時間をください。今日の朝までには答えを出します」
彼がいるかいないかで戦いの行方が必ず変わるはずだ。あとはいい結果を待とう。




