45話 祖龍の巫女
「本当に?嘘を言ったら容赦しないからな!」
「信じて」
ルルと知らない女が言い争う声が聞こえる。
「待って、聞こえてる?」
変な感覚だ。自分の体のはずなのに思うように動かせない。
「アル殿!」「アルヴィ殿。聞こえますか?」
ボルドも近くにいるようだ。反応を返してみよう。かすかに手が動く、本当に幽体離脱ってのはこんな気分なのか?気味が悪い。
「手が動いた!」
「聞こえてるようです。よかった…」
「うん。生きてる」
数ミリ動いただけでもう眠さが勝り始めてきた。もう少し休ませてくれ…
その眠りの中で夢を見た。過去倒した使徒たちの憎しみの感情を見せられた。
蜘蛛は小さいながら雪山で密かに生きていた、ただその耐えられない飢えに負け、使徒の力を黒い影に与えられた。蝙蝠は失った主人の無念を晴らすためにその主人を殺したダークエルフの出身地を破壊することを選んだ。この黒い影が誰なのかは全く検討もつかないが、こういう強い恨みを持っているかで選んでる可能性が高い。そう考えると俺を襲ったヴェルフもそういう感情があったのかもしれない。俺を憎んでいたのか、それとも蠍を憎む気持ちに付け込まれたのか。それは起きてから確認してみよう。
待て、なんでこんな思考が回るんだ?
「それはね。私が観せてあげた幻だから」
目の前には見知らぬ少女。尻尾が生え、その手は鱗に包まれていて、頭からも角が生えている。背中には小さい翼がある。竜人という種族だろうか。
「初めまして。私は粗龍の分身、名前はニオ。よろしくねアルヴィ」
「君が助けてくれたのか?」
「そう。あなたに死なれると困るから」
「ありがとう。命の恩人だな」
「それと嫌な夢を見せてごめんなさい。でもあなたも知るべきだと思って。だけどあなたは間違ってないよ、ただ暴れる獣を討っただけ」
確かにあんな夢を見せられたら悪いことをした気がするが、味方する側は人の側だ。だからこそ倒すしかない。
「それは理解してる。あれらは人に仇なす怪物だ」
「よかった。あなたは強いね。それで、私は気に入った?」
そう言いながらくるりと体を一周させ、微笑む。
「気に入る?」
「愛せるかどうかを聞いてるの」
急に何言い出すんだ?まあ、事実を言ってやろう。
「可愛いと思う」
「恥ずかしがらずに良く言うね…まあよかった。これからもあなたと一緒にいることになるから」
自分で聞いといて顔を赤くするとはな。
「どうしてこうなってるのか分からないんだが?」
「説明は難しいけど、私は粗龍の分身で、あなたが死ぬときに私は現れて蘇らせる。ほら、使徒見たいでしょ?それとこの姿は趣味。言ってくれれば好きな見た目になれるから、好みを言ってね?」
彼女がいることで擬似的な不死を得られる。しかも鱗が人の見た目になったってことか、不思議なことを別世界だからで済ませてきたが、今回は特におかしい。鱗が女の子になるなんてな。
「もしかして武器に変わるのもか?」
「そうだよ、私が変身してるの」
「マジか…」
「驚いた?でも使徒も願って臨んだ牙を手にしてる。あなたと同じように願うことでね」
マルシアが元になったであろう蜘蛛には無い毒牙だと言っていた。だからそれは外から付けられたんじゃ無いか?と予想していたが、自分で望んでたとはな。
「そうだったのか。奴らも願って力を手にしている。とすると蜘蛛は獲物を捕らえる力を願った、ならなぜ蝙蝠は飢えることを願ったんだ?」
「窮地に陥ることでいつも以上に暴れたかったんだと思う。怪物の考えはわからないけど」
忠誠心で身を滅ぼしながら戦うとはな、大したやつだな。
「それであなたを殺したあの男、あいつは使徒になりかけてる。まだ牙は手にしてないみたいだけど。どうするかはあなたが決めて?」
「殺す以外無いのか?」
「殺さないの?あなたを殺したのよ?私なら容赦しないけど。それに大事な人を痛めつけられたわけだから許すつもりもない」
感情的に対処するなら始末するしかないが、結果的に言えば痛い目を見たが俺は生きてる。それに彼は力に飲まれていて理性的な判断ができない状態だった。今回は不問にして、味方にする方が目的を達成しやすくなるだろう。
「確かに殺されたわけだが、彼は俺以上に強いわけだ。だから一緒に戦ってもらおうかと」
「余裕あるね」
「いや、余裕がないからこそ強い奴を味方につけたい。強いものはなんでも使うのが俺のやり方だ」
「わかった。じゃあ、みんなにも伝えて?私が何とかしてあげるから」
自信ありげだ、何か考えがあるんだろうか?
「じゃあ、目が覚めたら始めましょ。よいしょっ…」
少女が背伸びして頭に手を当てると、意識が朦朧として眠りに入ってしまう。




