44話 魔の手
「おやおや、やっといらしたか」
迎え入れてくれた若い男が頭を下げる。その奥に老人が椅子に腰掛け、その右隣に鎧を着た男が立つ。
「ボルド…」
「久方振りです。ヴェルフ殿」
ヴェルフと呼ばれた鎧を着た男は無愛想にボルドの握手を無視して、睨みつけられる。
「貴様が…」
「初めまして…」
「…」
敵意のこもった眼光が突き刺さる。
「これこれ、ヴェルフよさぬか」
「此奴に兵を預けるだと?ありえない」
胸ぐらを掴まれ、反射的に腰の拳銃に手が伸びる。
「よしなさい!まだ話も出来ておらぬというに」
「本当に兵を貸すと?こんな故もしれない怪しい男に」
「ヴェルフ殿、この混乱で兵が多く亡くなったことは聞いております。ですが一度心を落ち着けてください」
ボルドが腕を抑えて引き離してくれる。
「アル殿、大丈夫か?」
「絞め殺されると思った…」
「どうしてそんな気が立っておる?何があったのだ?」
「この私が冷静じゃないと?」
ヴェルフは腰の剣を引き抜いて老人に向ける。
「よさぬか!」
「お下がりください」
ボルドが盾を構えて老人をかばう。
「何かに操られてる?」
そう考えた瞬間にルルの声が響く。
「アル殿!」
「まずはお前を殺す!」
という声とともに剣が首をかすめる。間一髪で回避のスキルを発動して避ける。
「どうしてだ!?」
「助けを呼んできます」
助けを呼びにもう一人の若い男が部屋から出て行く。それに気を取られた。
「捕まえたぞ。悪魔の手先!」
右腕を掴まれて、強い力で捻られて剣を腹にあてがわれる。
「まずい…」
自由に動く左手で衝撃波の魔術を使い退ける、が腹から生暖かいものが溢れ出す。
「うっ…」
「いけない!」
ボルドが盾で押さえつけて引き離す。そのタイミングで部屋に別の兵士が入ってきて状況に驚きの声が上がる。
「どういうことです兵士長!」
「アル殿、早く部屋の外に」
立ち上がると、痛みが広がり、足が立たなくなってうずくまってしまう。
「くっ…どうして…」
「逃げないと!」
ルルが肩を抱えて部屋の外に連れ出す。部屋の外にいた若い男がそれに気付いて肩を貸してくれる。
「ああ…そんな」
「早く治療できる場所に!薬はここだったな」
ポーチに入った薬を腕に注射される。その間に傷を確認する。
「腹だけじゃなくて、腕もか…」
腹を切られた後、切り上げるように左腕の脇が切られてる。すごい反射神経だ。それの攻撃は骨まで達していて、腕が宙ぶらりんの状態になっている。
「血が止まらない!」
「黙れ!助けるんだ」
「わかってます!」
増援で走ってきた兵士達が状況に気がついて駆け寄る。
「酷い出血だ。おい早く治療士を呼べ!」
「大丈夫アル殿、助けが来る」
「ダメかもな。血が止まらない。動脈を切られた」
「こんなところで死ぬわけないじゃないか!そんな、ダメ!」
意識が遠のいていく。あの時と同じだ…死ぬ時はあっけなく死ぬのか…
周りの騒がしい声の中、薄れていく意識で一つだけ脳に響くように声が聞こえる。
「諦めないで」
でも聞き覚えがない女の声だ。一体誰の声だ?
目を開けて確認したかったが、もうそんな気力すらない…
「いやぁ、久しいな」
目の前に見覚えのある怖い顔。そしてこの空間、覚えてるぞ。死んだ時に来た場所だ。
「どうして俺はここにいる」
「お前は死んでしまった!と言いたいところだが、まだ死んでおらん。魂は、な!」
「あの世への道でまた捕まったわけか」
「そうだとも。あの鱗は手持ちがもうなくてね、君に渡した分しかない。だから言っただろ?死んだらここからやり直しだって」
「俺以外は使えないんだよな…」
「そうだとも、その鱗を最初に使った者しか使えない。それに救世主が誰でもなれたら嫌じゃないか?」
「いや別に…」
「あれ?本当に?」
「治安維持みたいなことしかしてないしな…」
それに、俺みたいな奴よりもっと強い誰かに渡すべきだとも思うぐらいだ。
「治安維持だと?…まあいい。謙虚ということにしておこう。それでは本題だ。今君は確かに死んでしまった。でも祖龍の分身が君を復活させている。私もここまで手厚い保護があるとは知らなかった」
復活させている?どういう事だろうか。
「どういう事?と考えているな?でも私もわからん。とりあえず君を助けたと思っておくといい。まあ私から言いたいことはだな。今回君を襲ったあの男は使徒になりかけていた。そしてこれは新しく知ったことだが、使徒と成るには時間がいるという事だ。あの男は確かに思考が暴力的になっていたが、完全な不死身にはなっていなかった」
「待て、あんたはどうやって監視してるんだ?」
「ハッハッハッ!それはだね、私の目は見通す力があるんだ、知ってる相手の目に繋ぐという形でね。まあ、面白いことが起きそうな奴に繋いで覗き見てるだけだが」
テレビのチャンネルを変えるみたいな感じか…
「誰がこんなことをしている?」
「うーん、ウロボロスの奴かと思っていたけど、どうやら違う気がしてきたな。人間を変えるなんて真似、奴がするとは思わないんだよ」
「どうしてそう言える?」
「だって奴は人間嫌いだ。いや、人型の生物が嫌いだ。私は大好きだがね、人間。おっと!もうか。まあそんな訳で、また新しいことが分かったらどうにか君に接触してみる。死んで来てくれるとまた会えるがね!それじゃあ、魂をここから逃がしてやる。ほらそこに立つんだ」
「はぁ…」
とりあえず、こいつの感覚は人間のそれとは違う。文句言おうと思ったが無駄だろう。そしてあの時と同じように急かされて魔法陣の上に立つ。




