41話 簡単な仕事
「危なかった…」
ギリギリ縁を掴めた。その縁で弓を構えていた奴の足を引いて、海に引きずり落として上がりこむ。
甲板の上では乗り込んだ船員と敵の船員が剣と剣をぶつけ合い戦っている。そしてエマが船室の扉の前で切り崩されて血を流しているのが見える。
「離せよ!離せ!!」
エマの腕を掴み、腹に剣をあてがう。
「退け」
腕を掴む男の体に体当たりで尻餅を付かせる。
「どこから来やっ!ぐっ…」
頭に一発撃ち込む。起き上がろうとしていたが、そのまま血を流して倒れる。
「船室からまだ来るっす…」
エマが抑えていた扉がドンとぶつかる音が聞こえる。
「わかった。合図で勢いよく開けろ」
扉にぶつかっていた人が飛び出して来る。その空いた扉にガスグレネードを投げ込み、一気にドアを抑え込む。
「エマ撃て」
抜いたリボルバーがランヤードでベルトからぶら下がっている。それを掴ませ、飛び出して来た奴を倒させる。
「やった…」
「助かった」
ガスが充満して、咳き込む声が内側から聞こえ、扉を押す力が弱まる。
近くに落ちていた剣をドアノブに差し込んで閂がわりにして、エマの体を引いて影に逃げ込む。
「意識ははっきりしてるな?落ち着けよ」
「痛い…痛いっ…」
右肩から血が出ている、だが肺には届いてない。まず応急回復剤を腕に刺して止血と鎮痛を促す。
「大丈夫、絶対に助かる。今は落ち着いて呼吸を整えて」
止血剤ガーゼで傷を抑える。
「恐い…死ぬんすか?」
「いや、死なない。心配いらない、必ず生きて帰れる。それに帰ったらお前は英雄だ」
包帯を傷に巻きつける。これですぐ傷が治り始めるはずだ。長く続いた戦争は前線の医療が手早くすむようになってて助かる。まあ、本当はすぐに前線復帰させるためだが。
「そうっすかね?たぶん、怒られるっす…」
「顔色が悪いな。親父さんにビビってるのか?その時は俺も一緒に怒られてやるよ」
代用血液を注射する。これはどんな血液型でも使用できる万能な輸血液だ。これで失った血を補填してくれる。
「ここで待てるか?」
「恐い…」
不安そうな目でこちらを見ている。ただまだ船の上では戦いが続いている。
「すぐ戻る」
「一緒に行くっす」
「動くな、ここで待っててくれ」
「…」
小さく静かに頷き、持っていたサーベルを握る。
「さて…」
どうしようか…とても介入しにくい…
戦場は狭い上に乱闘になっていて、射撃は貫通の危険がある。ただ、こちら側の数は少ないため、かなり押されている。
幸い内側にいた奴らがガスで動けなくなり、船は停止し始めてる。向こうの船からの増援も望める状態だ。
透明化で近付くのは危ない、ふとした瞬間に斬り殺されそうだ。
船室に入って、偉そうなやつを見つけてくるか。
扉の前に何人もうなだれ、奥から咳やくしゃみをする声が聞こえている。
中を進む、船を漕いでいた奴らが外の空気を吸おうとして、オールの刺さる小さな穴に顔を擦り付けて苦しんでいる。
「てめぇ…」
急に起き上がり殴りかかろうとする男を蹴り飛ばし。拳銃の引き金を引く。
「黙ってれば殺さない。お前らも見えるところに手を置いてろ」
なんて言って見たが、ほとんどがもう抵抗する気力を失ってる。中にいた一人が剣に手をかけようとしていたが、視線を向けるとすぐにそれをやめた。
その奥、ローブを着た老齢の男、杖を持ってる。間違いない、こいつが術師だ。人質にするには十分な価値がありそうだ。
「おい、意識はあるみたいだな」
「……誰だ…」
見上げた顔は目は赤く腫れ、嘔吐した後がある。ただ、助けに来たわけじゃない。腕を掴み上げ、拘束して外に向けて歩かせる。
「来い」
「離せ…」
捕えた腕を解こうと体をよじるが、背中を押すと静かになる。
「クソ!さっさと死にやがれ!」
「てめえみてぇな盗賊供にあの船は渡さねえ!」
船の上では互いを罵倒しあい、掴み合い、斬り合う乱戦が続いていた。
「聞け!こいつが降参と言ってる。もう終わりにしろ!」
そう声を上げると、その場にいた全員が注目し、その中にいる賊達が声を上げる。
「何してやがる!」
二人に斬りかかられそうになるが、取り押さえた男を向けると攻撃が止まる。
「さっさと剣を下ろせ。こいつが死ぬぞ」
「てめぇ。俺ら相手に人質か?舐めてんのか!!」
「そうか」
男の足にナイフを突き刺す。すると、刺された男は泣きながらこちらに命乞いをし始める。
「もうよしてくれ、降参だ!みんな剣を捨てるんだ」
「聞いたな?抵抗したら、次はこいつの耳を斬り落としてやる」
「クソ…」
敵八人、全員が剣を下ろす。
「あんたも来てたのか!よしお前ら、捕まえちまうぞ。それとそいつはうちの船に連れていってくれ」
「すまんがこいつの面倒はそっちで見てくれ。エマが怪我してる」
「なんだって!?あいつは無事なのか?」
「ああ、あそこに隠れてる」
「エマ動けるか?」
「大丈夫…」
顔色はまだ失血のせいで悪い、背負って船に戻ろう。
「動かすぞ」
「自分で動けるっす」
強がって自分の足で立ち上がろうとするが、ふらついて壁に捕まる。
「無理しなくていい」
エマを背負って動き出す。船員達は拘束されてうつむいていた。
「船室にも何人も倒れてる。そいつらはどうする?」
「いや、ほっとけ。船長以外は海に捨てときゃいい」
一人が背中を蹴り、拘束された船員が海に突き落とされた。
うつむいていたのはそれを察したからかだろうか。残酷だが、自分達も同じ立場ならそうなっていた。仕方のないことだろう…
エマを連れて先に戻ろう、あまり見ていたい光景でもない。
「この馬鹿野郎が!!」
「ごめんなさい…」
ドールグがエマを抱きかかえる。
「あんた、ありがとうな。うちの馬鹿を助けてくれて」
「ああ、無事でよかった。治療師がいたよな、そいつに早く見てもらったほうがいい」
「そうだ。ほら行くぞ!」
「待って。あの…兄貴、かっこよかったっす」
エマに腕を掴まれる。
「そりゃよかった。ほら、もう休みな」
握手すると、穏やかな顔で運ばれていった。
「全く、アル殿は危なっかしくて堪らない」
「無事でよかったではありませんか。それにそんな柔な方ではないと知っています」
「心配かけてすまなかった」
「もう…」
ルルは不満そうだ。ボルドとグラントは喜んでいる。
「それで、もう一つの船はどうなってる?」
「離れて行きました。状況を見て逃げたんでしょうか?」
しつこく来られたら面倒だったが、思ったより諦めが早かった。もしかしたら偵察だったのかもしれないな…
「なぜ追って来ない?…」
「損失に見合わないと思ったのかもしれませんね」
国宝より船員の命を優先するならこんな切り捨てるような真似するんだろうか?連れて来られた奴らに話してもらおう。




