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40話 不吉の予兆

船室に戻るとルルが撮影した鯨の写真を見て唸っていた。

「その鯨も随分凶暴そうな顔してるな」

「確かに、このヌラヌラした肌に似合わない凶暴そうな顔つきだ。アル殿は見たことがあるか?」

「いや、本でしか見たことないな」

「私は魚の神がいると聞いたことがあったぐらいだ。ただ、あれは魚じゃないと聞いたときは驚いたぞ」

「ああ、たしかこっちは鯨や鮫は魚竜という区別だったよな」

レームに見せてもらった本のデータを見返してみる。

海竜(シーサーペント)や海鰐みたいな肉食の生物、セイレーンやマーメイド見たいな魔物も存在する。

セイレーンは音による魔法で幻惑を見せて美しい姿を保つが、音が途切れると半魚人のような顔を持つ魔物が現れるみたいだ。後はクラーケンやリヴァイアサンのような大型の怪物に対抗するために、大銅鑼や大砲を船に乗せるなんてことも書いてある。

「安全な航海なんてあったもんじゃなさそうだ、あのエイブラハム卿の危機管理能力には感心だ」

「まあ、保守的な方なので」

高圧的な態度だったが立場はしっかり理解してる人物のようだ。じゃないと重役には就けないだろうしな。

「この船に乗るべきじゃない人物なのは間違い無いな」

焦った様子のエマがドアを勢い良く開ける。

「みんな!来るっす!!」


「あれっす!」

指差す先は空が黒く覆われている。小さな飛び回るものが集まり、船と同じ方向に向かっているようだ。きっと吹いている風に乗っているんだろう。

「飛蝗?…」

「冷静っすね!やばいってのに!」

「でも海を越えるなんて聞いたことないぞ」

「そうっすよ!しかも突然現れたんすよ!船長も見たっすよね!」

「おうよ…こんなことみたことがねぇぜ」

船にいる皆が空を見上げて驚きの顔を浮かべている。

「何が起きてる?…」

龍の鱗、印が熱を持ち光を放ち始める。ただその光が外に漏れると群れが避けるように動き、姿が忽然と闇に消えてしまう。

「印が光ってた。龍の使徒が近くにいる」

「もしかしてあの群れが?…」

「おい!あっちを見ろ!」

別の船が三隻近づいてきている。ヘルメットのズーム機能で対象を見る。

「黒い旗、白い翼に雷の印だ」

「やっぱり来やがった、お前ら!配置につけ!!」

その中の一隻が急激に速度をあげてまっすぐ直進を始めている。このままだと船の右側にぶつかる。

「突っ込んで来るぞ!」

「面舵いっぱい!!!」

ドールグの号令で船が右舷を切る。まだ回避できるはずだ。照明弾を擲弾銃に込めて空に向けて撃つ。近づく船が鮮明に見える。向こうの船は大砲もない、衝角があるだけの船、いわゆるガレー船だ。


「回避が間に合った。側面を見せるぞ」

ドンと音が連続で響く。自船の大砲は数発海に落ちたが命中した弾もあった。距離的に一番近くなるタイミングだったから、次からが補正が必要な距離になるがまた加速し始める、これじゃ当たらない。

向こうは魔術師が乗ってる。多分だが、漕いでる奴らを強化する魔術を使って船を加速させてる。じゃないと陸から遠い遠洋まで出てこれないはずだ。乗ってるのはきっと奴隷だろう。

「このまま逃げるぞ!!」

ドールグはこの船を逃げさせたいようだ。もう一度右に舵を切らせて、背中を向けて逃げようとしている。ただ次は左後方から向こうの船が突っ込もうとして来るはずだ。

「魔術師をどうにかしないとな…」

無反動砲を取り出して、狙いをつける。動き回るとはいえ大きい的、狙いやすい。

周囲に人がいない場所かつ、バックブラストが反射しない場所で構える。弾頭はHEDP、内側にダメージを与えるためだ。残酷だが、仲間の命は助けなければいけない。

移動目標は300mぐらいなら当てられる。ただ確実に当てるために200m圏内に入れてから撃とう。

「来る…」

肩に砲を乗せる。

安全装置を外して射撃する。

船首右側面に命中したことを確認する。そして向こうの船の速度が下がり始めてる。

「すごい音がしたっす!やったんすか?」

「もう一隻の方が来てる!」

喜ぶエマとは別に焦る船員の声が響く。

「何か飛んで来る」

それとほぼ同時に喫水の下がり始めている船から黒い影が放物線を描いて飛来する。

ドンと船の甲板に降り立ったのは上半身に多量の強化刻印が施された、肥満体型の男。その手には突起のついた金棒を持っている。

「フシュゥウウ…」

操縦士を叩き潰し、周りを見渡して、ドールグめがけて金棒を振り下ろさんとする。

「させん!」

ボルドが割って入り、盾で受ける。その一撃で足が甲板にめり込んでいる。

ルルが弓を引き、他の船員たちも一斉に斬りかかる。

「あたしも!」

「ダメだ」

エマも行こうとするが肩を引いて止める。

「危険だ。ここで待っててくれ。グラント行けるか?」

「お任せ下さい」

あの巨体だ、蜘蛛の牙で突き刺して動きを止めてやろう。

グラントと共に駆け寄り、船員との斬り合いで油断している敵の太ももに牙を突き立てる。

「フン!」

一瞬にして痺れが回り動けなくなった相手の腹めがけてグラントの拳が突き刺さり、敵は痙攣して倒れる。

「突き落としちまえ!」

倒れた敵を皆が転がして海に捨てる。

「クソガァ!お前ら掴まれ!!!!」

ただ喜びもつかの間、舵取りが襲撃で倒れてしまい、迫る船からの突進に避けきれないと判断したドールグは大声で掴まれと促す。

強い衝撃でグラリと船が転覆しそうなほど傾く。

「戻れ!!このクソ船ェ!!」

ドールグが渾身の力で舵を切り船を元の位置に戻す。その揺れで尻餅を着いてしまう。突っ込まれた船首が引き抜け、向こうの船が側面を向ける。

「矢が来る!」

側面に付いた敵の船の甲板には数十人が矢を構えて、体制を立て直そうとする自分達を狙う。

「くっ!」

グラントをかばい、矢避けの風で矢を弾き飛ばす。

ボルドが盾で他の皆を守っているを確認したが、退避が遅れた何人かが倒れる。

再度、矢をつがえる姿が見える。

「攻撃が来やがる!」

「この野郎!!」

隠れていたエマが飛び出して向こうの船に飛び乗り、それに乗じて他の船員達も飛び出す。

「馬鹿供が!!!!」

船長の怒号は届かず、向こうの船が離れていく。

「俺も行く!」

「危険だ!アル殿!!」

「信じろ!」


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