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39話 船上

「なんでぇ…」

ポーカー一戦目はエマが負けた。その手札は一つも役がないし、低い価値のカードばかりだ。

「ついてないな。まあ次だ」


「わーん、なんでぇ…」

二戦目も大敗して、涙目になり机に顔を伏せている。

「ほらな?お前とことん運がないんだよな。というか、この船で賭けが無しになったのはお前が一文無しになって暴れたからなんだぜ!」

「しかも、その自慢のサーベルを売ろうとしてたしな」

「うるさいっす!!インチキするみんなが悪いんすよ!!!」

「してねぇよ。というかお前が配ってんのにできるわけがねえよ」

「絶対おかしいっす!アルヴィの兄貴もカスばっか来てるっすよね?」

「いや。ツーペアだ」

「……」

「私も見ていましたが、エマ殿は揃いそうな役を自ら捨てて冒険しているように見えました。もう少し安定した選択を取るべきかと」

エマの隣に座っていたボルドが言う。

「だって…揃えたらかっこいいじゃないっすか!」

「揃いそうな時にしろよ…」

「でも一回勝ったっす!勝ったっすもん!!」

「ならもう一回やって決めようぜ!」


あれから日が暮れるまで時間が経った。船の上はみなが酒も入って大盛り上がりで騒がしく、シラフの俺には少々辛い場所になって来た。

今はロマンチックに言えば月を眺めているというところだが、実際はまあ特に何も考えてない。

そうだな…月といえば、俺がいた場所と違ってこっちの月は位置が遠い、そのせいか夜も少し暗い。道すがら街灯が無い世界じゃ、夜を照らすのは月だけだ。でも迷惑だと思いたいが、その代わりに赤く輝く星がある。それは英雄の心臓と言われる星、ヘロースと呼ばれる神の心臓だそうだ。この神は戦士の多くに信仰される神、六いる大神の一人。その神は武器を齎して、人々に戦いを与えたと言う言い伝えがあるらしい。

まあ、レームの本で読んだ内容なんだが、全ての人の行いは神に与えられたということが書かれていた。

空気と再生の神エア、水と生命の神アクアヴィテ、土地と豊穣の神テラが最初に生まれてそのあとに別の神々が生まれ、その後信仰する人々が生まれたと。

炎と戦の神イグニス、感情の神アフェクトゥス、闇夜の神テネブラエその三人を合わせて六つの神だそうだ。

そのイグニスって神が人間になった姿がヘロースらしい。

まあ、俺の知ってる神話にもそんな神がいた気がするほどありがちな神話だ。でもそうじゃないのが存在していた証拠があるところだ。全ての神の生きていた証が今もこの世界にあり、その神の証は大きな街なら一つは絶対置いてある。もちろんブレードックにもある、そしてそれが無いと街は発展しないと。

なんで急にそんなことを考えてるかっていうと、なんとこの船はそのぐらいの高い価値を持つ品を運んでるからだ。

聞かされた時は驚いたが、船長が俺たちを信用してくれた上で話してくれた。船員は乗せないほうがいいと言っていたそうだが、ドールグの一声で決まったと皆が言っていた。今は信用してくれてるみたいで、俺も何かあった時は一緒に戦うと誓った。


「注意を怠らないのですね」

グラントに暖かいコーヒーを渡される。

「ありがとう、賭けで手に入れたやつか?」

結局あの勝負はグラントのほぼ一人勝ちだった。運がいいというのだろうか、それとも読みがうまいのか。勝負強さは一番だった。

「そうです。それで早速入れてみました。大変良い香りですよ」

「コーヒーがいいのかどうかは俺にはあんまりわからないけどな」

「ふむ。失礼にあたるかもしれませんが、アルヴィ様はなぜその仮面をお着けになられているのですか?」

「さあ?顔を隠したいのもあるかもな」

「やはり斥候という仕事柄ですかね?」

「ああ。顔が割れると狙われるかもしれないし、俺じゃ無い人を狙って脅してきたりってこともある」

「そうでしたか…」

「でもグラントも経験ありそうだがな?」

絶対決闘を挑まれたことがあるはずだ、街中で闘士が戦っているところを何度も見たことがある。ああいったのは、名のある闘士を倒して名を上げる、それは成り上がる方法でもあるしな。

「確かによくありました。ですがそれはいずれ命の奪い合いに発展することもありました、それが私をより消耗させたんです」

「ならなぜ拳闘士になったんだ?」

「私の家系は没落した貴族、新しい王政になり、敵対した家というのはその立ち位置から引きずり下ろされる。その結果路頭に迷い、汚い殴り合いで日銭を稼ぐようになったのです。ですがとある方に打ちのめされ、拾われてから道を正すことが叶いました」

「どんな人なんだ?」

「拳の道を極めんとされるお方、カブダ様です」

「…聞いたことないな」

「ええ。あまり表に立たれる方ではないですから。ですが、勇者様に戦いを教えたと聞いています」

「相当強いみたいだな」

「一打ちで大鬼が悶絶してしまうほどの技術をお持ちのお方、それを聞きつけてのことなんでしょう」

「内臓が飛び出るってのもその人の技術なのか」

「確かにそうですが、臓腑抜きというのも私にとっては不名誉な呼び名です、強くなった気になって自慢しようとして失敗しただけなんですから。まあ…そんな話です。そんなことより、私はあなたのことが聞いてみたいですね。なぜ斥候に?」

「俺か?ああ…。俺が兵士になったのは徴兵だよ。それまでは爺さんと一緒に狩りをやってた。獲物を追いかけて、どこにいるか見つけ出す。それをやってきたおかげで斥候を任されるようになった。そのぐらいだ」

「徴兵ですか。よほど緊張した情勢だったのですね…」

「そうだな、もう二十年は戦争が続いてたからな。確かにおかしくなってた、もうどうしようもなくなってた」

「戦争というものはどこにでも起こるもの。そう納得するのは目を逸らしているだけなのかもしれませんね」

「全くその通り。もうお手上げだよ」

「難しい話をしてるっすね。うぇ、苦っ」

エマが俺の手にあったコーヒーを攫って飲んで、苦かったのか舌をだしている。

「どうした?」

「いや〜男二人何話してるんすかねって気になったんすよ。すげぇ真面目な話しててびっくりっす。あっそうだ、船長から伝言っすよ。夜番はこっちがやるから休んでてくれって」

「そうか。じゃあ、一休みしようか」

「ええ、そうしましょう」

「それじゃあ、あたしも一緒に…」

「船長に殴られたくなきゃ、見張りをするんだな!」

船室から出てきた船員の男に肩を掴まれて連れて行かれる。どうやら船首に立たされるみたいだ。



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