03話 幸先の悪いスタート
バン!と乾いた炸裂音が、夜の森に響き、目の前の大柄な男は崩れ落ちる。
ウェブリー・リボルバーMkⅣから放たれた弾丸は相手の胴体をチェストプレートごと撃ち抜いている。うめき声をあげながらうずくまっているが、もう助からないだろう。
「な、何をしやがった!」
「武器を捨てて手を上げろ!!」
「こ、このクソアンデットが!!ぶっ殺してやる!!!!」
ナイフを抜いて迫ってくる鎖帷子を着ている男の体に狙いをつけ、一発撃ち込む。銃声のあと、走った勢いのまま倒れる。
「クソ、魔法を使ってるのか!?なにしやがった!バケモノ!」
「お前は武器を捨ててくれるよな?」
「わ、わかった、わかった。武器を捨てる!」
「そうだ、そのまま手を頭の上に置け、そっちに行く」
革コートの男は、指示通りに剣を捨てて、頭に手を置いている。武器を向けたまま近づき、うつ伏せに寝かせ、足と腕を結束バンドで拘束する。
「おい、俺をどうするつもりだ!」
「お前達に話を聞こうと思ったのが馬鹿だった。あの老人はなんだ?」
空いた扉から見えた小屋の中には、白髪の老人が酷く疲れた様子で柱に縛り付けられている。
「違うんだ!た…」「この小屋に勝手に上がり込んで、持ち主の老人を殴って縛り付けた、違うか?」
「い、いや…クソ、あのギルドの連中が俺達との契約を切りやがったからだ!仕方なくこんな…盗賊みたいな真似をしてんだよ!」
「お前の事情はどうであれ、あの老人は衰弱している、病院に連れて行くべきだ。場所ぐらいは知っているな?案内してもらうぞ」
「なあ、あんたはアンデットだろ?なんで人を助けたりするんだよ?」
「何度も言ってるだろ。俺はアンデットじゃない」
小屋に入り、柱のロープを切る。老人は息はしていたが、身体中何度も暴行されたんだろう、外傷が酷く、意識も朦朧としている。
「おい!聞こえるか?」
「ウッ…グッ…た…たす…け」
「大丈夫だ、あんたは助ける。意識をしっかり持て、辛抱しろよ」
腰のポーチから応急治療用の皮下注射剤を取り出し、老人の腕に刺す。
「この薬なら痛みを和らげてくれる。悪いが俺は衛生兵じゃないんだ、ちゃんとした治療は病院に着くまで我慢してくれ」
「おお…ありがとう、見知らぬ方…へんな格好だが優しい人のようだ。ああ、よかった……」
「よし、ちゃんと掴まってろ」
老人を背負って、小屋を出る、筋肉質な腕だったからなんとなくわかったが結構重たい…
「おい、どこ行くんだ?芋虫さん?」
とらえた盗賊が芋虫のように動いて逃げようとしていた。
「クッ、逃げようってわけじゃねえんだ!わかってくれよぉ…」
老人を降ろし、ナイフを抜いて近づく。
「まっ、待って!殺さないでくれ!」
足の拘束を切り、肩を引いて立たせる。
「殺さない、お前には街まで案内してもらう。そこで、憲兵に突き出すからな」
「わっ、わかった!連れて行くから、ナイフを背中に押し当てないでくれよ!」
はあ…先が思いやられるな… それに頭の理解がまだ追いついていない。
ただ、今やるべきは怪我した老人を背負い、盗賊の尻を叩きながらこの暗い森を抜けて街に向かうことだろう。