34話 答え合わせ
「このあたりだな」
壁の積み石が内側から押されて崩れ、膨らんでいる。
「壁が膨らんでるぞ」
「こんなことになってたか?」
「いや、違ったと思う…」
学者たちが顔を見合わせている。やはり昔からこうだったわけじゃなさそうだ。
「なあ、甘い匂いがしないか?」
ルルが壁に近づきその違和感のある匂いに気がつく、そこにいた者たちが壁に近づくと同じ感想を持ったようだ。
自分もマスクのせいで鈍感になってるが微かに甘い匂いを感じた。でも菓子を焼いたような甘い匂いではなく、不快感のある溶剤みたいな匂いだ。
「腸虫の食べカスか?」
「いや、その匂いではないと思います…」
「ゴホッ、ゴホッ。なんだ?…気分が悪くなってきた」
ルーカスが頭を抑えて、壁にもたれかかる。
「あまり嗅がない方がいいかも。毒物かもしれないから」
「大丈夫か?通風口に行こう」
肩を貸し運び出す。どうやらクリフも気分が悪くなったようで、ジールに担がれていた。
「僕、報告に行ってきます!」
アンドレアスは慌てた様子で走って行ってしまう。
通風口に降ろして、状況を確認する。あの臭気に当てられた二名が強い頭痛と動悸を感じて動けなくなった。
マスクがある自分は大丈夫だったとしてもルルや他の奴らはなぜ問題ないんだ?…
「何か魔術を使われたか?…」
「そうじゃ!よく分かったのぉ。関心、関心」
頷きながらレームが戻ってくる。
「レーム気づいていたのか?」
「うむ。じゃが匂いの原因は魔術ではないぞ」
「どういうことだ?」
「これは木の根が焦げた匂いじゃ。ギガイヤの根の匂いに似ておる」
「強心薬に使われてる根ね。私の村でも使われていた」
「ルルよ。その根を見たことがあるか?」
「確か握りこぶしほどの大きさで、芋みたいに浅いところに実るはず」
「そういうことじゃ。これはおかしい、こんな深いとこまで生えるわけない。ならなぜじゃ?」
「魔術で何かを捻じ曲げた?」
「多分そうじゃ。それも物に物を混ぜる錬金術のような」
「何かをギガイヤの根に変えて、その上で焦がした?」
だとしたら意味がわからないな。見つけた奴を痛めつけるためか?…
「うむ、おかしいじゃろ?そしてこれも推測なんじゃが、焦がす。それに意味があるはず。ん?何じゃ!?」
突然、地面が突き上げるように大きく揺れる。
地上の様子を見ようとするが、ドローンの信号が途絶えている。
「地上でなにか起きたな」
「戻ったほうがいい…」
クリフが指差す先の積み石が崩れ始めている。
「生き埋めは勘弁だ」
「そうじゃな。お主ら走るぞ!」
動けない者たちを担いで入り口に向けて走る、そして出口に差し掛かると外から助けを呼ぶ叫び声が響く。
「なんだあれは?…」
外には朝にはなかったものがそびえ立ち蠢いていた。
その大きさはビルの様で、六つに裂けた口の様に開く花弁から悪臭を放つ液体を滴らせている。
そして触手の様に蠢いてる大木の腕に人が絡め取られ
『助けてくれ!助けてっ…!』
そう叫ぶ人をその触手の先端が飲み込んでいく。
「ならん!」
レームが飛び出し空を駆けながら火を放つ、だがその触手は炎を払いのけ、捕らえようと腕を伸ばす。
「効かぬか!じゃが…のろまには捕らえられんよ!」
空中でひらりと躱し、学者を捕らえ飲み込んでいる触手を炎で斬りはらい救い出す。
「見てやってくれ!」
レームがこちらに下ろした学者は涙を流し、飲まれていた腕を抑えている。
「ああ!痛い!!!」
「見せてくれ」
服が張り付き溶けた腕に、その指は皮膚が焼かれ骨が覗いている。相当な痛みだろう。
「落ち着け」
注射剤を刺して痛みを和らげさせる。この怪我に回復剤の意味はなさそうだが、痛みを殺せるだけでもましだろう。
一呼吸置いたあと痛みが引き、ルーカスとルルに持ち上げられ運ばれていく。
「アル殿、こっちは私に任せて。レーム殿を!」
ルルや他の学者たちが離れて行くのを見届け、レームの手助けに向かう。
「ぬぅ…よく動く腕じゃのぉ」
レームが触手に払いのけられて地面に落とされている。
「大丈夫か?」
「なんという怪力。これでは近づけん」
クソ。唐突なせいで準備が全くできていない。あいつが何なのかすらこっちは分かってないんだ。このまま戦うのは危険だぞ…
「このまま戦うのか?」
「あやつらを見捨てるのは酷じゃろう?」
今捕まえられてる奴らの中には必死に抵抗しているやつもいる。こちらの安全のために見捨てるのは駄目だ。
「分かった。ならレーム、弱点はどこだ?」
「多分あの雌しべじゃ。でもあそこに行くのはわしでは無理じゃ」
こちらに向けて触手が跳ねながら襲いかかってくる。
「なら俺が撃つ。注意を引いてくれ」
「うむ。それでいくぞ!」
だがあの大きさだ、ライフルの弾一発程度で効くか分からない。でも絡めとられた奴らを助けるには隙が必要だ。こういう時はレミントンMSRが信頼できる。持ってる中では一番大きい弾を撃てるし、精密だ。でももっと威力が欲しいな…何かあったか?…
「エンチャント…そうだ…」
衝撃波。その魔術を弾に使って撃てばもっと威力が出るか?…試してみる価値はある。やってみよう。
「フゥ…」
転がる瓦礫に銃を固定しスコープを覗き込んで息を整える。
レームが飛び回り、触手の注意を引いてくれている。あとは俺が撃つだけ。
衝撃波の魔術書に書かれていた内容を思い出す。
『風を放つのではなく、石を投げる様に気を放つ』
魔術書は長々と書かれた説明書だった。でも大事なことは何度も書かれていたことだ。
気を放つ。スキルを初めて使った時と同じだ。意識しろ、レームが見せてくれたあの技を。それを銃弾に込めればいい。
もう一度深く息を吐いて引き金を引く。
強い衝撃を体に感じ、後ろに押される。
銃声が響き、放った弾丸は身を守ろうとした触手を押しのけて、その雌しべに向けてドンと手榴弾が炸裂した様な音を鳴らして衝撃を放つ。
その巨体は大きくよろめき、頭の上に下げていた実を振り落としながらうなだれている。
「今だ!」
「よくやった!!」
レームや隙を狙っていた学者たちが絡められた奴らを救い出す。
安心して力が抜け、体が動かなくなる。スキルを使った時と同じだ…
「いい機転じゃったぞ!感心、感心」
「ああ、うまくいった」
「すごいじゃないかアル殿!新しいスキルを編み出すなんて!」
そのあともルルやレームに褒められた。どうやら俺がやった事は弓取りの大男というのが使っていた鳴らし撃ちというスキルに似ているそうだ。でもスキルと認められるにはもっと使い慣れる必要がある。まあとりあえず救出作戦は成功した、それでいいだろう。




