30話 成果報告
「ああ…だいぶ寝てたな」
時計を見ると時刻は昼過ぎだ、きっと昨日の昼からずっと寝てたんだろうな。一応の身支度をして下の階に降りると、もうルルは起きていたらしく店番をさせられていた。
「店番か?」
「そう。あの方は仕入れに行くとかでな。そうだアル殿、お客が来ていたぞ、名をレームと言っていたな」
「ああ、これから行くつもりだった」
「そうなのか。何をしに行くんだ?」
「前見つけた石を調べてもらうんだよ」
「なぜだ?」
「これは珍しい呪いがかけられてるらしくてな、そんで学者たちにとってはいい研究材料というわけだ。それに加工してもらえばお守りに変わるからな、どんな結果になるのか俺も楽しみだ」
今日の朝、いや昼はライ麦パンだな…えーっとジャムはどこにあったかな?…
「そうなのか。お守りか… 少々怪しげだな。ジャムはここにあるぞ」
「ああ、ありがとう。でもそのお守りは教会から貰えるお守りよりも目に見えた効果があるぞ」
「だから呪いなんだ」
「別にいいさ」
やっぱり美味いな…携帯しておこうかな…
「全く…」
「じゃあ行って来る」
二人に手を振って家を出る。ルルはついて行くと言っていたがレイレイが用があるらしくそっちにいった。
「いつもと変わらず人通りの多いことで…」
交通ルールが曖昧なせいで道の真ん中で突然止まった馬車の御者に殴りかかる通行人とそれを見世物にして楽しむ人だかりが今日もある。偶にこの人だかりにキレた奴が来て大乱闘になることもある。どれもこれもこの寒さのせいで酔っ払いが多いせいだが。
「さあ、いつ来るかな…」
俺がこのくだらない喧嘩を眺めて居る理由は、そう。この騒ぎを聞きつけてスリに来るストリートチルドレンがいるからだ。
ほら来た。オヤジの肩に下げたバックに手を入れている。今回は四人組か…
わざとやってるんじゃないかってぐらい、いつも見る光景だった。
今回のオヤジは気づいたみたいで逃げる子供達を追いかけて行った。後は衛兵が来てなんとかしてくれるだろう。
そんな見物をしていたら突然声をかけられる。その声の主は顔色の悪い見知らぬ痩身の男だった。
「あんた、あんただな!」
そう言って強い力で肩を掴まれる。
「おい!まあ落ち着けよ!俺が何かしたか!?」
「いや!あ、悪い」
「どうしたんだよ?」
「あなたが私の妻を救ってくれたって聞いて、名前すら名乗らなかったって、それで」
「待て。何のことだ?」
「ドルド。あいつから救ってくれただろ?」
ドルド、あの馬鹿力の首絞め男か…
「ああ…そういうことか。そっちはその…元気か?」
「まあ…ぼちぼちかな… こっちは商売もうまくいかなくてな」
そう言った男はあまり覇気のない声だった。商売か…たぶん行商人だったんだろうな。でもあの件のせいでここで休んでるんだろう。
「そうか…その…お前の方も元気がなさそうだ、ちゃんと休めよ」
「そうだな… あの、名前を教えてくれないか?俺はレナルドだ、妻の名はアーサ」
「アルヴィだ。その、別に助けた礼はいらない」
「そういうわけには… あの…本当に嬉しかった。妻が帰って来てくれて。だから何かできないか?」
「じゃあ仕事を始めたら教えてくれ。俺は魔女の薬屋にいるから。その時はまけてくれよ?」
「そうか、もちろんだ。何とか頑張るよ」
こうして正規の品を安く買える店を予約した。行商人だから出先でも会うことがあるかもな。そしてレナルドと別れて学院に向かう。
一人でここの生徒でもないのに入り込むのは気まずいな…
「あなた。変わらず小汚いですね」
入り口でまたあの巻き髪のばあさんだ。コートを摘まれて匂いを嗅がれた後、ブツブツと文句を言いながら香水を振り撒かれる。
「もういいだろ?」
「とてもよしとは言えません!しっかりとのりの効いた服を着なさい!」
「持ってない…」
「なら買いなさい!あなた。龍の使徒を倒したのでしょう?ならいい服の一つぐらい買えるでしょう!」
「ああ…」
「全く。今回は大目に見てあげますから。さあ、おいきなさい」
マルシアの研究室の扉をノックする。
「マルシアいるか?」
いるよ!と言う声と中からドタドタと言う音が聞こえる。
「やあ!戻って来たんだね!」
「レームは授業中らしくてな。こっちに来た」
「それで!何を見たのかな!?」
両腕を掴まれて研究室に入れられる。
「まあ、ちょっと落ち着いてくれ」
「いや!この歳になってもこんなに好奇心が残ってたなんて僕自身驚いているんだ!」
勢いよく言われて、言い返せなくなる。
「そうか…」
「で!何を見つけたの?」
「これだ」
「なんと!こんな不気味な宝石…」
「これを持ってたのは巨大化した下級吸血鬼だった」
「そうなんだ…前の吸血鬼狩りのせいかもね」
「多分な」
「それでこの宝石は触ると危ないんだよね?」
「ああ。それは魔力を吸い取る。干からびるまでな」
「そうなんだ…」
勢いよく扉が開いてレームが部屋に入る。
「おお!戻ったか!」
「やあレーム!ちょうどいいところに来た!」
「それが今回の物かの?これは見ただけでわかるわい。こんな呪いの品、触っただけで寿命が縮みそうじゃ」
その後村で起きていたことを一から話し、二人は満足した様子だった。あの宝石はよく調べてもらうために引き渡す。
「そうじゃ。忘れとったが、魔術を教えてやる約束じゃったな」
「そうだったな。そろそろ俺も魔術ってのが使ってみたいな」
「ヌフフッ、お主。まあ待っておれ」
走って行ってしまった。マルシアは苦笑いしているように見える。
「大変だよ…魔術を覚えるのは…」
「ん?」
「よし、これじゃぞ!」
ドンと音が鳴るぐらい分厚い本を大量に積まれる。
「これは…」
「さあ。お主にも覚えられそうな簡単な魔術書じゃ!」
「嘘だろ?…」
渡された本は俺の知らない言語で書かれていた。
「これはどこの言語だ?」
「これは古い時代の言葉で記されているんじゃ。簡単な魔術書と言うのは翻訳が進んでいない物なんじゃ、だから覚えるのも簡単じゃぞ!」
翻訳されたメモは文庫本ぐらいの分厚さがあった。これを覚えるのか…
「簡…単?…」
「そうじゃ。その本に記されとるのは衝撃波の術、空気の塊を放って人と同じ大きさぐらいの物なら吹き飛ばしてしまう魔術じゃ。これは風属性の魔術の基礎になっとるもの、覚えて損はないぞ」
「応用編の風魔術ってのはどんなやつがあるんだ?」
「例えば雷の術なんかもあるが、お主は風以外の属性があまり優れんかったからのぉ…」
「風属性だけじゃダメなのか?」
「ああ、水の力も同じぐらいなければ強い術にはならんのじゃ。お主が使えるのは麻痺させるぐらいのものになるのぉ…」
そう言うことか… 魔術ってのはどうも元々持ってる属性に左右されるらしい。そう考えるとルルは色んな属性の魔術を使っていた。他にも使えると言っていたし、相当努力したんだろうな。
「じゃがお主には使えるかの?」
「ああ。動きを止めれるなら便利だな」
「そうじゃな。お主の戦い方には使える術が多い、一つずつ学んでいくんじゃ。さあ、まずはこれじゃ!」
「よし…」
数時間経って中盤に差し掛かったぐらいまで読み進めた。内容はスキル書の様な内容らしいが、歯抜けの本を読むのはどうにももどかしいし、頭に入ってこない。そんで今は休憩中と言うわけだ。
「翻訳ってのはどうやってやってるんだ?」
「古い地下遺跡で見つかるエピタフに書かれた文字を解読するんじゃ。でも中には魔物がうようよいる。それで研究者の代わりに中を探索して墓石やら遺物を見つける、もちろん宝もな。これが冒険者と呼ばれる仕事の始まりでもあるんじゃぞ」
「へぇ。冒険者って言われるのに違和感があったが、そう言うことか」
「この辺りにも一つ遺跡がある。興味があったら行ってみるといいぞ」
「少し興味があるな。遺跡か…」
「最近は遺跡探索をやってくれる連中も少なくなって来ていてな」
「儲からないからか?」
「探索が済んだの遺跡は得がないからのぉ。中に住む魔物を倒しても報酬も出ないし旨味がないんじゃ」
「新しい道を見つけないと儲けが出ない。そしてそんな面倒なことをしたくないと」
でもドローンを使えば、地形スキャンができるから、隠された道が見つかるかもな…
「どうしたんじゃ?そんな不敵な顔をして。そんな簡単にはいかんからな!ほら!続きじゃ!」
「イエス、サー」
「もう夜じゃないか…」
窓から見える月は一番高い位置まで来ていた。深夜に入った所だろうか。
レームはクレアの婆さんに小言を言われるからと言って先に帰ってしまった。
「さっさと本を返して帰ろう…」
別棟にある図書室に向かうその道中は妙な緊張感を感じた。喧騒を感じたこの大きな建物に誰も居ないと、なぜこうも不気味に思うんだろうか。階段を登る時の不快な空気感は、不快な緊張感だった、鳥肌が立つというやつだ。
実際に幽霊という存在はいるらしい。レイスだとかウィスプだとかの亡霊や、スケルトンやゾンビみたいな肉体が残ってる奴もいる。
こっちには死体をゾンビにして操る奴もいるようだし、この学校にもそれを教えてる人もいる。
まあ、俺の知ってる常識はもう通用しないってことだな。
図書室に到着する。
「まだ誰かいるのか?…」
その図書室の扉からは明かりが漏れていた。警戒しながらドアノブに手をかけて、扉をゆっくりと開く。
中には椅子に座り机に置いた本を真剣に読んでいたイザベラがこちらに気づいて驚いている。
「どうして!?」
「驚かせてすまない。本を返しに来た」
「そう!びっくりしたわ。突然現れるんだから」
「熱心だな」
「ええ、魔石のことが書かれた研究書を読んでたの。あなたは?」
「魔術書を読んでた。かなり手こずってな、こんな遅くなってた」
「大変よね。みんな初めて読む魔術書は頭をかかえるもの」
イザベラは伸びをして本を閉じてゆっくりと立ち上がる。
「もう遅いのね。帰りましょ?」
「そうしよう」
本を仕舞って図書室を後にし、また不気味な廊下を歩く。
「ねえ。あなたは夜ご飯は食べた?」
「まだ食べてないな。一緒に行こうか」
「ええ!」
まだ明るい街を歩き、この遅い時間なのにまだ賑わう酒屋に入る。
「案外人が多いな」
「あまり目を合わさないほうがいいわ。もう出来上がってるもの。あなたは飲む?」
「ああ。飲む」
ワインを注文して二人で乾杯する。
「おしゃれだな。ワインなんて久々に飲んだ」
「フフッ、私も少しカッコつけただけ」
「ハハッ。そう言うことね」
ワインの味がわかるほど上品じゃないが、美味しい。でも二人とも結局エールを頼んでしまう。
「やっぱりこっちね」
「ああ。ここは庶民的な雰囲気だしな」
周りを見ると赤ら顔の奴らが笑いながら宴会を楽しんいたり、あっちじゃテーブルで眠った奴を担いだオヤジが肩を組んで店を出て行く。
「そうよね」
目を合わせて笑いあい、もう一度乾杯する。そして互いに酒が進み最近の出来事を話しはじめる。
「へぇ、また使徒を倒したの!よかったね、これで本物の証拠になるじゃない」
「だといいな」
「依頼がたくさんくるかもね。忙しくなるんじゃない?」
「それは大変だな…」
「休みも大事よね。あ、そういえば。最近、怠け者がさらわれるって話があるのよ。知ってる?」
「知らないな」
「生徒の子達もよく話してるの。怠け者が突然居なくなることが多発してるって。何か起こる気がして」
「失踪事件か、誰も調べてないのか?」
「多分ギルドに依頼があると思う。もう動いてる人もいるでしょうね。少し前の吸血鬼の件でだいぶ人がいなくなってまたこれよ。大きい街って言うのも考えものよね」
吸血鬼の話は何度か聞いた、噛み跡がついた奴はもう一度吸血されるために自ら向かってしまうらしい。その失踪事件も似た出来事なのかもな。
「魔物の仕業か、ただの誘拐か」
「分からないよね」
その後も最近の町の事情を聞き、イザベラが家の話をし始める。
「私は発明家の家系に生まれたの。私のお父さんは魔石で動くゴーレムを作った。今までの命令しないとな動けないゴーレムと違う、意識を持って自律するのをね」
ゴーレム、こっちでの力仕事を助ける重機の役目を担ってる奴か。戦闘に使うやつもいるらしいがいちいち命令しないと動かない面倒な代物だそうだ。
「自律するゴーレムは聞いたことがないな」
「まだ完全じゃないそうだけどね。でもあれが完成すれば文明が進化するって言われてるの」
ロボットは俺がいた世界にもあったものだ。家事ロボットから戦闘用のロボットまで色々といた。あれは文明をより明るいものにしたはずだ。でもこの時代に必要なんだろうか…
「どう言う風に使われるんだ?」
「まだわからないけど兵員の増強に使われるって噂があるわね」
「そうなのか…」
初期型のロボット兵士は軒並みハッキングされて敵側に回ったことを思い出すな。俺の相棒はそのサルベージ品だったがよく働いてくれた。でも最後は一緒じゃなかった、あいつは今頃どうなったんだろうか…
「でも魔石ってのは魔力を流せば簡単に上書き出来るんだよな?それじゃ危険じゃないか?」
「そう、それをどうするかってのを考えてるそうよ。でも国に凄く急がされてるらしくて家にも帰ってこないの、何か怪しい気がするよね?」
「何か悪用されるかもってことか」
「戦争の準備かもって考えてしまうのは飛躍しすぎかな?」
「まあ、そんなものが完成したらそう言う使い道を考えるよな」
「そうよね」
「戦争するつもりがあるのかも分からんが… その…何かあるのか?」
「さぁ…」
「そうか…」
全くお互いに思考がネガティブだ。結局深く考えても仕方ないと言う結論に至り、この会は解散となった。
イザベラを家に送り自分も帰路につく。




